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「で、だ。……何か言い訳はあるか?」
とりあえず両者の脳天に、一発ずつ拳を打ち込んだ後に問う。
『……ありません』
『……反省しております』
一応は反省した様だが……これが何分もつのやら。
まぁ、いい。
「それでだ。“塔”の戦力は一旦どんなものか?」
『はい。それは……』
レライとロサナに戦いの経緯を聞く。
「ふむ……」
矢も魔法も通用せず、か。
それはまぁ、想定内。
それよりも攻撃範囲がエグいな。おそらく通常の魔法の攻撃範囲よりもヤツの射程の方が上だろう。
遠距離でも効果的なのは“光槍”あたりか。
あとは、雷撃系? その“塔”の材質によっては効果はあるかもしれん。
……まぁ、何の効果も得られんかも知れんがな。
もし外周が金属だったら電撃は表面を這うだけだろうしね。よほど強烈なモノであれば、誘導電流で内部の回路を破壊できるかもしれんけど。
あの“機械”を見る限り、あの造物主がそういった電子回路の知識を持っているのは確かだろうしな。
……とはいったものの、今までの話を聞いたところでも、その“塔”が如何なる存在かは分からないんだよな。あのヤロウが絡んでいるかもまだ判明していないしな。
それはそうと……だ。外部は白い硬質で滑らかな“何か”で覆われているらしい。そして12の神面も。白い塗装が施されているのか……それともセラミック? あるいはガラス的なモノを焼き付けた──ホーローだっけ? ──みたいなモノか。確か古代帝国時代には金属外表に魔導石をコーティングする技術があったらしいが……。
。そして内部には、塔を駆動する何らかの機構……。純粋な機械的なモノなのか、それとも魔法的な要素により駆動されるモノなのか……?
どちらにせよ、おそらく安定してダメージを与えられるのは強烈な電撃系呪文。場合によっては衝撃波系も行けるかもな。火炎系は……どうだろう? “斬輪”あたりは通用すればいいが。
まずはヤツの射程ギリギリで“光槍”により牽制。その反撃具合でその後の方針を決めるしかないか。
どうあれ、おそらく一番有効になりそうなのが衝撃波と電撃系の連続攻撃か。
しかし、だ。
“飛翔”を行いつつその攻撃を行うのは難易度が高い。当然、前世の俺でも無理だろうな。
数回だけなら可能かもしれんが、それだけでは到底ヤツにはダメージを与えられまい。
レライあるいはロサナの抱えてもらって……
いやダメだ。そこまでの“力”はあいつらにはあるまい。
そもそも背中を預けられるレベルまで信用出来るかとなると、な。
さて、どうすべきか?
『…………』
その時、“何か”聞こえた。
「⁉︎ ……声?」
『え? 何です? 何も聞こえませんが』
『はい。……何も』
レライたちには聞こえていないのか? だが、確かに……
『………………』
再びの“声”。
今度はよりはっきりと。
そして、その方向は……
「……こっちか!」
獣道の先、トーテムポールがある方向だ。
俺はすぐさまそちらへ向かう。
『え? どうしたんですアキト様⁉︎』
戸惑いつつも付いてくるレライとロサナ。
そして俺はトーテムポールの前にたどり着いた。
『………………』
またしても、“声”。
はっきりとした言葉ではない。だが、イメージは伝わる。
力を貸してくれるのか? 生命の果実だけでなく……
俺はトーテムポールに相対した。
「!」
直後、その先端から光が迸った。
それは俺を……いや、俺の足元を射た。
何だ、これは……? 一体どういう事なんだ? これは彼らの祖霊の意思なのか?
そう思った直後、俺を中心とした光の輪が地面に現れる。
まるで魔法陣の様だ。
『アキト様! 何か下に……』
! これは……
レライが言う様に、確かに“何か”が足元直下に潜んでいる。それはゆっくりと上昇し……
「うおっ⁉︎」
俺の足元直径2mほどが、1mほど隆起した。
……!
倒れそうになるが、棍を付いてバランスを取る。……が、そうする間に土がバラバラと落ちていった。
足元も崩れ落ち始めたので、とりあえず地を蹴って飛び退く。そして着地し、“それ”を見る。
「こいつは……」
足元から現れたのは、八角形をした板状の物体。
厚さは40cm程か。滑らかな銀白色の表面。そして、上面には、赤と青、そして金で描かれた複雑な模様。下面には何やら幾つかの、発光する半球らしきものが並んでいる。
まさか、これは……
確か、前世で聞いたことがある。お伽話で、だがな。
かつての帝国時代、天を飛ぶ船などが存在したという。そうしたものの一つに、人を乗せて飛ぶ円盤状の宝具が存在した、と。
それが、コイツか。
トーテムポールが“これ”を使えと言うのか。
なら……
ジャンプ。そして俺は再びその中央に降り立った。
何故だろう? 初めてここに立ったという気はしない。とはいえ前世ではない。もしかしてそのさらに先の?
……分からんな。だが、かすかな“記憶”がある……気がする。
まぁ……ともかく、だ。そして、
「…………」
まずは深呼吸。次いで精神を集中して、ゆっくりと“気”と魔力を体内で循環させる。
そしてさらにそれらをこの宝具へと浸透させ……
と……
「!」
来た。反応あり。
俺から宝具へ。そして宝具から俺へ。“気”と魔力を循環させていく。そしてそれらは脈動する大きな波となった。
行ける、な。
とりあえず、浮上。
「……!」
宝具──面倒くさいから円盤でいいか──は1mほど、音もなく上昇した。
意外と速い。一瞬バランスを崩して落ちそうになった。
だが、コツは掴んだ。
再び上昇。そして水平飛行に移る。
最初は歩く程度。それから次第に速く。
次いで、旋回。右、そして左。
では……
「っとオ!」
宙返り。これも成功。
そして、飛行する円盤上でジャンプ。
「……っし!」
円盤中央に着地。どうやら離れてもきちんと俺を追尾してくれる様だ。
おっと、気がつけば集落の上空だ。
そこには村長とディゴザが残っていた。
俺は彼らの前に降り立つ。
『それは、まさか……』
村長の声。
『一度だけ目にしことがあります。この大地が崩壊する間際、地中から現れ飛び去るそれを……』
なるほど……
「由来とかは知らないか? おそらくはあなた方の祖霊がこれを俺に授けてくれた」
『まさか、祖霊が……』
絶句する村長。
……ということは何も知らないか。
『それ……あの“塔”の外観に似た感じですね。“遠見”の魔法で見ただけですが……』
と、ロサナ。
……やはりか。あるいはこれも、塔の一部だったのかもしれん。
塔がこの大地を襲うのは、これを回収するため、なのか?
だとしたら、コイツを塔に戻せばこの大地は崩壊を免れるんだろうか?
……いや、分からん。
まずは塔に向かうしかないな。
さて……どうなるやら。