11
――異界の地
「……っと!」
俺は別の浮遊島の上に降り立った。
島と島の間での重力場の変動がひどく、かなりヒヤっとしたけどね。
だが、エルリアと会うまでは死ぬわけにはいかん。何とか気合いで持ち直し、こっちまでたどり着いた。
まぁ、少々魔力の消耗は大きかったがな。
が、ここでまごついても仕方ない。行くか。
――しばし後
俺は着地地点付近の草原を抜け、まばらな藪が散在する荒野へと差しかかった。
にしても、妙な雰囲気だ。
何か潜んでいそうな気がする。
迂回するか? それとも……
などと逡巡していると、妙に視界がぼやけてきた。
木が二重に見える。それに、奇妙な酩酊感。そして……魔力。
「……!」
これは……幻術⁉︎
いや、それとも、この一帯にそういう“呪い”がかけられているのか? いわゆる“迷いの森”の様に……
とはいえ幸い、俺にはほとんど効かなかった様だ。
だが、ここから早く離れた方が……
「!」
殺気だ!
反射的に首をすくめる。
と、その直後、何かが俺の頭をかすめる。そしてそれは、俺の背後にあった立木の幹に突き立った。
「これは……」
矢だ!
やや短いとはいえ、矢尻と矢羽を持った矢。
作りはやや粗雑ではあるが、明らかに知的な生物の仕業だ。
だが、今はそれどころじゃない!
慌てて飛びのき、木陰に身を隠す。そして周囲を伺った。
どこからか俺を狙っている⁉︎ ……どっちだ?
と思う間に、今度は魔力を感じ……
おっと、火の玉か!
「クソッ!」
慌てて首を引っ込めた。
直後、炎の弾丸が俺が隠れる木の幹にブチあたり、弾けて消えた。
今度は、魔法か!
マズイな。魔法使いもいるとは……。
俺は慌てて藪へと駆け込んだ。そして、その中に身を隠す。
さて、どうする?
もしかしたらあの矢には、毒でも塗ってあるかもしれん。かすっただけでもヤバいか。それに、次はどんな呪文を使ってくるかも読めんしな。
直後、先刻まで俺がいた場所に矢が突き立つ。
ふむ。方向は……あっちか!
小さな藪の一つに、複数の気配がする。
すかさず木の陰から右手だけ出し、指弾を数発発射。
と、藪の中から呻き声が上がった。
命中か!
にしても、高い声だ。
子供か? それとも……
人に近い生物なら、だがな。
まぁ、それはいい。
この状況をどう切り抜けるか、だ。
……そうだ。
「“幻像”!」
俺そっくりな幻体を作り出し、それを明後日の方向へと走らせる。
……さて、どう出る?
藪のなかで、奴らが戸惑いの声をあげた。
が、それだけだ。
見破られたか。
つまり、連中はあの程度なら魔法的なモノを見破ることができる、と。
……厄介だな。
なら、力押しで行くか。
「……“加速”!」
そして、地を蹴った。
走りつつ数発の指弾を発射。すぐさま続けて、
「“風壁”!」
風の防護幕をまとった。
直後、飛来した矢は俺の直前で向きを変え、あらぬ方へと飛び去っていく。
さらに、炎の弾丸も数発。
しかしそれも、“風壁”に阻まれた。
動揺する気配。
さらに攻撃を試みるもの。逃げようとするもの。そして呆然と立ち尽くすもの。
だが、遅い。
「喰らえ!」
纏っていた“風壁”を藪に向かって解き放つ。
すると、数体の小さな人形のモノが吹き飛ばされていく。
その“気”からして、おそらくは妖精の類。身長は50cmそこらか。尖った耳に、華奢な体躯。小妖精の類には似ているが……少々イビツな感じもする。そういえば、アストラン大陸にも確かこんな……エルヴァンだっけ? とかいうのがいるという伝承は聞いたことがある。
確か、いたずら好きな小妖精。
……おっと!
正面から短剣を振りかざして飛びかかってくるヤツがいる。
まだやるか? いや、これは……
すぐさま大きく踏み込み、慌てるヤツの腹に棍で軽く突きを一発。
そして振り返ると、背後から迫るもう一体を裏拳で叩き落とした。
おそらくは前方のが囮。そして背後からの攻撃で俺を仕留めるつもりだったんだろうが……そう簡単にやられる俺じゃない。
そしてすぐにダッシュし、逃げ腰の一体の首根っこを捉えた。
おそらくコイツがリーダー格。さっきから攻撃の指示出してたっぽいしな。
「キギィー! キァアー!」
何やら助けを求めているようだが……
「キィイー!」
あ……残りの連中は逃げやがったか。人(?)望ないね。
仕方がない。
「……“念話”!」
呪文を唱える。これで、会話出来る……かもしれん。
「おい、貴様。俺の言葉が分かるか?」
ちょっとばかり威圧的に問うてみる。
『え? あっ、分かります! だから、殺さないで!』
「それは何より。……!」
殺気。直後、飛来する矢。
「チッ!」
かわすヒマはない。
ならば、いけるか?
手を伸ばしてそれを……
「っトお!」
命中直前で掴み取る。
あ……危なかった。
ちょっとばかり指先を切ってしまったが……
「!」
いや……これは⁉︎
わずかな痺れを感じた。そしてそれが、身体へと回っていく。
やはり毒、か……
次第に痺れは麻痺へと変わっていき、がくりと膝を折る。
そして手が緩んだ結果、捕らえていたヤツも逃がしてしまう。
「ケケッ」
奴が、嗤った。
そしてナイフを俺の首に向かって……
「……“解毒”」
慌てず呪文で体内の毒を消去した。
と、急速に痺れが収まっていく。
……うまく行ったか。毒のタイプによっては効きが悪いこともあるしな。
そして身を起こし……
『……へ?』
「残念だったな!」
呆然とするヤツにデコピン一発。
『んぎゃっ⁉︎』
ヤツはたまらず吹っ飛んだ。
そして、藪に向かって指弾一発。
悲鳴が上がり、何かが倒れた。
さっき矢を放ったヤツだろう。
二の轍を踏むわけにはいかん。周囲の気配を探ってみる。
……どうやらもう俺に敵意を向けてくるヤツはいないな。
そして額を押さえて呻くリーダー格の首根っこをまた捕らえた。
そしてつかみあげると顔を近づけ、
「やってくれたな。覚悟はいいか?」
『ヒィィッ!』
睨みつけつつ低い声で耳元で囁いてやる。
と、ヤツは怯え切った目で俺を見た。
つか、
「オイィ⁉︎」
漏らしやがった!
あぶねー。足にかかるところだったぜ。
仕方ないので降ろしてやる。
と、すぐにヤツは俺に向かって土下座……っぽい格好をした。
『こここ、殺さないでくださいぃ〜。せめて、せめて命だけは……』
泣きながらの命乞い。
相手が騎士とかなら『見苦しい。潔く腹を切れ』とでも言ってやりたいところだが、妖精相手だしな……仕方ないか。
「なぜ俺を襲った? 返答次第によっては、貴様の処遇を考えてもよい」
『我々を殺しにくる“災厄の獣”だと思ったからです』
「“災厄の獣”⁉︎」
そんなこと言われる覚えはないんだがな。つか、獣扱いは酷かろう。
「その、“災厄の獣”とは何だ? 何故俺を“災厄の獣”だと思ったのだ?」
『そ、それは……丁度この辺りから現れ、我々の集落を……』
ン? この辺り? つまり……
ヤツを捉えたまま周囲の気配を探る。
と、背後に何やら妙な気配を感じた。
何だ? これは……。いや、まさか⁉︎
振り返ったその視線の先。
そこに現れた巨大な影。
「もしかして、“アレ”か?」
『あ……あああ……』
恐怖に震えるリーダー格。
そして“アレ”は、俺たちを睥睨すると、おもむろに天を仰ぎ、咆哮した。




