表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/114

4

――街道

 カデスを出発した俺達は、次の街を目指していた。

 多少馬には慣れてきたせいか、昨日よりも進みは速い。……とはいえ、尻が痛いのには変わりがないが。

 街道周囲の光景は昨日とそれほど変化はない。

 いや、若干起伏は増えてきたかな。だが、相変わらず盆地の中だ。木立などはあまりなく、遠方の山々もよく見える。

 乾燥地帯ほどではないにいても、乾燥した気候にありがちな光景かな?

 ん? そういえば、こういう窪んだ地形は水が溜まりやすいから、湖なんかがありそうだけど……見かけないな。そこまで乾燥しているようには見えないんだがな。

 なんというか、まるで平面の上にいるような……

 ゲームだと平面状の世界だったけど実際はどうなのだろうか?

 この辺は、あとでエルリアに聞いたほうが良さそうだな。



――先刻

 結局あの後エヴノ達は、駆けつけてきた衛兵に取り押さえられた。

 いずれ騎士団への抗議と賠償請求が行われるとのことだ。

 無視されるかもしれないとエルリアは言っていたが、どうなることやら。

 その場合、あの連中が働いて返すことになるだろう。

 あの後、俺達を探していると思しき衛兵達を見かけたが、それはスルーさせてもらった。

 勇者と姫巫女を招くつもりなのかもしれないが、先を急いでいるからな。昨日の件で、タイムロスしてるし。

 それにしても……あの脇固めは、イヤな音と感触だったな。

 喧嘩で多少相手に怪我させたりとかはしたことはあったが、あんな傷を負わせたのは初めてだ。もしかしたら、後遺症が残るかもしれない。

 総合格闘技なんかで禁止されてるだけはあるか……

 それはともかく……今回だけの話じゃない。

 もし敵対してくる相手が俺を殺すつもりで襲ってきたら……俺はまた戦えるのだろうか。

 相手を死に至らしめるような攻撃を加える覚悟がはあるんだろうか?

 いや、覚悟をしなければならない。

 油断すれば、俺の死が待っている。

 そして、エルリアもな。

 俺がためらったせいで彼女が重傷を負ったり、最悪死ぬことがあってはならない。相手によっては……悲惨な目にあわされる可能性もあるだろう。

 それだけは絶対に避けねば。



――そして、現在

「アキト様……」


 エルリアの声。


「あまり気になさらない方が良いですよ。先に手を出したのはあちらですし。……それに、治癒魔術がありますから、そんなに大事にはならないでしょう」

 俺を気遣ってくれるのか。彼女自身も、辛いだろうに……。


「そうだね」


 ……それよりも重要なことを考えたほうがいいな。


「次の街まではどれくらい?」

「そうですね……この近くにリコートという名の村があります。そこで昼食を食べましょう」


 リコート、か。ゲームにはなかったな。おそらくは小さい村だから省略されたんだろうな。あるいは、最近出来たのか。

 周りを見渡せば、遠方に羊の群れらしきものが見えた。

 街道沿いには畑らしきものもある。

 イネ科っぽい葉だ。チラホラと穂が出始めてるな。麦か何かかな?

 こういうモノがあるってことは、人の生活圏に入った様だな。

 そして街道の先に、石壁で囲まれた村落が見える。


「……あれかな?」

「ええ。恐らくはそうでしょう」


 とりあえずここで一服だ。



――リコート村

 エルリアの言によれば、この村の人口は千数百人ほど。十数年前までは、もっと小さな宿場町だったらしい。

 なるほど……。ゲームで割愛されるのも、仕方ないか。

 だがガンティール王国の崩壊後、人口の流入があって現在の規模になったとのことだ。この村を囲む石壁には拡張をした跡が見受けられるし、そのあたりには新しく建てられたと思しき家が並んでいた。



 俺達は、村の中央にある小さな宿の食堂で昼食をとることにした。

 豚肉をニンニクと酢で煮込んだシチューはカレーっぽい味付けだ。

 それともう一つの料理はピラフだった。

 久々の米飯である。インディカ米のような米だが、これはこれでいいものだ。

 そしてて食後にはデザートが出された。

 プリンのようなケーキだ。

 美味しいが、俺にはちょっと甘すぎる。半分エルリアにあげたら、喜んでいた。甘いものを食べるエルリアは幸せそうでいい。騎士団では禁欲生活を強いられていたために、こうしたものを食べる機会はあまりなかったとか。



 食後、出されたチャイっぽいミルクティーを飲みつつくつろぐ。

「次の目的地はアズレルって街だっけ?」

「ええ。国境の町アズレル。カデス同様の城塞都市です。そうですね、ここから二刻弱といった所でしょうか」

 この世界の時法だと、一刻で約二時間だったはず。だから、あと四時間弱か。

 昨日よりはマシとはいえ、また尻が痛い。座布団でもどっかに売ってないかな。この年で痔はイヤだ。

 今の時間は正午ぐらいだから、向こうに着いたら四時過ぎ、と。今晩はアズレルで泊まりかな。国境の町ということで、色々手続きもあるかもしれんし。



――街道

 村を出て、また街道をゆく。

 のどかな光景が続いている。

 時折行商人らしき人々と行き交うぐらいで、変化に乏しい。前方に森が見えるぐらいかな? ちょっと飽きてきた。

 とはいえ、あの悪魔や騎士団みたいな連中の襲撃はゴメンだ。

 俺の目的は平穏無事に聖地まで行き着き、地球へ帰ることだ。血湧き肉躍る冒険じゃない。

 ……聖剣受け取ってしまったけど、これは自衛のために使えってことだよな? 何か魔物を征伐しろってことじゃないよな?

 イヤな予感もしないでもない。

「アズレルの名物は香辛料の効いた鳥肉料理ですよ」

 つい考え込んでしまっていた俺を気遣ってか、またエルリアが声をかけてくれる。

 ……彼女に助けられてばかりだな。

「そうだね。夕食が楽しみだ」

 俺は顔を上げ、前を見据えた。

「ん?」

 と、黒い巨大な影が高速で地上を走り抜けていく。

 あの魔物かとも思って身構えたが、上空を見てもそんな姿はない。

 気がつけば、すでに影はいずこかへ去っていた。とてつもないスピードだな。

「あれは“影の鳥”ですよ」

「“影の鳥”?

「造物主によって異界に放逐された、龍を食らう巨鳥がこの世に残した影と言われています。あくまでも、市井での伝承に過ぎませんが……」

「巨鳥か……」

 ワイバーンとかロック鳥、翼竜っぽいヤツとか大型の飛行モンスターならゲームにも登場してたけど、さらにデカいのがいたのか、この世界には。

「影だけで助かったよ。ここじゃ隠れる場所もないしね」

 俺は肩をすくめて見せた。



 そこから一刻程。

 街道は森の中へ入っていった。

 森といっても日本にある雑木林みたいに鬱蒼としたものではない。マツかモミの木みたいなのがややまばらに生えているだけだ。

 ヤブ蚊でもいたらイヤだなと思ったが、そういうのには襲われなかった。

 病気でも貰ったら大変だ。もし地球に異世界の病気を持ち帰りでもしたら、下手すりゃ治療法が無いという事態にもなりかねん。

 この世界の治癒魔法は病気も効果はあるらしいが、注意しておくに越したことはない。

 そういえば、逆も然りか。

 転移した時点で、俺は変な病気に感染してはいなかった……ハズだ。多分。



「アキト様……あれを」

 そこからまたしばらく進んだところで、彼女が宙の一点を指差した。同時に俺も“嫌な感覚”があった。

 彼女の指差す先、そこには何か翼あるものが飛ぶ姿がある。

 距離があるため詳細な姿は分からないが、かなりの大きさだ。今度は実体のあるやつか。

 まさか……あの悪魔か。

 どのみち厄介な相手なのは確かだ。

「隠れたほうがいいかな?」

「ええ。そうしましょう。やり過ごせれば良いのですが」

 俺たちは街道をそれ、森の中へと歩を進めた。



 森の中を進むこと四半刻(三十分)弱。

 体感時間だから、実際はもっと短かったかもしれん。

 木立越しに見える影が姿を消した。

 飛び去っていったようだ。


「どうやら行ったみたいですね」


 彼女はほっとした顔だ。

「そうだな。でも、戻ってきたら厄介だから、もう少しこのまま進んだほうが良さそうだね」

「そうしましょう」

 そう言葉を交わした時、

「!」

 身の毛がよだつような“嫌な感覚”があった。

「何でしょうね、今のは」

 エルリアも感じたようだ。

「分からん……。だが、ずいぶんと“嫌な感覚”だ。多分アレは……危険だ。このまま真っ直ぐに進むのはマズいだろうね。うまいこと迂回しないと」

「場合によっては街道を横切って、反対側の森を進むのも手ですね」

 エルリアが馬を停め……俺もなんとか停めることに成功した。

 と、いうよりもかすかに馬が怯えているようだ。

 俺達は馬首を巡らし……

 直後、

「……来る!」

 “嫌な感覚”が急激に増した。

 木々の間を縫うようにして、何か黒い塊が急激に近づいてくるのがわかる。

「アキト様!」

 エルリアの声。

「!」

 俺は反射的に剣を抜き、その黒い塊に斬りつけた。

 手ごたえあり。

 だが、その影は反転し、馬上の俺めがけ……

 しかしその時、俺は馬上にはいなかった。いち早く飛び降りていたのだ。……正確に言えば、バランスを崩して落ちただけだがな。ま、馬上で剣を振るうなんて高レベルキャラの真似事すれば、そうなるよな。

 痛めた場所はない。素早く立ち上がって剣を構え、馬から降りたエルリアとともに襲撃者と相対する。

 その姿は、鎧を着たヒトのようにも見えた。しかしその背には皮膜で覆われた翼があった。その左側の翼の先端部が斬り落とされている。先刻の一撃が当たったのはそこか。左腕には槍。そしてその顔は……

「お……エヴノ隊長!?」

 エルリアが叫ぶ。

 そう、あの騎士団の隊長である。

 しかしなぜだ? 今朝までは、少なくともただの人間だったはず。それがなぜこのような姿に?

「カカカ……。今朝の屈辱、今返させてもらう」

 ヤツはニヤリと笑った。

 そして、ヤツの全身から邪悪な瘴気が立ち昇り……

「ああ……」

 エルリアが震えた声をあげた。

 当然だろう。アレは悪魔に近しき存在。決して神に仕えるモノじゃない。

 ……いや、神と悪魔は紙一重かもしれんが。

 そんなこと考えてる場合じゃないな。アレを倒さねば、俺達は……。

 聖剣を握りしめる。エルリアも震えつつ、剣を構えた。

「カカカ……よかろう。まとめて天誅を下してくれる。我に与えられた使徒の力を見よ!」

「……!」

 ヤツの魔力が一気に膨れ上がった。その身体がひとまわり大きくなったような錯覚に襲われる。

 そしてヤツの翼が変貌を始めた。

 軋むような音を立て、翼の骨が、筋が形を変えていく。そして姿をなしたのは……

「腕、だと?」

 その新たな腕は、甲殻類のような外甲で覆われていた。

 新たな右腕は指の生えそろった人間の腕に近い形となる。その対となる側の左腕は、鋏状の腕となった。先端を失ったためか。

 そしてヤツは新たな右腕で腰の剣を抜き、そして左の両腕で槍を構えた。


「行くぞ……神を恐れぬ愚か者どもよ!」


 ヤツは俺達を睥睨し、宣言した。

用語解説など

・魔導石

 精神の力を物理的な力へと変換する鉱物。『虚空そらの深淵』におけるジオクリスタルと同一の物質。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ