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「わぁ……すごいです。こんな世界があるのですね!」


 写真を見せるたびに彼女は瞳を輝かせた。

 うっかりネットで拾ったヘンな画像を見られてしまい、彼女の表情がこわばったりしたが。


「……ま、こんな感じの世界だよ」


 とりあえず彼女も満足したようなので、スマホをしまう。電池も限りがあるしな。

 それよりも、だ。


「少し、この世界のことを教えて欲しいんだ。あの悪魔みたいな連中のこととか」


 とりあえず、敵を知らねばどうにもなるまい。


「悪魔、ですか……。あれは魔族の中でも上位の存在です。強靭な肉体と膨大な魔力を兼ね備えた難敵、といったところでしょうか」


 やはり難敵、か……。最悪、そんなヤツと戦わねばならんのか。


「そういえば、魔族って?」

「魔族は……造物主により天地が創造され、地上に光が満ちた際に、地に落ちた人族の影から生まれた者といわれています。人族よりも寿命は長く、また魔力も強大で身体能力も優れたものを持っています。しかしその一方で、出生率は人族よりもかなり低くなっています」


 なるほど。一応バランスは取れているわけだ。長命の種族の出生率が高かったら、この世は魔族で溢れてしまう。


「やはりさっきのは、魔王戦役の生き残りなのかな?」

「その可能性もあると思います。魔王戦役終結時点でも魔族側が圧倒的優位な状況でしたので、幹部級の実力者は相当残っているはずです。魔王が倒れた時点で魔王軍の本体は地上から引き揚げましたが、まだ多数の魔族が居残っています」


 勇者と魔王の直接対決は、勇者がエルズミス大神殿の地下にある地下迷宮を通り、魔王本陣に奇襲をかける形で行われた。暗殺同然だな。頭脳が失われた時点で魔王軍の指揮系統が崩壊し、末端組織が地上に居残ってしまったのか。


「あの悪魔は、地上の居残り組か。時々ああやって街を襲っているのかな?」

「いえ……あのクラスの魔族は地上戦役終結以後、ほとんど姿を見せていませんでした」

「それが、今現れた……。アゼリア様の帰還や俺の転移と関係があるのかな?」

「……わかりません。前例のないことですから」

「前例がない?」

「ええ。かつての魔王戦役では魔王側が敗れた場合、少なくとも千年近くはほとんど地上には上位魔族は現れません。しかし今回は、上位魔族も地上に居残っているようなのです」

「今回が例外という事か」

「ええ。本来であれば、今は闇の千年紀のはずなのです。ですが、魔王が倒れ、勇者が勝ってしまった……」

「勝って『しまった』!?」

「ええ。本来であれば勇者は破れ、光の千年紀が終わって地上は闇に包まれるはずでした。一万年前に魔王が地上に現れて以来、千年ごとに光と闇の時代が繰り返されてきたのです」

「一万年前に魔王が降臨して世界を闇に包み、その千年後に勇者が魔族を追い払って……と」

「ええ。今回は魔王軍が勝つはずの戦いだったのです」

「待った。それじゃ、勇者は生贄同然じゃないか……」


 その勇者を選ぶ神託を下したのは女神アゼリア。彼女は勇者の運命を知っていたはずだ。


「……勇者はその全てを知った上で旅立ったと聞いています。ですが……」

「もしかして、四人目の仲間か……」

「あの“剣士”ですか?」

「ああ。彼……かどうかはわからんけど、ゲームでは異世界の人間だった」


 ゲームでの設定では、地球から呼ばれたという設定だったな。


「! まさか、とは思うのですが……そのせいで運命が変わり、魔王が敗れたのかもしれません」


 彼女の顔がこわばった。何かを知っているのか?


「……勇者が敗れ、この地上が魔王の支配下に入るのは、一部の国の首脳にとっては既定路線でした。しかし、実際に敗れたのは魔王の側でした」

「……ちょっと待ってくれ。それならわざわざ戦う必要ないんじゃないか?」

「いえ……魔王は征服後、頑強な抵抗を示したものほど優遇するのです。かつて、魔王軍襲来と同時に魔王軍に恭順の意を示した国がありましたが……そこは無残にも滅ぼされました」

「なるほどね。強い相手を評価してくれるわけだ。ま、すぐに降伏するようなのは、身の安全のために同胞を裏切ったわけで……配下にしても信用はできないか。ま、それはともかく、魔王の敗北で戦後のプランが丸々ボツになってしまったわけだね」


 取らぬ狸の皮算用だった訳だ。まぁ、モメるもとだろうな。


「ええ。ガンデイール王国では王位継承の問題も発生しました。決戦の直前、勇者の妻となった第一王女のエレーネは、王位継承権第二位を持っていました」

「勇者が生き残ってしまったために、王位をめぐる争いが起きたのか」

「その通りです。魔王を倒した勇者の存在が、大きな問題となったのです。当時の国王、エドゥアルドは魔王戦役で負った傷が元で伏しがちであり、後継者の選定が急務でした。勇者が武勲をあげた一方、ち……いえ王位継承権第一位の第一王子エルガルドは内政型の人物であったために魔王戦役への表立った貢献はありませんでした。そのため、勇者こそ次代の王にという声が大きくなり、国内は二分されてしまったのです。元々第一王子と勇者は友人であり、当人達には対立の意思はなかったのですが、臣下の者達は各々の派閥に分かれて争い始めました」

「……よくある話か」

「ええ。元々権力を欲していなかった勇者は妻となった王女とともに王都を出奔、決着がついたかに見えましたが、国内には深い亀裂が残ったままでした。そこにつけ込んだのが、アルセス聖堂騎士団なのです」

「……あの連中か」

「……はい。騎士団は、魔王との決戦よりも天則の維持を重視していました。彼らは、天則を乱した勇者の追討を次代の王に要求し、それを受け入れた者を支持すると宣言しました」

「それで……どうなったんだ?」

「第一王子派はその要求を拒否しました。しかし……当時蚊帳の外に置かれていた王の従兄弟であるグリゴリーがその要求を受け入れることを表明、騎士団も彼を王位につけると宣言し……」


 そこで彼女は言葉に詰まった。その瞳から、大粒の涙が溢れる。

 そうか。彼女もまたその当事者だったか。


「いいよ、それくらいで……。気持ちの整理がついたら話してくれればいい」

「はい……」


 彼女は涙を拭い、力ない笑みを見せる。

 マズい。どう慰めたものか……。

 そう思う俺に、救いの手が差し伸べられた。

 宿の女将が夕食が出来たことを触れ回っている声が聞こえたのだ。


「……とりあえず、夕食にしよう」

「……はい。アキト様」


 彼女は小さくうなずくと立ち上がった。

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