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4

――街道

 関所を越え、俺達は街道を進む。カデスからアズレルは11ラン(約44km)。エルズミスまでの残りは9ラン(約36km)ほどということか。

 順調にいけば、今日中にエルズミスに到達できるだろう。

 順調にいけば、だ。

 ……いや、余計なこと考えるのはよそう。

 噂をすれば影、ということになったら厄介だ。

 とにかく何事もなく聖地にたどり着くことを考えよう。



 街道を進む途中、何組もの旅人と行き違った。

 どうやら大神殿への巡礼の帰りらしい。姫巫女と大司祭が不在であっても、訪れる巡礼者は途絶える事はないようだ。

 と、俺達の前方遥か彼方に、巨大な石造りの建造物が幾つか見え始めた。

 水平線や地平線の彼方から上がってくるような地球上の見え方とは違い、ただ単に視力の限界のせいで見えなかっただけという感じだ。多分望遠鏡を持っていれば、もっと遠い距離からあの建物を見ることができただろう。

 エルリアの言によれば、やはりこの世界は平面状らしい。

 だからずっと盆地の中にいたような錯覚をしていたわけだ。

 それにしても、いまだに慣れないな。さっき川を渡ったが、高いところに水が流れていくようにも見えてしまう。

 海が見える場所に転移していたら、その直後は軽くパニック状態になっていたかもしれん。水平線の位置が地球よりもかなり高くなるわけだがらな。

 そういえば、その海の向こう……この世界の果てはどうなっているんだろうか? その裏面は?

 この世界の神話によれば、この大陸を囲む海の外縁は円形であるとのことだった。そして海と大地を覆うようにドーム状の天蓋がかぶさっているそうだ。そして太陽や月、星空はそこに映し出された映像だといわれているらしい。

 ゲームでも同様の設定であった。この辺の設定は宗教的な世界観を参考にして作ったものだと思っていたが、どうやらこの世界の姿を反映したものであるようだ。

 もしかしたら、この世界は地球に“重なり合う”形で存在しているのかもしれない。天蓋から見える星空は、地球から見たものとほぼ同じものであった。つまりあの天蓋は、別の空間の光景を映し出す“窓”なのだ。

 ……はたしてあの天蓋の外を飛行機などが横切ったらどうなるのだろう? いや、この世界を横切ってしまったら?

 興味は尽きないところだ。



「もう少しでアルマーナです。トゥランティア帝国の南の都として造られた都市といわれています」


 エルリアの声。

 古代都市アルマーナ。帝国時代は人口50万人を超えたという大都市。

 その郊外には多数の遺跡が存在している。

 ゲームでは、勇者の一行が試練を受けるためにその一つに潜っていた。最下層ボスの地竜には苦戦したな、そういえば。

 現状はどうなっているのやら。各階層のボスが倒され、また大神殿の権威が失われた現在、遺跡荒らしに荒らされ放題という可能性もあるか……。

 だとしたら寂しいモノだ。



 遺跡群が近づいてきた。

 なかなかの威容だ。巨大な神殿と石像。大がかりな堀に囲まれた宮殿跡……

 勇者達は宮殿地下にある迷宮に潜ったわけだが、実際に存在するんだろうか。

 マップはほぼ頭の中に入っているので、隠された迷宮の入り口ぐらいは見つけられる気がするが。

 ……寄り道してる余裕はあまりなさそうだから、残念ながらスルーだ。

 しばらく行くと、今歩いている道に西方からの街道が合流した。こちらの道を行けば、旧リーマス領へと行く事が出来るのだろう。



 そして正午を半刻ほど過ぎたあたりで城門にたどり着いた。カデスやアズレルあたりと比べても、かなり立派だ。さすがは一万年もの歴史を積み重ねてきた旧都といったところか。

 城門の前には長蛇の列。

 やはりそのほとんどが巡礼者らしい。

 俺達二人は馬を引き、その列の最後尾についた。


「ちょと時間食いそうだね」

「そうですね。大陸西方からも巡礼者がやって来ますから、どうしてもここは混んでしまいます」

「なるほどね……」


 大陸西方か。ルーミス共和国が滅んで以来、小国が乱立したりと混乱が続いているらしいが、ようやく最近統一の兆しが見えてきたそうだ。

 東の大国が滅んだと思ったら、西に新たな大国が出現するのか。

 しかも、その事態に大神殿に姫巫女は不在であるわけだ。

 新たな戦乱の種にならなきゃいいけど。

 ともあれ、エルリアが騎士団を抜けて本来の姫巫女に戻るのなら、左右両大国を抑えてきた大神殿の権威が復活するのかもしれない。



 そこから十分ほど。さして列は動かない。

 ……しかし、長いな。

 気長に待つしかないか。エルリアは姫巫女の威光をひけらかしたりするのは嫌みたいだし。


「やあ、あなた方は先刻の……。お元気そうで、何よりです」


 と、その時一人の僧侶に声をかけられた。

 四十代後半と思しき、身なりのいい僧服の男。黒褐色の髪を総髪にし、顔立ちは鋭角的で端正。身長は俺よりも5cmほど高い程度だが、肩幅や胸の厚みはかなりのものだ。

 そしてその姿は見知ったもの。先刻、俺達を助けてくれた旅の僧侶だ。

 そういえば、名前を聞いてなかったな。


「助かりました。ありがとうございます。俺はワタリ・アキトと申します。ずいぶん徳の高いお方と思いますが……あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ワタリ、か……」


 彼のつぶやき。異界人の名だから聞きなれないのかもしれない。


「拙僧はしがない修行僧ですよ、アキト殿」

「ご冗談を……あの怪我を一瞬で治すほどの力の持ち主ですよ。さぞや名のある……」


 と、俺は彼の持つ錫杖に目を奪われる。昨日は全く気づかなかったが、これは……

 先端部には翡翠色の宝石がはめ込まれ、それに噛み付く蛇――あるいは竜――が絡みつくような彫刻がほどこされている。しかしその装飾はそれほど華美ではない、あくまで実用本位な杖。だが、そこに込められた“力”は……

 ああ、アレだ。そんなアイテムに心当たりがあった。


「それはカルドストルの杖⁉︎ ……まさか、あなたは……」


 思わずつぶやいてしまった。

 カルドストルの杖。それは、宮殿地下の迷宮に長らく封じられていた宝杖。それを持つのは勇者と共に戦った英雄、大司祭ローベルト。

 そういえば、ゲーム中だと女たらしの優男だったな。もしかしたら連れ込み宿云々の発言は、冗談ではなく……。

 俺の隣でエルリアが硬直していた。


「ハハ……バレてしまいましたか……。左様、私がローベルトです」


 彼は苦笑を浮かべると、声を潜めて答える。

 こういう場所でバレてはまずいのだろう。思わぬ失態だ。


「すいません。つい口に出してしまって……」

「いえ、大丈夫ですよ。誰にも聞こえていなかった様ですし。それに、まさかこの杖の正体を知っている方がいるとは思いませんでしたよ」


 カルドストルの杖。

 それは、ゲーム中では散々お世話になった(アイテム)である。

 戦闘中のメニュー中の『どうぐ』コマンドで使うと、上位の回復呪文である“大癒”の効果がある便利なアイテムだ。

 この杖から感じる“力”なら、リアルでもそれくらいのことはできそうだな。


「どちらに行かれるのです? やはりエルズミス?」


 とりあえず、そう問うてみる。


「ええ。ご存知のように、姫巫女は騎士団に連れ去られておりました。これ以上現状を放置すれば、大陸の安定を保ってきた大神殿の力は衰える一方です。その対処をせねば……と思っておりましたが、姫巫女様も神殿に戻られるようですな。しかも、新たな勇者殿を伴って」

「いえ、俺は……」


 地球に戻らねばならないのだ、と言おうとしたが、伝えてよいものか。


「良いのですよ。新たな勇者が現れたという事実が重要なのです。アゼリア様がまだこの地を見捨てていないという証ですからね」

「そうなんですか……」

「そういえば、姫巫女様も騎士団を離脱されたようですね」

「ええ。降臨されたアゼリア様から、直接アキト様の守護者となるように命じられました」


 彼女はそっとマントの前を開き、アゼリアの紋章を見せた。


「おお……やはりアゼリア様が降臨されたのは事実なのですね。その事実だけでも我らにとっては心強いものです」


 彼はその紋章に向かって印を切った。

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