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「……小人⁉︎」
緑褐色の爬虫類を思わせる肌をした、小さな人型のモノ。ぎょろりとした大きな目と鷲鼻。尖った耳。指先のカギ爪。猿を思わせる体躯。三日月刀やナタなどで武装していた。
「グレムリンです! でも、何故⁉︎」
神殿近くじゃ魔物は出ないと彼女から聞いていたが、やはり何かあったのか?
それにしても、グレムリンか。そういえば、機械にいたずらする妖精か何かだっけ? ってコトは、まさかスマホが原因か? ゲーム内の解説によれば、ゴブリンか何かの変種で、地上には250 - 200年ほど前に現れたとのことだ。地球だと産業革命の頃になるかな?
ゲームだとLv3モンスター。最大HPは15ぐらいだっけか。使った呪文から推定するに、おそらくLv20前後であろうエルリアなら十分対応できるはずだ。だが、万一ということがある。
……ゲームのデータが正しいとは限らんしな。
それに、俺も戦いに慣れておく必要がある。
彼女一人では対応できない、より強力なモンスターが出てくるかもしれない。
彼女の動きを横目で見つつ、いつでも戦えるように剣を構えた。
……初めての実戦か。足が震える。
そしてエルリアが一歩踏み込んだ。
直後、
「ケケーェ!」
奇声をあげて、一匹のグレムリンが飛びかかってくる。
「ハッ!」
一閃。銀色の軌跡が宙に弧を描いたと思った瞬間、グレムリンは空中で逆袈裟に斬られていた。
グレムリンは地面に叩きつけられ、わずかにあがいた後に、沈黙した。
一撃か。
それを見て鼻白んだか、数匹のグレムリンが後退った。
だが、リーダーらしき大柄のグレムリンが怒りの咆哮を上げると、数匹同時に飛びかかってきた。
「セイ! ヤァー!」
一撃、二撃。
グレムリンが地に伏していく。だが、その剣尖をかいくぐって、接近するヤツが一匹。
「ケエー!」
エルリアの無防備な脚めがけてナタを振るおうとし……。
「させるか!」
とっさに蹴り飛ばしてやった。
「ギィー!」
妙な叫びをあげて悶絶するグレムリンに、エルリアのとどめの一撃が無慈悲に振り下ろされる。
「ありがとうございます。……後ろ!」
「!」
背後を振り返ると、ジャンプし、斬りかかってくるグレムリンが一匹。
「チッ!」
反射的に剣を構え、その一撃を受ける。間一髪だ。
そしてヤツが空中でバランスを崩したところで前蹴りを一発。
「ゲケッ!?」
ヤツはうめきつつ着地。だが俺は蹴り足を下ろすとそのまま踏み込み、ヤツの脳天に一太刀浴びせた。
「ゲキャー!」
肉を斬り、骨を砕く嫌な感触。
ヤツの命が俺の手によって砕け散った。
「……ッ!」
嫌悪感。だが、戦いは終わらない。
俺は分断されないようにエルリアの背後に控え、彼女の死角をカバーし、討ち漏らしを潰していく。
そして、残るは……
「ギギギ……」
怒りの視線を向けてくる、リーダーらしきグレムリン。
エルリアは悠然と剣を構える。
「ギガァー!」
それを挑発と受け取ったか、ヤツは咆哮とともに大ナタで斬りかかってきた。
しかしエルリアはそれを軽く受け流すと、胴を薙いだ。そしてさらに、脳天への一撃。
「ギ……ガ……」
それでもヤツは反撃しようとし……果たせずに力尽きた。
「終わった、か……」
生まれて初めての殺し合いだ。正直、かなり神経をすり減らした。
「ふぅ……」
俺はそのまま河原に寝転がる。
「とりあえず生きのびた、か」
空を見上げた。少し視線をずらすと、エルリアがやってくるのが見えた。
「お疲れ様です、アキト様。お怪我はありませんか?」
俺のそばまで来ると、膝を折って俺の顔を覗き込んだ。
「うん、大丈夫さ。エルリアのおかげだよ。ただ、精神的にね。こういうの、初めてだからさ」
「そうなんですか? ずいぶん手慣れてるようにも見えましたけど。私も助けられましたし」
「多分それは剣のおかげさ。あっちじゃこういうのとは無縁だし……!?」
彼女の姿を眺め、あることに気づいた。激しく動き回ったせいで、スカート代わりのマントがはだけかけていた。
「? どうしました?」
彼女は小首を傾げる。そんな仕草も可愛らしい。が……
「そ、そんなカッコでしゃがんだらさ……」
そう。丸見えなのである。
「え? い……嫌ーー!」
「ぐわーーっ!?」
彼女は顔を真っ赤にして叫び……掌から雷撃を放った。
そして俺は、直撃を喰らい……。




