14
――エルヴィンの村 広場
長老の発案で、エルヴィン達により俺の歓迎の宴が開かれることとなった。
が……
『食料が足りません』
などという声が聞こえた。
どうやらあの怪物との戦いを前にした最後の宴でほとんど備蓄を使い切ってしまったらしい。
死ぬとわかっている戦いであるから、そうなもなるわな。
何とかしたいとは思うけれど、生憎俺の方も食糧の持ち合わせはほとんどない。
今回は直接大神殿に転移する予定だったから予備の食料など用意してないしな。
土産用に買った菓子は、エルリアに預けてあるし。
精々ポケットにあるのど飴ぐらいだが、こんなの出してもな……。
おっと、そういえば……
「アレは、食えるんだろうか」
などと口にしてしまう。
あの甲殻獣だ。
前世のことを思い出した。
セルキア神殿の南に、アルタワールという大きな街があり、その街の南方は乾燥地帯が広がっていた。
その平原には巨大なサソリが出没しており、乾燥地帯の諸都市においては食用とされていたのだ。
それに、東南アジアとかでも昆虫を使った料理を食べたこともある。
味はともあれ、食えないことはなさそうだがな。
『アレ……まさか、あのルドゥロザを⁉︎』
「ん? ああ……」
ドン引きされた。
う〜む。やはりダメか。
『あっ、でも食べられるかも知れません。もっと小さい虫なら食用にもなりますし』
と、レライ。
ふむ。別に拒否反応があるわけではないのか。
もしアレも食用にできたら、食糧事情も改善できるかも知れん。
――しばし後
俺は集落の皆と協力して、甲殻獣ルドゥロザを村の中央に運び込んだ。
そして、試しに前側の脚の一本をもぎとり、火で炙った。
……ふむ。いい匂いだ。エビを焼いた様な感じだな。
「では……」
焼けた様なので真ん中で折り、肉を引き出す。
殻の大半は割と薄い。が、一部がリブ状に張り出してるな。セミモノコックってヤツ? これで強度と軽量化を両立させてるのか。完全なモノコックは大型化に問題があるしな。
まぁ、その分肉は取り出しにくいがな……
そしてほぐした肉に、村の倉庫に残っていた岩塩を振り、その一切れをかじって見た。
「ふむ……いけるな」
やはりエビやカニの様な味がする。が、それらに比べて淡白で、やや大味だ。だが、食えないわけじゃない。
大型の捕食者なので毒はあるまい。内臓除けばほぼ食えるのではなかろうか。
そうして宴が始まった。
酒こそないが、もともといたずら好きで陽気な妖精だ。歌い踊り、大いに盛り上がった。
恐怖から解放されたというのも大きいのだろう。
それにしても……
「……ン?」
思わず空を見上げ、妙なことに気づいた。
日が暮れる予兆がないのだ。
空に浮かぶ惑星も、おそらく全くと言っていいほど動いてはいない。
もしかして、1日が異常に長いのだろうか?
『どうされました?』
長老が隣にやってくる。
「いや……この世界の一日はどれぐらいの……」
おっと、何て言えばいいんだ? 地球なら一時間、アストランなら一刻とかの単位があるんだが。そもそもその単位の長さがどれほどか分からんしな。
『この世界の時間は、止まってしまいました』
迷っている間に、長老が答える。
それにしても……『止まった』だと?
「それは、どういう……」
そういえば、死に戻りが起きているという話だったな。それと関係があるのか。
『はい。すべては、あの“滅びの日”から始まりました。突如現れた混沌神。そして神々の戦い……。混沌神は異界へと封じられたのですが、その戦いで消耗した神々はこの世界を見捨てて去って行きました。戦いにより大地は裂け、もはやこの世界は存続できぬと考えたのかも知れません』
なるほど。浮遊大陸は、もともとひとつながりの大地だったのか。
『しかし、女神エルセリアだけは、違いました。あのお方は我らを救おうとしてくださったのです。そして、一万年あまりの時が過ぎました』
「……って事は、その時点までは時間が動いていたのか」
『はい。しかしある時、“災厄”がこの世界にやってきたのです。それは、“混沌神”ヴェゼガンディ。どういうわけか、異界より舞い戻ってきたのです』
「……そうか」
何故戻ってきたのか? そういう点では、バルドスと同じだ。ヤツもまた異界へと封じられ、そしてまた舞い戻ってきた。
そういえば、“造物主”が俺たちを時空の彼方に放逐しようとしたときに、バルドスはそれを利用し戻ってきてしまったんだよな。アイツ、ロクなことしねぇ……。
まさか、ここでも同じ事やらかしたか?
『その時を機に、刻が止まったのです。太陽も、月も……そして“始原の大地”も』
「始原の大地?」
『はい。頭上に見えるのが、その始原の大地です。神々が住まうという……』
「アレ、か」
長老の指差す先。
それは、あの惑星であった。
もしかしてあれも、ヤツが創造した世界なのか?
もう一度、あの惑星をまじまじと眺める。
「!」
いや……まさか、アレは!
「アレは……地球だ!」
ミラー反転しているために気づかなかった。
端の方に見える四角い半島は、おそらくアラビア半島。という事は、その隣の尖った半島はアフリカの角――つまりアフリカ大陸。マダガスカルもあるな。南極は……ギリギリ見える白いのか。
ふむ……大陸の配置からして、ここはおそらく大西洋上。それも、赤道直上か。
つまりこの世界は、アストランとは正反対の位置にある訳だ。
『ち……チキュウ、ですと?』
長老の声。
他の連中も踊りや歌を止め、俺の方を見ている。
「ああ、すまなかった。おそらくあれは……俺の故郷である地球だ」
『アキト様も始原の大地より来られたのですか!?」
「ああ。そして……女神アゼリアと出会った場所だ」
俺の言葉に、エルヴァンたちが息を飲んだ。




