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――エルヴァンの村
そこは、ちょっとした藪の中に存在した。
集落にある家の大半は、樹木の上に建てられている。
いわゆるツリーハウスってヤツだな。父さんがインドネシアかどこかに海外赴任した際について行ったんだが、その時に見たことがあるな。
そして、それらの中央にはちょっとした広場がある。
そこで待っていたのは、エルヴァンの村の人々。
老人や女、子供だ。
彼らは男たちが無事であったことを喜び……そして俺の存在に当惑している様であった。
そして、一人の老人が進み出た。
その雰囲気や仕草からして、彼が村長あるいは長老か。
『レライよ。よくぞ無事戻ってきた。ところで、このお方は一体……』
『父上、この方は神の使徒であらせられるアキト様。“災厄の獣”ルドゥロザを倒し、我らを救ってくださりました』
おう、アイツが長老の息子なのか。
つか、ルドゥロザというんか、アレ。
『感謝いたします、アキト様。私はこの村の長老、ウォルオ。よくぞ村の若い者たちを救ってくださいました』
「いや……たまたま通りすがっただけさ」
『たまたま、でございますか……』
ふーむ。何やら複雑な表情が、エルヴァンの面々の顔に浮かんでいる。
感謝だけではないな。疑念、諦念……
とりあえず、ある程度俺の身上を話しておいた方がいいな。その方が、向こうの情報も引き出しやすくなるだろう。
「俺は、女神アゼリアの召喚に応えてアストランの地に赴く途中、この地に降り立った」
と、その言葉に、何やら連中の間に戸惑いが広がる。
『女神アゼリア⁉︎ 我らを見捨てた女神が、何故⁉︎』
『運命を操る女神……我らに試練を課す張本人ではないのか?』
う……む。そうくるか。女神の名を出したのはまずかったか。
とりあえず、とりつくろわねば。
「女神アゼリアをはじめとする神々は、恐らくこの地を見捨ててはいないだろう」
まぁ、本人に聞いてみないといかんがな〜。
が、嘘も方便だ。
『何故でございますか?』
「神を騙る“何者”かの策謀により、神々の間に不和が起き、争いが起きた。その結果、神々はその“力”を失い、この地に干渉することが出来なくなったのだ。それに、運命を操ることが出来るのは、アゼリア様だけではない。元凶たる“偽りの神”も、同じ“力”を振るうのだ」
『まさか、そんな……』
疑念の声。しかし、微かな安堵の気配。
「かつて俺がいた世界でも、“偽りの神”は暗躍していた。ヤツがこの世界にいても不思議ではあるまい」
というか、間違いなくここはヤツが創造した世界だろう。
『“偽りの神”、でございますか……』
「ああ。かつて俺はヤツと対峙した。取り逃がしてはしまったがな……」
『そんな事があったのですか……』
連中の顔を伺う。
ふ〜む。まだまだ半信半疑といったところか。まぁよかろう。
それよりも、まずは情報だ。
「とりあえず、これまでの経緯を教えてくれないか?」
『はい……。ある日、この世界に“滅び”がやってきたのです。大地が割れ、あらゆる災厄が我々に襲いかかってきました……。それは、神々がこの地を見放し、異界へと去った故と聞いております。しかしある時を境に、災厄は止まったのです。ただ一柱我らを哀れんでこの地に残られた女神が、その全ての力を使って止められたと聞いております。が、ある日、“混沌神”がこの地に現れました。女神には既に混沌神を防ぐ力はなく、再び災厄が我らを襲う様になったのです。そして、我々は、大地に飲まれて死んだはずでした。しかし……』
「ふむ?」
『気がつけば、我々が死んだその日の朝に時間が巻き戻っていたのです。それ以降、様々な災厄が我らを襲うようになったのです。そして死した直後にはまた時間が巻き戻り……。それを延々と繰り返しているのです』
「なるほどな。それを延々と、か……」
死に戻りってヤツか。
ふ〜む。
死に戻りはともあれ、ヤツがあっちの世界でやってたことを思わせるな。それに、混沌神。
「俺たちの世界で暗躍していた“偽りの神”は、人間と魔族を操り、千年ごとに大きな騒乱を起こしていたのだ。その目的は、己の“力”を得るため」
『“力”を……どうやってでございますか?』
「ああ。それは、死にゆく者の“嘆き”、“悲しみ”、そして“怒り”……。そうしたものが、“偽りの神”の糧。この世界でも同じことをしているのではないかと思う」
“造物主”は今地球にいるので、現時点でこの世界に関わっているかは分からんがな。もしかしたら、バルドスの様な輩がこの世界で暗躍している可能性もある。
『! それは……まさか、我々が受ける苦難もその為に……』
「その可能性もある。少なくとも俺が対峙した“偽りの神”は、そうして“力”を得ていたからな」
『そんな……事が……』
愕然とするエルヴァンたち。
だが、聞くべきことを聞いておかねばな。
「それにしても、よくああして抵抗する気になれたな。生きる気力を失ってしまいそうなものだが……」
『はい。一時期は希望も失い、ただ従順に運命を受け入れていました。しかし、そうしてしまうと、次回の死はより残虐なものになるのです。結局あの怪物と戦い、食い殺されるのが最も苦痛が少ない死なのです。それに……女神様がおられるのです。いつか、この苦難が終わることを信じております』
そうか……
ますますヤツの手口に似ている。
あるいは、この世界でもヤツは暗躍しているのであろうか?
と、なると、この世界の“女神”が何者かが気になるがな。
「ところで、この世界の女神は、いったいどの様な存在なのか?」
『はい。我らの女神は、エルセリア様。他の神々が去った後もただ一人この地に残り、混沌神ヴェゼガンディよりこの地を守っておられます』
「……なるほどな」
女神エルセリア。豊穣神、あるいは農耕神。アストランの神話では、名前のみしか伝えられていない神だった。アルジェダートとアゼリア以外の神格はアストランでは創造されてはいないものの、いくつかのエピソードは伝わっていたのだがな。
そして、混沌神。
こちらに関しては初耳だ。
もしかしたら、バルドスの同類かも知れんな。
『そういえば、アキト様は異界の方でしたな』
「ああ」
『今までそういう方が現れたことなど、一度もありませんでした。もしかしたら……ようやく我らの苦難が終わるのかも知れません』
「……そうか」
希望を込めた目で、皆が俺をみる。
俺に救世主になれ、ということか。
……乗りかかった船。
俺がどこまでやれるか分からんがな。




