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――城門前
城壁の前には水をたたえた堀があり、そこに扉に通じる跳ね橋がかかっていた。
そして扉に前には衛兵がおり、街に入ろうとする人をチェックしているようだ。
そして、チェック待ちらしき列がある。並んでいるのは20人ほどか。
俺達はその列の一番最後に並んだ。
待つ間にも、俺たちの後からやってきた人々が並んでいく。また、街から出ていく人もそれなりにいた。
地球で言うところの東洋人や西洋人、中東やアフリカ系など、様々な人種がいた。ただし、白人っぽい人達は、地球の白人ほど白くはなく、また黒人ぽい人も地球の黒人ほど黒くはなかった。
白人などよりもさらに彫りの深い人もいたが、あれはこちら独特な人種なのだろうか? なんというか……教科書に載ってたネアンデルタール人の復元図に似てるな。確かネアンデルタール人の絶滅は4万年から3万年前だっけ? この世界がいつから存在するかわからないけど、もしかしたら現生人類以外の人達も、この世界に転移しているのかもしれないな。
そういえばこの世界のモンスターに、マンモスやサーベルタイガーみたいのがいたっけ。実物を見てみたいものだ。無論安全な場所で、だが。
そして、おそらくは成人であるにもかかわらず、子供ほどの身長しかない人もいた。最初はなんらかの病気かと思ったが、複数見かけるところを見ると、どうやらそういう人種らしい。そういえば、ゲームの中にも小人族が出てきたな。レマウス族だっけ?
「ずいぶん人の往来があるんだな」
「ええ。大陸の東西を繋ぐ街道の宿場町ですからね。人口は15万人ほど。エルズミスやヴィラール、リーマスに比べると小さいのですけど、この大地有数の大都市です」
「ふ〜ん、そうなんだ」
「もうちょっと驚くかと思ったのですけど……」
「い、いや……ごめん。そりゃ驚いたよ」
「……」
エルリアがジト目で俺を見る。人口一千万を超す大都市の片隅に住んでる身としては、あまり大きな街という感じはしなかったが、やはりこの大陸の街としては大きい方なのであろう。
「あ、あの小さい人達はレマウス族だっけ?」
「ええ。南の方に住む亜人族です」
「なるほどね。俺のいたところには、ああいう人はいないからな……」
ゲームに出てきた主な種族は、人族の他には小人族、蛮族、海人族などの亜人種と、妖精などだった。
「そうなのですか?」
「うん。人族だけなんだ」
「妖精族などもいないのですか?」
「ああ、いないよ。そのかわり人族だけで、70億人以上いるんだ」
「ななじゅうおく……。住む場所無いのでは?」
エルリアはぽかんとした顔で俺を見る。神殿とこの町の距離から推定するに、この大陸の大きさはオーストラリアよりも小さいくらいか? 無論ゲーム城のマップはある程度ディフォルメされているだろうから、正確ではないだろうが。
「それはまだ大丈夫みたいだ。だいぶ手狭になりつつあるけどね……」
俺は肩をすくめてみせる。
そこで、俺達の番が来た。
「次!」
番兵が俺達を見やる。
その声に応じ、エルリアとともに番兵の前へ。
「身分を証明するものはあるか?」
「えーと……」
俺にはない。
どうしたものかと思案していると、エルリアが進み出た。
「私はアゼリア様に仕えるもの。そしてこの方もアゼリア様の使徒」
え? そうなの?
……そういえば、剣を受け取ったな。
「それを証明するものは?」
「これを」
エルリアがマントの前を開け、胸甲に刻まれた紋章を見せる。
「おお……その輝き、そして“力”。間違いなくアゼリア様のものだ。……疑うわけじゃないが、そちらの身分を証明するものはあるか?」
番兵が俺に視線を向ける。
「アキト様、剣を」
「ああ」
俺は剣を抜き、番兵に差し出す。
彼はそれを一瞥すると、居住まいを正した。
「ほう……これは使徒に与えられるという聖剣。良いものを見せてもらった。通ってよし!」
番兵は敬礼すると、俺達に進むように告げた。
俺はエルリアに習って礼を返すと、門の中へと進んでいった。
最低限、挨拶とかぐらいは覚えておいたほうがいいな。無用なトラブルは避けたい。
――市中
門から続く大通りは、行き交う人で賑わっていた。
「とりあえず、どこかで昼食を食べて休憩しよう」
とにかく腹が減った。慣れない馬での移動は相当体力を食う。普段使わない筋肉を相当酷使しているのだろう。明日はあちこち筋肉痛かもしれん。
「そうですね……あそこなどいかがです?」
彼女の指差す先にあるのは、ひときわ目立つ大きな建物だ。宿屋を兼ねた食堂なのだろうか?
そういえば、ゲーム中でも宿屋は大通りに面したところにあったっけ。もっとも、街自体は大幅に簡略化してあったから、あの宿がゲームのものと同一化は分からんけど。
「よさそうだね。こっちに来て、口にしたのは携帯食料だけだからな……楽しみだ」
いい匂いがただよってきた。ガマンできん。
足早に食堂に向かい……
ん? 何か見覚えがあるな。
看板脇に狼の像。そうか、ここだ。
「白狼亭、か」
ゲームで使う宿だった。
食堂の中は人でごった返していた。
商人や旅人、衛兵らしき人々。どうやらゴロツキっぽいのはいないらしい。一安心、といったところだ。
ちなみにゲームだと、勇者一行はこの店の中でゴロツキ相手に大太刀まわりを演じている。
なんとなく目にとまったのは、壁の傷跡。
まさか、実際にあったのか? もしかしたら、無関係な傷なのかもしれんけど。
それはそうと、俺たちが座れる席は……あった。
端のテーブルが空いたところだった。
俺とエルリアは店員に案内され、そのテーブルに着く。
ゲームで来たことのある場所に実際に入るのは、なんとも妙な気持ちだ。さすがに内部まではゲームで再現されてはいないか。
「アキト様は、この世界の文字を読めるのですか?」
椅子に座るやいなや、エルリアが問う。
看板のあたりを見て店の名を言い当てたからだろう。
「いや、読めるわけでは……」
と、言いつつカウンター横の張り紙に目をやり……ん? 読めるぞ?
「ちょっとならね。あれは……エールか」
あれ? おかしい。なぜ読めるんだ? 見たことない字なのに。いくら“繋がった”といっても……いや、そうか。
「もしかしたら、だけど……俺も、転生者かもしれない」
声をひそめる。
「! アキト様もですか?」
「確証はないけどね。でも、アゼリア様の言葉……『身体はこの世界の縁から拒絶されている。しかしその魂は、この世界に近しきもの』って言葉から考えると、それが自然だ」
あのゲームにハマった理由もおそらくはそれだ。熱心なファンの中には、そうした転生者が多いのかもしれない。
そしてあのゲームが作られた理由。それは転生者探しだった。……っていうのは考えすぎか?
だが、調べてみる価値はあるだろう。同じ転生者と知り合えるかもしれない。
……無事向こうに帰れたら、の話だが。
「やはり魔王戦役で、という事でしょうか?」
「多分ね。ゲームを作ったのも、俺と同世代らしいし」
「そう、ですか……」
彼女はそこで言葉を切り、笑みを浮かべる。
「おかえりなさい、と言うべきなのでしょうかね」
……そうか。
「そうだね。……ただいま」
俺は“帰って”きたのだ。




