12
「ケアァァァー‼︎」
天を衝く咆哮。
現れた、“それ”。
体高は3メートル程か。そして体長は10メートルを超えると思われる。
厳つい頭部。牙が密生した口器。水平方向に伸びる胴体。下方に伸びた、鋭い爪を備えた脚。そしていかにも強靭な尾。
そのシルエットはかつてのティラノサウルスをはじめとする獣脚類を思わせる。
しかし、だ。
複眼の目。左右に開く大顎。二対の前肢。銀の鎧のごとき甲皮に覆われた体躯、など……。
そのディティールはむしろ昆虫の類に近い。
例えていえば肉食恐竜に収斂した節足動物……いわば“甲殻獣”ってところか。
「おいおい、こんなヤツかよ……。いくら何でも俺とこんなのを間違えるなんて失礼な話じゃないか」
苦笑しつつ、リーダー格を見……
『あああああ……』
おいおい……。震えてやがる。
『ひぃぃぃぃ……』
と、背後から別の声。
どうやらさっきの咆哮で、草むらにいたヤツも気が付いたらしい。
そちらを見ると、そいつもまた弓を構えたまま半泣きで硬直してやがる。
「おい! 得物を持ってるなら仕掛けろよ!」
とりあえず、弓持ちに声をかけてやる。
『は……はヒ』
ヤツは震えつつも弓を引きしぼり……矢を放つ。
が、それは虚しく甲皮に跳ね返された。
案の定、通用せんか。
『ああああ……死ぬ! また殺される! やはり私たちは、ヤツの餌に……』
弓持ちの声。
……ん?
「“また”⁉︎ どういう事だ?」
『あわわわ……』
リーダー格に問う。
が……ダメか。完全に怯えてやがる。
しょうがねェ。
棍を一つ振って構える。
「逃げるなら今のうちだぜ?」
連中に一つ言い置くと、結印。
そして、
「“衝弾”!」
甲殻獣めがけて不可視の衝撃波を一発。すぐさまダッシュ。
「ケカッ⁉︎」
命中。
よし。
すかさず回り込みつつ、その後脚に棍の一撃を叩き込んだ。
しかし、
「! クソッ!」
案の定、硬いな。一瞬手がしびれたぜ。
ならば……
ステップバックし、結印。
「“光槍”!」
光の槍を、胴部と尾――恐らく昆虫でいえば胸部と腹部――の間の細くなった部位に叩き込んだ。
「キィアア゛ァー‼︎」
絶叫。
そして飛び散る体液。
甲羅である程度ダメージは減衰してしまったらしく切断とまではいかなかったが、尾が垂れ下がっている。相当なダメージを与えた様だ。
おっしゃ! 動きが鈍くなった。
それなら……
「セイ!」
今度は棍で腕に一撃。
さらには顎をしばき上げた。
グラつく甲殻獣の上体。
しかし奴は怒りの咆哮をあげるとその顎門を左右に大きく開き、俺に向かって突っかかってくる。
だが……遅い!
その直前で飛び退いた。
と、甲殻獣は轟音を立てて俺の背後にあった木にぶつかる。
おっしゃ! うまく行った!
……って、
「うおわっ⁉︎」
横振りした尾の一撃で跳ね飛ばされ、別の木に叩きつけられた。
一瞬息が止まる。
いや、それよりも頭を打ってしまったせいで少々フラつく。
チッ! 意図した攻撃じゃないんだろうが……油断した。まさか、傷を負った尾の一撃を喰らうとはね。
“殺意なき一撃”は一番注意しなければならんのだがな……。勘が鈍ったか。情けない。
が、何とかフラつく足で立ち上がり……
「!」
既にヤツは立ち直ってやがる。
そして俺に向き直った。
その複眼に、ギラつく殺意。
マズいか? だが……
と、
「⁉︎」
「ケアッ⁉︎」
奴の複眼や口中に矢やナイフが突き立った。そして小さいながらも火の玉や光の矢も。
見ると、エルヴァン連中が支援攻撃をしてくれた様だ。
正直それほどダメージは期待出来んが……スキは出来た!
結印。そして、
「“斬輪”!」
掌中に小さな光の円盤を作り出す。
これは、光のカッター。径を小さくし、切断力を上げてある。
それをヤツの口中めがけて放った。
そして、命中。
その口から体液が散った。
更には体内に侵入させた光のカッターで、ヤツの柔らかい内臓をズタズタに切り裂いてやる。
「ギィイーアァー!」
苦悶の声。
さしもの甲殻獣もくずおれた。
トドメだ!
ダッシュ。そして、
「リャアー!」
大上段から棍の一撃を、その脳天(?)めがけて叩きつけてやる。
棍が甲皮を打ち割り、めり込む感覚。
その衝撃は、おそらくはその下にある神経節に達し、破壊した。
そして……
「ギ……アァ……!」
断末魔のうめきとともに、ヤツはとうとう地に伏した。
「やった、か……」
奴が動かなくなったのを確認すると、一つ息を吐き、手近な気にもたれかかる。
二連戦は流石にちょっとキツかった。
……ン? エルヴァン連中が集まってきてら。一体何を?
って、
揃って俺を伏し拝みよった。
『救世主さま! 貴方様のおかげで我々は生き延びることができました!』
「お……おう」
きゅ……救世主⁉︎
や、お前らを救ったかも知れんがそこまで言わんでも。
「とりあえず顔を上げてくれ」
……さて、どうする? いや、いいか。
「俺は異界より来たものだ。名はアキトという。正直言って、この世界のことはよく分からないんだ。教えてくれると助かる」
彼らの様子なら、恐らく異界人だと告げても大丈夫だろう。
『異界より……ですと⁉︎』
「ああ」
と、連中の間に動揺が広がった。
ふ〜む。どう出るか。
『我々は、数え切れぬほど“災厄”に蹂躙され、死に、あるいは食われてきました。しかし、貴方の様な方が現れることはありませんでした。異界の方……もしや貴方は、我らを救うために遣わされた女神の使徒ではありませんか?』
ふ〜む……。
数え切れぬほどの災厄に、か……
やはり、先刻抱いた印象は間違っていなかったな。“荒れて”見えたのはそのせいか。
一体この世界で何が起きているんだ?
いや、その前に俺の素性を話しておくべきだな。
「俺は……この世界に属するものであるかは分からぬが……確かに女神の使徒ではあった」
女神アゼリアに選ばれし勇者。それが、俺だ。
……多分。
『おお……』
リーダー格は、すがる様な目で俺を見た。
『やはり、救い主であらせられたか! 先刻の御無礼、誠に申し訳ありません! 私の首でよろしければ、喜んで差し出しましょう!』
……オイオイ。
「せっかく助けた命を刈り取るわけにもいくまい? その前に、この世界の現状を教えてもらいたい」
『はい、アキト様! では、我らの村へお越しください!』
リーダー格の案内で、俺は彼らの村へと向かうこととなった。




