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16分(3:2)本真屋ユリカと店真員ルイの輓近

作者: 七菜 かずは

 題名:本真屋ほんまやユリカと店真員てんまいんルイの輓近ばんきん

 作者:七菜かずは


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登場人物

・本真屋ユリカ(ホンマヤ ユリカ)女      

・店真員ルイ(テンマイン ルイ)男      

・本真屋ヒメカ(ホンマヤ ヒメカ)女

・彼真氏ドリオ(カレマシ ドリオ)男

・客真人ムム(キャクマト ムム)男



Scene 1


とある町の小さな古本屋。

店員のルイは本の整理をしている。

この本屋の店長の娘ユリカは、脚立の上で今日もいつも通り、無表情で小説を読んでいる。


ルイ:ユリカさん!


ユリカ:はい。


ルイ:好きです!


ユリカ:店真員さん。この本の2巻ってどこにあるか知ってます?


ルイ:え? あ。えーと。


ユリカ:もういいです自分で探します。


ルイ:あっ! 動かないでください! ぼくが探しますから!


ユリカ:そうですか? じゃあ着替えてこようかな。


ルイ:いやっ! 動かないでくださいっ! そこを動かないでくださいっ! ぼくが着替えますから!


ユリカ:はい?


ルイ:好きなんですよ。ユリカさんの制服姿。まあ私服もめちゃくちゃ可愛いですけど。


ユリカ:はぁ。


ルイ:それにその角度、丁度いい感じにぱんつが、見えます。


ユリカ:死んでください。


ルイ:ユリカさん!


ユリカ:はい。


ルイ:蹴ってもいいんですよ?


ユリカ:店真員さんが喜ぶだけなのでイヤです。


ルイ:そうですか。


ユリカ:いい歳して恥ずかしくないんですか?


ルイ:ええ!


ユリカ:就職活動すればいいのに。


ルイ:してますよ?


ユリカ:はぁ。


ルイ:ユリカさんと結婚すればこの店の経営者になれますし。


ユリカ:言葉も出ないですね。


ルイ:感激して?


ユリカ:気持ちが悪くてです。一体何歳離れていると思ってるんですか?


ルイ:ユリカさん。


ユリカ:はい?


ルイ:地球が月を回る。そのスピードに比べたらほんのちょっとの時間ですよ。


ユリカ:逆です。


ルイ:お?



Scene 2


本屋の入り口からヒメカが入ってくる。


ヒメカ:ふふっ。ルイさんったら、月が地球のまわりを回ってるんですよ?


ルイ:あ。ヒメカちゃん。おかえり。もう部活終わったの?


ユリカ:ん、部活?


ヒメカ:たっだいまでぇす~! あ~おなかすいたっと!


ユリカ:ヒメ、部活辞めたって言ってなかった?


ヒメカ:え? あっ、うん! それで新しくね、入りなおしたのっ!


ヒメカ/ルイ:ファンタジー同好会っ!


ユリカ:聞かなかったことにする。


ヒメカ:えっなんで?


ルイ:ヒメカちゃん。手洗っておいで。サンドイッチ作っておいたから。


ヒメカ:わーっ! ありがとうっ! さすが、ルイさんっ! そうやってまわりの人間関係からちゃんと固めていこうっていう下心が超ミエミエ~っ! きゃははっ!


奥の洗面所へと行ってしまうヒメカ。


ルイ:ははは。下心なんてまったくないのに。ヒメカちゃん『には』!


ユリカ:心の声が強く漏れてますよ。


ルイ:ご家族とも仲良くしなきゃ、結婚した後大変だからね。


ユリカ:妹に手を出したらクビです。


ルイ:やだなあ。ぼくはユリカさんにしかたたないですよ。


ユリカ:?


ルイ:他の誰かとしてはだめですよ? 五年前のお正月の参拝時。ユリカの少女A・Tフィールドはぼくが破る! と絵馬に書いちゃったんですから。そう。神様に宣告しちゃったんです。


ヒメカ:少女~?


ユリカ:何を誇らしげにしてるんですか。本当に気持ちが悪い。


ヒメカ、二人の所へ帰ってくる。


ヒメカ:ルイさーん。サンドイッチ冷蔵庫の中ですかぁ?


ルイ:あ、はい。お茶も作っておきましたよ。


ヒメカ:ありがとーっ! いただきまぁす!


ドリオとムムが本屋に入ってくる。

ドリオは番長のような風格でどっしり。

ムムは、スーツ姿でメガネでかなり挙動不審。


ルイ:あ、いらっしゃいませーっ。


ヒメカ:いらっしゃいませーっ!


ドリオ:ヒメ! 勝手に帰るなんて酷いじゃあねえかっ!


ヒメカ:おっ? あれ。ドリオくん!


ルイ:わっ。また来た番長。


ドリオ:なんじゃあ! おおい! ヒメえっ!


ヒメカ:うるさいよ。ドリオくん。今ヒメご飯中なの。静かにしててっ?


ドリオ:わ、わかった。へへへっ。


ヒメカの隣に正座するドリオ。


ムム:え、えーと、えーと、……。


ルイ:何か本をお探しですか?


ムム:あっ! そっその本っ!


ユリカ:えっ?


ルイ:?


ムム:そ、その本、面白い、ですよね! 俺、も、もう1巻から! 99巻まで。ドハマりしちゃって! あ、あはっ。


ユリカ:あ。じゃあ、2巻も持ってますか?


ムム:えっ? あぁっ!


ユリカ:?


ムム:そ、その。実は2巻だけ、ななななくしちゃって。


ヒメカ:あっ。ヒメもその本好きっ!


ドリオ:ヒメ。あれどういう話なんだ?


ヒメカ:えーっ? 知りたい? ふふふふふっ。


ドリオ:くそう、可愛いなぁ。


ヒメカ:ドリオくん。勝手に先に帰っちゃってごめんね? まだ、怒ってる?


ドリオ:い、いや。わしはそのようなつまらぬことでは!


ヒメカ:ふふっ! ありがとうっ! チュッ! チュッ! チュッ!


ドリオ:んんっ!? んっ、んっ、ん……。


ヒメカ:だぁいすき。


ドリオ:あはは……。めろめろ~。


ユリカ:ヒメカ。やめなさいはしたない。


ヒメカ:いいじゃん。自分家なんだし。


ルイ:そうかっ! 自分家なんだしっ!


ユリカ:なにがそうか、ですか。


ルイ:ユリカさんっ!


ユリカ:はい。


ルイ:ぼくたちもぉ。


ユリカ:絶対にイヤです。


ヒメカ:あははっ。ルイさん! お姉ちゃん奥手だから。もっとガンガン押さなきゃ!


ドリオ:お義兄さんッ!!


ルイ:わあ。気が早いなあ!なんだ? 弟よっ!


ドリオ:わしも将来。ここの跡取りになろうと思って!


ユリカ:ふざけないで。調子に乗るんじゃないわよこのガキ。


ドリオ:はぐあっ! お、お義姉さんッ!!


ユリカ:やめてください気持ち悪い。


ルイ:ユリカさんっ! ぼく以外にその言葉を使うなんてっ!


ヒメカ:独占欲むき出しぃ!?


ムム:あのう。


ユリカ:あ、はい。会計ですか?


ムム:あ、あの。もし宜しければ、その、こ、これ俺のケータイ番号なんで!


ユリカ:はい?


ムム:こここ、こんど、是非一緒に、この本について、は、話しませんかっ!? えええええええええええ駅の中にあるモスド、来週リニューアルオープンするらしいんですっ! ぜぜぜひひっ!


ユリカ:はぁ。


ムム:に、2巻、買っていってもいいですか?


ユリカ:あ、それが、2巻だけなくって。


ムム:えっ? そうなんですか!? 駄目な本屋ですね!


ユリカ:は。


ルイ:かっちーん!


ヒメカ:むっちーんっ! ちょちょちょちょっとぉ! こんな小さくて臭い古本屋に最近流行の小説全巻があるなんて。そのほうが稀なんだからねっ!


ルイ:そ、そうだそうだっ! ヒメカちゃん! もっと言ってやって!


ドリオ:そんなにその2巻とやらが欲しいのであれば、ネットか他の本屋で買えばいいだろう!


ユリカ:私もそう思います。というか、ここは一応私の大切な場所で……。


ムム:あのっ!! おおおお、お名前は、なんて言うんですか?


ユリカ:え? 知らないんですか? この本のタイトル。


ムム:い、いえ。違います! そ、その。き、君、の。名前!


少し間を置いて。


ユリカ:日曜日ざくろです。


ルイ/ヒメカ/ドリオ:エエエエエエーッ!!?


ムム:ここ、本真屋書店、ですよね。


ユリカ:そうですけど何か?


ムム:君。ここの娘さんですよね。


ユリカ:はあ、まあ。だからなんなんですか?


ムム:邪険にしないでください。ユリカさん。いつも見てるから知ってるんです。いつも見てるから知ってるんです。


ユリカ:気持ち悪い。


ムム:もっと言って下さい!


ユリカ:ええっ。


ムム:ユリカさん。君の椅子になりたい! 欲を言えば君の布団になりたい。触れて欲しいんです!


ユリカ:怖。


ルイ:おい。ユリカさんにそれ以上近付くと呪うぞ。この、お笑い系大魔王! 邪神サディケルがな!! お前の人生を黒く塗りつぶしてやるっ!


ヒメカ:おーっ!


ドリオ:じゃ邪神シャディケル!?


ヒメカ:昨日ルイさんに教えた、今ヒメが書いてるファンタジー小説の主人公の名前だよっ!


ドリオ:なるほどっ!


ムム:ユリカさん。


ユリカ:気安く名前を呼ばないでください。


ルイ:おいあんた。ユリカさんのストーカーでもやってんのか。


ムム:そんな言葉じゃ俺を縛れない。


ルイ:いい加減にしろ。あんたこの店をバカにしたな。くそやろうが。


ユリカ:店真員さん。


ルイ:ユリカさんの男に相応しいのは、この店とユリカさんを何より愛せるやつだ。


ムム:ふっ。こんな店つぶして、新しい事業をはじめたほうが、儲けになる。ユリカだってもっと楽な生活を送れるに決まってる。


ルイ:あんたわかってねえな、ほんっとに。ってか呼び捨てすんな! いつも見てる? 見てるだけで何がわかる!

ユリカさんだってなわかってんだよ。立地のいいここを壊して駐車場にしたほうが確実に儲かる。駅も近いしな!

大学に行きたいヒメカちゃんの為には本当はそうしたほうがいいんだってわかってる! だけどな、ここは……!


ユリカ:店真員さん、もういいです。


ルイ:言わせてくれ! ぼくの株、今上げずにいつ上げるんですか!!


ユリカ:あなたはそんなこと気にしない人じゃないですか。


ルイ:いつもならね。


ユリカ:そうですよ。いつも。


ルイ:だが。この場所を他人にバカにされたんなら話は別です。


ユリカ:ルイ……。


ルイ:ユリカ。あなたと結婚するのはこのぼくです。


ユリカ:気持ち悪いです。


ルイ:7年もここでアルバイトしてるんですよ。


ユリカ:うん。


ルイ:あなたと、ずっと。


店真員、軽く深呼吸して。


ルイ:これからも、一緒でなければイヤなんです。いつまでも、繋がっていたいんだ、ユリカ!


ユリカ:わ私、


ヒメカ:ひゅーひゅーっ!


ユリカ:ちょっちょっと!


ドリオ:ひゅーひゅーっ。


ユリカ:恥ずかしいからやめてくださいっ。


ルイ:大丈夫ですよ。ユリカさん。


ユリカ:ちょっとも、頼りにならないんですけどね。


ルイ:ぼくを信じてください。


ユリカ:っ……。


ヒメカ:はいっ。ドリオくんっ。あーんっ。


ドリオ:あ~ん。


ヒメカ:お茶もどうぞっ。


ドリオ:かたじけねえっ!


ユリカ:あの。本を買わないならお帰りください。


ムム:そんなやつより俺と結婚してほしい!


ユリカ:は?


ヒメカ:おおーっ!?


ドリオ:おおーっ!? お義兄ちゃん二号っ!?


ルイ:ちょっと待て!!


ムム:なに。モブは黙ってて。


ルイ:モブじゃねえええ!


ユリカ:店真員さん。とりあえずその人追い出してください。


ムム:君はユリカさんのなんだ?


ルイ:はっ! ぼくは、ユリカさんのセックスフレンドですけど! 何か?


ヒメカ/ドリオ/ムム:ええ――――――――っ!?


ムム:うっ嘘だあっ! 嘘だっ! 嘘に決まってるっ!


ユリカ:店真員さん。


ルイ:ハイッ!!


ユリカ:もう明日から来なくていいです。


ルイ:ふっ。そうか。来なくていい、ということはつまりもう今日からここに住んでいい。帰る必要がないからよ! 店間員さん、ずっと私を抱いて欲しいの! と、そういうことなんだね。


ユリカ:違います頭おかしい。ヒメ、助けて。


ヒメカ:ええーっ。めんど~。


ドリオ:ヒメぇ。はい、あーん。


ヒメカ:はむっ! おいひ~。


ムム:ユリカさんっ! 

ルイ:ユリカさんっ!


ユリカ:弟っ!! 今助けてくれたらヒメカとの交際を認めます。


ドリオ:おおおおおかしこまりましたぁぁぁ!! どっせぇぇぇぇぇぇーいっ!


ムム:わっ、ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


ドリオに外に連れられていくムム。


ヒメカ:あの人、ストーカーなのかな?


ルイ:まったくもってけしからんやつだな。


ユリカ:あなたの思考もね。


ヒメカ:もぐもぐ。


ルイ:ヒメカちゃん。まだ食べてるの?


ヒメカ:んー。ルイさん作りすぎだよう。お姉ちゃん食べる?


ユリカ:私はお母さんと一緒に食べるから。


ヒメカ:だよねえ。ん~。ラップして、冷蔵庫、戻しておこっと。ん? あ、あれ?


ルイ:どうしたの?


ヒメカ:ちょ、ちょっと~ルイさんったらぁ! ふふふふっ。


ルイ/ユリカ:?


ヒメカ:こんな所に本を入れてえ。本が冷え冷えですよう。

まぁた何か考え事しながら整理整頓してたんでしょ~。


ルイ:あっ。


ユリカ:あっ。


ルイ:通り魔強奪透け透けズブっと刑事デカ! 2巻!!


ドリオ:奴は――それを狙ってきっとまたやってくるだろうな。


ヒメカ:ハッ。


ドリオ:そのタイトル。卑しいな。


ユリカ:たっタイトルが卑しいだけで! 

ただの単純な、つまらない学園ファンタジーラブコメ推理歴史ホラーモノなんだからっ!


ヒメカ:単純な?


ルイ:いつも夢中で読んでるくせに。


ドリオ:わしも読んでみたいぞ。


ヒメカ:そ? ふふっ。どうぞっ! はい一巻っ! まいどありっ!


ドリオ:ははは。ヒメは本当に商売上手じゃのう!


ヒメカ:もーっ! 褒めすぎい。あっ。ちょっとコンビニ行こっ!


ドリオ:んっ!


ヒメカとドリオ出て行く。


ドリオ:ファンタジー連盟では主に何をやるんじゃ?


ヒメカ:ファンタジー同好会だってば~。んっとね、魔方陣書いたり。わら人形作ったり。ハリポタ見たり。


ドリオ:厨ナントカ病みたいだな。


ヒメカ:そーお? かに~?



Scene 3


ルイ:ユリカさんっ!


ユリカ:はい。


ルイ:あんなやつに、ユリカさんを渡したりしませんから。絶対。どんな姑息で卑怯な手を使っても守ります。


ユリカ:そうですか。


ルイ:あっ。ちょっ、ちょっとっ! 待ってくださいよっ! ユリカさんっ! もうちょっとで店閉めますからっ!


ユリカ:店真員さん。


ルイ:はいっ!?


ユリカ:ヒメカが残したサンドイッチ、私、食べてもいいですか?


ルイ:えっ?


ユリカ:食べたいんです。


ルイ:はあ、まあ、いいですけど。


ユリカ:いただきます。


ルイ:ユリカさん……。


ユリカ:はむ。


ルイ:あの、


ユリカ:なんですか?


ルイ:好きです。


ユリカ:知ってます。


ルイ:あはは。


ユリカ:店真員さん。


ルイ:はい? あ、「名前で呼んでもいい?」ですかっ? いいですともっ!


ユリカ:違います。


ルイ:えーっ? ってか、さっき呼んでませんでした?


ユリカ:気のせいです。


ルイ:そうかなあ?


ユリカ:店真員さん。


ルイ:はい?


ユリカ:店真員さんが作るご飯って美味しいですよね。


ルイ:え?


ユリカ:明日も、食べたいです……。




END

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