25
――しばしのち
「さあ……行くぞ、二人とも。しっかり援護しろよ!」
『アッハイ』
『ハイ……』
『ご武運を……』
『アキトヨ シヌナ』
村長とディゴザに見送られ、俺とレライ、ロサナは飛び立った。
レライとロサナの目からハイライトが消えている気がするが……気のせいだろうさ、多分。
そして俺たちは空路、“塔”を目指した。
風を裂き、宙を飛ぶ。
――そして、しばしのち……
『そろそろヤツの攻撃範囲です! お気をつけて!』
レライの警告。
「ふ……む」
そちらを見、目を凝らす。……と、何やら“塔”らしきものが目に入った。
「……ッ! 見えたぞ……あれか!」
“遠見”を介し、遠方に姿を確認。
『はい……でも、もうこんな所まで⁉︎』
絶句するロサナ。
以前接触した地点はもっと遠方だったのか。動きが早いな。
……そうする間にも、“塔”の詳細な姿を視認できる距離になっていた。
「ふむ、確かに……」
銀灰色と黒鉄色のそびえ立つ、“それ”。大きさは、おそらく高さ数十〜百mほどといったところか。ちょっとしたビルぐらいだろうか。
形は八角柱……いや、末広がりだから八角錐台ってヤツか。言われてみれば、塔にも見えなくもない。
だが、俺が知るものの中に、もっと似ているものがあった。八角錐の切り落とされた頭の部分に何やら取っ手を思わせる構造物が付いている。だから銅鐸の様にも見えなくもない。
そして、12の神面。
それは八つの面に、二段に分かれて配置されていた。取手の直下部分には一つおきに。そしてその下の段には八面に一つずつ。
おそらく上段の四つは天空神アルジェダートと大地母神アゼリア、そして至高神アルタイアと地母神サーナイア、か。そして下段は12神の残り8柱だろう。アストランにある神殿でよく見る配置だ。
やはりここもヤツの作った世界ってワケか。そして現状この有様……。無責任なヤロウだ。
ならば、
「よし。俺が行く。お前たちはこの辺りに留まり援護を頼む。いいか? ……無理はするなよ?」
『はい!』
『分かりました!』
まぁ、コイツらに死なれてしまったらエルヴァンの長老に悪いしな。
「しかし、だ。無理はするなとは言ったけどさ……。万が一にも援護はサボるなよ? 貴重な“生命の果実”を食べたんだからな? 分かったな?」
『アッハイ』
『はい……』
一応釘は差しておく。
まぁ……効果はあった、か? まぁ、良い。
「……よし!」
円盤を駆り、一気に加速。そしてヤツの攻撃領域に突入。
そして、
「! 来たか!」
神面が光り、雷光が放たれる。
「ッオ!」
襲いかかるそれを“障壁”により回避。空中ならば、地上にいるよりも回避は余裕だ。
だが、次が来る。
強烈な空気の渦。それが俺に迫る。
「竜巻か! ならば……」
左手に魔力を集中し、結印。そして、
「“衝弾”!」
放たれた衝撃波が竜巻を粉砕する。
しかし、
「クソッ! これだけではダメか!」
その余波が俺を襲い、円盤は川面の木の葉の様に揺れた。
だが、この程度ッ!
ならば……精神を集中。そして、
「“衝波”!」
掌より、さらに広範囲な衝撃波を放つ。
それは次いで襲いくる竜巻にぶち当たり、その勢力を大幅に減じた。そこに……
「“衝弾”ッ!」
再び、不可視の衝撃波の弾丸。それは竜巻を完全に粉砕し、突き抜けた。
俺はそれを盾に、襲いくる攻撃の中を一気に駆けていく。電撃、閃光、更には熱波。その中を一気に突き抜く。
だが、
「……ッ!」
衝撃波、そして身体にまとう“障壁”すらも貫いて、その脅威が俺に迫る。
しかし、だ。
「フゥ…………ンッ!」
構えた棍には、既に“気”が“徹って”いる。淡い光が手元から両端へと伝播していった。そして、
「ハッ!」
棍を一閃。
その一振りで、電光を弾き飛ばした。
返す刀で炎の弾丸を粉砕。
よし。いけるな!
「援護を頼む!」
レライたちに“遠話”。
「分かりました。……“光槍”!」
「“衝弾”!」
光の槍と衝撃波が、俺を襲う竜巻や光、氷の弾丸を打ち砕いていく。
「スマンな、助かる!」
そして、更に加速。にわかに沸き起こる暗雲を棍の一閃で切り裂いた。
「ッ、……オォッ!」
自らを鼓舞すべく、叫ぶ。そして、
「ッ! ……ハァ!」
更にもう一振り。
と、不可視の衝撃波が迸り、塔から放たれた巨大な光球を打ち砕いた。
やれやれ、何とかなったか。
だが……油断大敵だ。
「……ッ!」
前方を睨み据える。
おそらく彼我の距離は百m強ほどか。直接行けそうだな。
それなら……
「まずは……挨拶代わりだッ!」
再び棍を一閃、衝撃波を放つ。
そして……直撃。
……しかし、
「ッ! ……効果なし、か」
白亜の壁には傷一つ見当たらない。まぁ、距離もあるしな。
ならば……直接打撃だ! それでも効かなければ……
「“障壁”!」
不可視のバリアーを更に強化。そして一気に加速。
「“旋風”……“光槍”!」
円盤の周囲を渦巻く烈風で覆い、光の槍を縦代りにして突き進む。
そして……射程内!
「行け!」
光の槍を発射。そして、神面の一つに命中。
だが、
「こっちも無傷か……」
思いの外、強固だな。確かに、現状の俺が攻撃したとしても外壁を突破することは難しいだろう。
ならば……中から破壊するまで! と、すれば……“銅鐸”の上端。釣り手の部分か……あるいは下から? おそらくそのどちらかだろう。
とりあえず、まずは接近だ。
「……ッ!」
襲いくる電光、そして烈風。
いよいよ攻撃も本格的になってきたか。
「フッ……ハッ!」
だが、“障壁”でそれらを防ぎ、それすら貫くものを棍で弾いていく。
そして、一気に加速。
嵐を貫き一気に“塔”に迫った。
すかさず殺到する電光、炎の弾丸、氷の槍。
それらが恐るべき密度で殺到する。
「クッ……ソ!」
まるで昔よくやった弾幕系シューティングゲームみたいだな。親父が好きだった影響で、当時の実家にはたくさん残っていた。親父たちが転移してしまった後は、しばらく一人孤独にゲームしてたっけ……。
それ見て引きこもりになることを心配した爺さんが拳法やら座禅やらを半ば無理やりやらせ、今に至る訳だ。懐かしい……
……おっと、今は戦いに集中せねば。
こっちはリアル。撃墜されたらそれでお終いだ。残機はない。
棍で雷撃を弾きつつも、気、そして魔力を集中。そして、
「行け……“光弾”!」
大量の光の矢を射出。
威力は小。だが、矢は大量。
以前の俺ならこんなことは出来なかったが、“生命の果実”のおかげだ。
そしてそれらは、尽く相手の攻撃を相殺していく。
その間に、一気に上昇。
神面の前を通過。
その時、光る両目。放たれる破壊光線。
けれど、それは予想済み。
「“神盾”!」
すかさず、それを防御。すぐさま反射する。
生前の俺では使うことに至れなかった高位呪文。先刻、“生命の果実”を食べたおかげで使用可能になったもの。
その結果、
『ン゛ウヴォァー!』
“神盾”により反射された光線が、神面の幾つかを直撃。
悲鳴……あるいはマシンノイズのような“声”が脳裏に響く。
とはいえ外見上は多少焦げただけのようには見える。しかし、今の“悲鳴”からすれば、それでも幾らかのダメージは与えられる様だ。
ならば、あの中から攻撃すればどうなるか。
……よし。
そして……一気に上空に達した。