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5

――四半刻(約三十分)後

 ようやく城門をくぐる事が出来た俺達は、ローベルトの案内で大通りを歩いていた。

 彼の知る店で昼食をとるためだ。


「そういえば、この街の遺跡に潜ったんですよね?」


 歩きながら、ゲームのクエストを本当に行ったか尋ねてみる。


「ええ。あの時は本当に苦労しました……。四人で力を合わせて何とか乗り切りましたが、あんな思いはもうごめんです」

「最下層の地竜はやはり手強かったですか?」


 ついうっかり口にしてしまった。


「……よくご存知で。アキト殿、あなたは一体……?」


 ローベルトの目がすっと細まる。不信感を持たれたか? 遺跡内の敵の事に関しては、誰にも話していなかったのかもしれない。

 ……仕方ない。正直に、俺の身の上について話すか。


「俺は……異界人なんです」

「アキト様……」


 エルリアが俺の前に出た。かばおうとしてくれるのか。


「なるほど……。おっと、私には貴方をどうこうしようとするつもりはありませんよ。以前も異界の剣士に助けられた身だけにね。それに、アゼリア様に選ばれた勇者に剣を向ける事など恐れ多い……」

「異界の剣士……やはり、事実だったんですか」

「ほう……その事もご存知で」

「ええ。実は……」


 俺はこの世界に来た経緯とゲームについて、かいつまんで話した。ローベルトはある程度は理解してくれたようだった。


「……わかりました。私もエルズミスまで共に参りましょう」

「いいんですか?」

「ええ。私も大神殿へ向かう所ですし」


 そうして俺達に、心強い味方が加わる事になった。



――オリーブの樹亭

 俺達はローベルトなじみの店で昼食をとっていた。

 前菜として出されたチーズやナッツをつまみつつ乳白色の酒を飲んでいると、薄焼きパンに羊肉を挟んだものが運ばれてきた。ケバブっぽいな。あとはトマトなどのサラダにヨーグルト風のドレッシングをかけたものだ。

 そういえば、中世オリエント〜東ヨーロッパあたりに似た文化なのにトマトがあるな。

 聞いてみた所、数百年前に南方から持ち込まれたそうだ。

 これまた妙な所で地球とにてるな……。

 そういえば一つ、気になる事も聞いた。

 農作物などの新たな品種がここ十年ほどの間に多数市場に出回っているとの事だ。確信は持てないが、もしかしたら地球からの転移者が関わっているのかもしれない。

 その事を告げると、ローベルトは複雑な顔をした。

 もしかしたら、彼も何か知っているのかもしれない。


「そういえば……あの剣士は一体何者なんです? 俺の世界の人間ではないようですが……」

「そうですね……」


 ローベルトは言いよどみ、思案する。

 そしてしばらくして口を開いた。


「彼は、この世界によく似た場所から転移してきた様です」

「……つまり、ここと俺のいた所以外にも、平行する世界があると」

「ええ。彼は、神隠しにあった人々を探す為にこの世界にやって来た様です。そして転移直後、セルキア神殿で出会った王女エレーネの願いを受け、勇者に協力する事になったと聞きました」

「そうか、あれはエレーネだったのか」


 第一王女エレーネ。後に勇者ヴァルスの妻となる人物だ。


「ア、アキト殿!?」

「いや……失礼。実はおとといの夜に夢を見まして……」


 俺は夢の内容を語った。



「なるほど……そうでしたか」


 ローベルトは額の汗をぬぐい、うなずいた。


「そういえば、セルキア神殿っていつ破壊されたんです?」

「そうですな……いつの間にか、ですね。魔王の手の者により破壊されたという噂もありましたが、はっきりとは……」

「じつは、今朝別の夢も見たんです」

「ほう……」

「おそらくは異界の騎士が転移してくる少し前のことでしょう。その時点では、まだ神殿は破壊されていませんでした」

「どんな夢だったんです?」

「ええ、それは……」


 俺は今朝の夢をかいつまんで話した。



「まさか、魔王が天空神とは。それに、マヤ様の誘拐にそんな裏があったとは……」


 俺の話を聞いたローベルトは腕を組み、天井を見つめた。

 マヤ……当時の姫巫女エルマーヤの事か。


「もっとも、夢で見ただけですからどこまで事実かはわかりませんが……」

「いえ、おそらくほぼ真実と言って良いでしょう。魔王は……いえ、天空神アルジェダートは当時の姫巫女であるマヤ様を救う側であったと。そして何らかの意図を持ってマヤ様を魔王城へと連れ去った……」


 ヴァルスは当初エルマーヤを姉のように慕っていた。もしかしたら、勇者の打倒魔王へのモチベーションを高めるために連れ去ったんだろうか?


「そして、神殿を破壊した、ということですかね?」

「……分かりません。そういえば異界の魔物が現れたのは、マヤ様誘拐の直後の事でした。おそらく出現地点は、セルキア神殿のあたりではないかと思われます」

「破壊したのはそいつの可能性もありますね。そういえば、イルムザールは異界の魔物と戦って亡くなったんだっけ?」


 エルリアに話を振る。


「ええ。イルムザール様は何者かとともに異界の魔物に立ち向かい、戦死されたと言われています」

「何者かと、か……。俺の知る情報では、イルムザールは魔王配下の魔将ヴォルザニエスと戦い、相打ちとなったという事でしたが……」

「ヴォルザニエス、ですか。魔王配下である上位悪魔の一人。戦死後イルムザール様と共に何者かに操られ、我々と戦った……」

「何らかの事情でイルムザールはヴォルザニエスとともに異界の魔物と戦い、そして死んだ。その事実は魔王サイドには伝わっていなかった、ということか……」

「何故そう言い切れるんです?」

「いえ……なんとなくですよ、なんとなく」


 俺は曖昧な笑みでごまかした。


「そうだ。イムザという人物はご存じないですか?」


 俺は無理やり話題を切り替える。


「イムザ、ですか? 存じませんな」


 と、ローベルト。

 あら? にべもないな。


「そうですか……。俺の前世がそういう名前だったかもしれないんですよ」

「……ほう?」

「どうやら俺は、元々この世界の人間だったらしいんですよ。そして魔王戦役で命を落とし、異界へと転生したようなんです。そのせいか、この世界を織り成す運命の糸が俺の魂に絡んでいるとの話でした。でも……無名ってことは、たいしたこともできずに死んだんでしょうね」


 俺は苦笑して見せた。


「イムザ、ね……イ……ムザ……か」


 しかし彼は口中で何事か呟きつつ、考え込んだ。

 俺はおもわずエルリアと顔を見合わせた。

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