10
――街道
太陽は頭上高くから俺達を照らしていた。
まるで南国のような位置だ。だが、決して猛暑というわけではない。何故かはわからないが、日本で言えば五月ぐらいの気温であろうか。転移してきたのが5月末なので、ほとんど違和感はない。
そういえば、月はやたらと大きく見えた。ある意味異世界らしい。だがあの月は見なれたもの……。どう見ても地球の月だった。
この大陸は、赤道あたりの太平洋上空にでも浮いているみたいだな。
ラピュタかここは。時差からすると、日本の東側にあるみたいだし。
いや……魔法が存在している世界だ。あまり深く考えないほうがいいかもしれない。
今現在、俺とエルリアは街道を北に向かって歩を進めていた。
この道は、ガルンダール街道。城塞都市カデスからセルキア神殿を経て大陸南東部へと向かう街道だ。
見渡す限りの平原を石畳の道が伸びていく。時折小さな森や丘を見かけるものの、それほど変化のある地形ではない。
大規模な森は、あのセルキア神殿のあたりだけのようだ。
この辺は日本とは違うな。見通しがいい。日本は島国な上に山と森と街だ。見通しなんてほぼ無いと言ってもいいだろう。例外は北海道ぐらいか?
一方、こっちははるか遠くまで見通せる。平原の向こう、はるか彼方の丘陵まで。
……というか、ここは見通しが良すぎる気がする。なんというか……盆地の中にいるみたいだ。
それはともかく、だ。
この先にあるのは、聖地エルズミス。女神アゼリアの神殿がある場所であり、一万年前に栄えた大帝国、トゥランティア帝国の帝都であった場所だ。
俺達は先生の指示で、そこに向かっていた。
そこならば、もしかしたら俺がこの地にやってきた理由がわかるかもしれない。
「……アキト様?」
先を行くエルリアが、馬上で振り返った。
「ん? どうした?」
顔を上げ彼女を見……数時間前の光景が蘇ってきたために慌てて顔をそらした。
いかん。思い出さないようによそ事を考えていたのに、彼女の顔を見たら、もうダメだ。
「あ、あれを思い出していたのですか⁉︎ 忘れてくださいよ……」
「いや、その……」
顔を真っ赤にした彼女は、涙目で俺を見る。
あの後。
“雷撃”を浴びて前後不覚になった俺を彼女が魔法で治癒し、何とか事なきを得た。
俺は必死に詫びる彼女を許し、また俺もつい凝視してしまったことを詫びた。
まぁ、お互いの不注意ってことで……
にしても、HP一ケタってーのは、あんな感じなのだろうか? またああいう状態に陥らないようよう気をつけよう……
「あ……ごめん。何?」
「……否定しないのですね」
彼女が恨めしげに俺を見る。
いや、別にそう言う訳じゃなかったんだが……まぁいいか。
「あと少しでカデスの街です。そこて少し休みましょう」
「そうだね。そろそろ一息入れないと、腰がヤバい」
慣れない馬での移動のため、尻が痛くて仕方がない。
乗馬なんて、いつぞやの夏休みに連れていてもらった牧場での体験乗馬以来だ。正直言って、馬に乗るというよりも、乗せられていただけだ。
きちんと訓練された馬でよかった。
そこからさらに馬に揺られること数分。
遠くに高い城壁が見えてきた。石造りで、見るからに頑丈そうだ。見張り用らしき尖塔も見える。
「あそこがカデス?」
「ええ。城塞都市カデス。トゥランティア時代からの由緒ある都市です」
やれやれ。ようやく一息つけそうだ。
時間にして、約6時間。
人間が歩くのとほぼ同じスピードで来たから、25〜30Kmほどだろうか。多分、東京から横浜ぐらいの距離かな?
乗馬に慣れれば、もう少し距離を伸ばせるのだろうけど。
とりあえず、城壁のそばまで来たので、馬から降り……いや、ほとんど落ちたと言ってもいいかもしれん。
それでもなんとか踏みとどまると、手綱を引いてエルリアとともに門へと向かう。
それにしても頑丈そうな城壁だ。
この町は旧ガンデイール王国の国境に近い。当然と言えな当然か。
そういえば、先刻の戦いののち、妙なモノを拾った。
黒焦げになった棒状の物体だ。
本体である棒状の部位にはらせん状の溝が刻まれていた。また、その上部には短い円筒形の頭部が付いており、その円筒の上面には六角形の穴があいていた。
そう。これはボルトだ。
なぜこんなモノがここに落ちていたのか?
この世界は、あまり機械技術が発達していない。技術発展の萌芽は、アルセス教団が潰して回っているとのことだ。エルリアに聞いてみたが、その状況は魔王戦役後でも変わらない……と、いうよりも、さらに執拗さを増したそうだ。
となると、コレはおそらく地球から転移してきたモノということになる。
どうやらあの遺跡周囲には、時々転移門が開くことがあるらしい。おそらくこのボルトもその時に転移してきたモノだろう。
十年近く前には、転移門が開いた直後に大爆発が起きたそうだ。
もしかしたら、何らかの機械がこの世界に転移し、その直後に爆発したのだろうか?
周囲をもっと探してみたら、それが何かわかるかも知れなかったが……。




