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「来るぞ!」

「はい!」


 俺は剣を構え、“力”を呼び起こすべく精神を統一する。

 一方エルリアは剣を抜きつつも左手で結印した。


「カカカ……ゆくぞ!」


 ヤツの槍が、俺に向けて繰り出される。


「!」

 サイドステップで回避。だが、ヤツの動きは予想以上に速い。間一髪。

 息つくヒマもなく、右腕の剣が振り下ろされた。


「ぐっ……うおっ!?」


 その一撃は、剣で受けた。だが、すぐさま足をすくわれる。槍だ。

 俺は無様に尻餅をついた。そこにヤツが剣を振り上げ……


「チッ……」


 とっさに身動きが取れない。


「“神雷”!」


 エルリアの電撃がヤツを撃つ。

 だが、


「ケハァッ!」


 気合い一閃。ヤツの直前でかき消された。


「そん……な……」


 うろたえるエルリア。

 当然か。俺とコイツで二度目だもんな。

 だが、隙は出来た。お返しだ!

 ヤツの足元に、スライディング気味に蹴りを入れた。


「ぐおっ!?」


 その一撃で、ヤツはよろめく。もう一発とも思ったが、槍を杖に立ち直った。


「ちっ……」


 俺も立ち上がり、剣を構える。

 あの槍が厄介だな。正直対処法がわからん。

 それにもし穂先をかいくぐって懐に飛び込んでも剣がある。どうしたものか……


「仕掛けます」


 エルリアが前に出た。


「ふん……未熟者が。我から一本も取ったことのない未熟な剣で、どう戦うというのか」


 エヴノは嘲るような笑みを見せた。


「わ……私はアゼリア様直属の騎士! この鎧にかけて、貴方を倒します!」


 かすかに震えてはいるものの、力強い声で彼女は宣言した。


「アゼリア、か……。ふん。あの様な使徒もどきなど、我が主人(あるじ)ファルグス様の前には到底太刀打ちできぬわ」

「ファルグス……第十三使徒か。その詳細についてはゲームで語られていないが……」

「ふん……小僧、ファルグス様の名を知っているか。まぁ良い。ここで滅びるからな」

「待ってください。アゼリア様が使徒もどきとはどういう事です? 第十三使徒など……」

「使徒アゼリアは、魔王ユーリルと化した元第一使徒アルジェダート同様、地に堕ち穢れた為に、放逐されたのだ」

「そんな、まさか……」


 エルリアは愕然としている。自分を選んだ女神が、もはや堕天使のごとき存在だったと知らされたから、当然か。

 それにしても、魔王ユーリルが元第一使徒とはな。堕天のきっかけは天界への叛意か? それとも……

 ゲームを思い出す。魔王は光と闇、法と混沌の天秤に均衡をもたらすために戦いを起こすと宣言していた。

 もしかしたら、世界の破滅を避けるためにあえて天より堕して魔王となったのだろうか。

 この1万年間、光が勝れば魔王が軍を起こし、闇が勝ればアゼリアが勇者を選び出し、魔王を討たせていた。

 この両者はそうして世界の均衡を保ってきたのか。

 しかし、異界より召喚された剣士が介入したために勝者となるべき魔王が敗れ、光の時代が続いてしまった……。

 しかし、妙だ。

 だとすれば、なぜアゼリアは異界人狩りを止めたのか。そしてなぜ俺達の世界にいたのか?

 そして俺やゲームの作者といった、転生者の存在。

 アゼリアは転生した“誰か”を追って地球へやってきた。それは、アゼリアと親しかった人物。大陸に古くからある土着の信仰において地母神アゼリアの夫は、存在自体が不確かな神、天空神アルジェダートだとされていた。

 そうか。先生の言っていた「あの人」とは……


「エルリア、何を迷うことがある? アゼリア様が何者であれ……エルリアを選び、力を託したんだ」


 詭弁なのはわかっている。だが、声をかけざるを得なかった。


「分かり……ました」


 彼女は再び剣を構える。


「仕掛ける!」


 彼女にアイコンタクト。そして同時に斬りかかる。


「フン……」


 ヤツは両側面からの同時攻撃を、たやすく受け流す。そして、鋭い反撃。

 それを受けるのが精一杯だ。

 技量もあるが、新たな腕の力が凄まじい。聖剣でなければ、剣ごと叩き斬られていた。それはエルリアも同様だ。祝福を受けた鎧でなければ、それごとズタズタに斬り裂かれているだろう。

 くそっ、何か打開策は……

 ローキックも見切られた。高Lv相手には通用しないか。おそらく組み付くのも自殺行為だろう。あの腕は、容易に俺を引き裂く。

 本来であれば、もっと密にエルリアと連携をとって攻撃を仕掛けるべきなんだろうが、俺の実戦経験不足ゆえに難しい。

 このままじゃ、ジリ貧だ。

 エルリアの顔にも焦りが見える。すでに数カ所、鎧に守られていない場所に傷を負っているようだ。まだ浅いようだが、このままでは……

 どうする?

 鋭い突きをいなしつつ、策を考える。エルリア側は二本の腕で槍を操っている。一方こちらは一本だ。どうやら脇固めで、本来の腕の肘を痛めたせいだろう。うまいことこっちで突破口を開けば、後はなんとかなる……ハズだ。

 首を狙った一撃を、頭をすくめて回避。どうやらこの新しい腕は、パワー重視で器用度は低いようだ。

 すかさず踏み込みつつ剣を絡め、左腕で腰のナイフを抜いた。カデスで手に入れたものだ。

 そしてそれをヤツの首……いや、肩あたりをめがけ、振るう。

 だが……それは受け止められた。

 元からあった右腕が、俺の左手首を掴んでいた。


「しまっ……」


 俺のミスだ。あの腕はほとんど使い物にならないと思い込んでいた。そして何より……首を刺す――致命傷を与える――ことをためらってしまった。


「アキト様!」


 エルリアの声。彼女は俺を救おうとエヴノの間合いに踏み込み……


「ダメだ!」


 俺の叫びが間に合うはずもなく、彼女は太ももに槍の一撃を受けてしまった。鮮血が迸る。


「あ……あぁ……アキト……様、逃げて……」


 彼女はくずおれ、呻くのみ。


「エルリア!」


 血の気が引いた。

 ヤツは槍を構えると、倒れたエルリアの首に狙いを定め……

 このままではエルリアが死ぬ。

 それだけは……それだけは、止める! たとえ、この手を汚しても……。

 反射的に膝蹴りを放っていた。それはヤツの鳩尾に命中し、突き上げた。


「ゲケッ⁉︎」


 ヤツは俺を離し、後退した。


「エヴノォォ! ……赦さねぇ!!」


 俺のものとは思えない咆哮。

 無意識のうちに丹田の奥にある“そこ”を“ひねって”いた。

 あふれる“力”。聖剣の輝きが増した。


「……おぉ!」


 叫びざま、力任せに剣を振るう。

 しかしヤツは、剣で受ける。だが“力”の乗った一撃は、その剣をたやすく打ち砕いていた。


「グケェ!」


 しかしヤツは無理やり両の右腕で聖剣を抱え込んだ。二つの腕が、聖剣の光に灼かれていく。だが、その腕に変化が現れた。その表皮はさらに硬化・変形していき、甲殻類の(はさみ)のような姿になった。


「ケハァ!」


 そしてヤツは剣ごと俺を振り回す。ジャイアントスイングか。

 二回、三回と俺を振り回し、加速のついたところで俺を投げ飛ばす。

 俺は樹に叩きつけられた。

 叩きつけられる瞬間、背中側に“力”を集中したためにダメージは軽減できたが、それでも一瞬呼吸が止まる。


「ッ!」


 無理やり身体を起こし、口中に上がってきた血を吐き出す。叩きつけられた衝撃で、肺かどこかにダメージを負ったのかもしれない。


「!」


 直後、ヤツが槍を構えて突進してくる。

 横に飛んで回避。紙一重だ。叩きつけられた樹が、鋏によってヘシ折られた。

 あぶねぇ……。

 慌てて跳ね起き……

 だが、間に合わない。

 逃げ遅れた俺は、ヤツの鋏状の右腕二本で掴まれてしまった……。

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