試験開始、目指すは不合格?
今、寝て起きたら全てが夢だったなんてオチにならないかな…ぶっちゃけ、ビビりまくってます。
だって、クレシタ冒険者高校の試験会場は熱気ではなく殺気に包まれてるだもん。
(試験会場にいるのが、全員俺と同い年?いやいや猿人が老けやすいと言ってもそれはないだろ。どうみても中学生に見えないじゃん)
試験会場には明らかに二十歳を越えていそうな人やベテラン冒険者っぽい風貌の人、絶対に素人じゃない人等様々。
ここの受験資格に年齢制限はないんだろうか?
しかも俺は、この方達と実技試験で試合をしなきゃいけないらしい。
勝てば恨まれて、負ければボコボコ…だから俺のモチベーションはだだ下がり。
(こうなりゃ筆記試験でわざとカンニングして退場させられるか…いや、外国人の利点を活かして実技試験に進めない様にすれば良いんだ!!)
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マジかよ…なんだんよ、この簡単過ぎる問題は?
依頼料の合計を出せって、これじゃ数学じゃなくて算数じゃん。
理科で、魔物の名前を書きなさいって何?
イントルさんの宿題だと亜種名まで書かないとバツなんだぜ。
社会でロキバルバの国名を書きなさいって…俺は各国の歴史や政治情勢まで勉強したのに?
国語で依頼文のおかしい所を直せって間違い探しじゃないんだから…爺さんの書類のチェックの感覚でいくと全部直す必要があるよ。
特例時の報奨金の増減とか期日を過ぎた時の依頼料の減額の仕方とか書かなきゃサインもらえないんだぜ。
筆記試験を終えると狙ったかの様にルータ先生が話し掛けてきた。
「よぉ、モノリス。筆記試験はどうだった?受かりそうか?」
「いくら俺が馬鹿でも、あんな簡単な問題は間違わないっすよ」
ルータ先生は一瞬考え込む素振りを見せたが、直ぐにニヤリと嫌な笑顔を見せてくれた。
「どうやら本当に他の大陸の生まれらしいな。メント公国の識字率は高くないんだ。あれ以上難しくすると合格者が激減するんだよ」
「あの他の大陸ってどこで…」
いや、どこまで俺の情報を掴んでいるんだ。
「お前の受験申込書に書いてあったんだよ。話し言葉がスムーズだからロキバルバの生まれだと思ったんだけどな」
「そうっすか。ちなみにロキバルバやメント公国で冒険者は人気職業なんすか?」
「ああ、冒険者になりゃ食いっぱぐれる事は少ないからな。それに強くなりゃ稼げるし、うまく行けば国の兵にもなれる」
ただし、最前線に配属ってオチがつくんだろうけど。
「そうっすか、でも冒険者に学校なんて必要なんすか?」
「ロキバルバで冒険者になるには資格がいるんだよ、うちの学校を卒業すれば、その資格がもらえる。それに読み書きが出来なきゃ騙されるし、計算が出来なきゃ依頼料をちょろまかされる。筆記試験は受験生のレベルを見るもので合否は実技の方がウェイトが重い」
そりゃ人気になるよな、安い金で読み書きや計算を教えてもらえるんだから。
「資格の管理は国がやってるんすか?それともギルドっすか?」
「ギルドだぜ。ギルドに逆らって食いっぱぐれた冒険者もいるから気を付けろよ」
つまり冒険者の資格は犯罪抑制の為の首輪も兼ねているらしい。
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実技試験は一対一の試合を行い、その内容を見て合否を決めるらしい。
そして素手か模擬刀等の武器を使用する。
大事なのは勝敗よりも試合の中身で、冒険者に向いているかどうかを判断すると。
(一人だけ暴走する奴がいるとパーティー全員が危険に晒されるからな。つうか、俺はエルフィンで魔物退治をしてたから合格確定じゃん。…どうせなら優しそうな人か弱そうな人と当たってくれ!!)
でも、見た目で俺より弱そうな人はいないんだけどね。
試合は学園の闘技場で行われるんだけど、それがまさかの石造り…投げ飛ばされたら流血が確定です。
恨まれるのは嫌だけど痛いのはもっと嫌。
「次、コウゼン・モノリスとクレシタの血塗れハンセンことベアー・ハンセン」
呼ばれて出てきたのは、二メートル近い毛むくじゃらの大男。
布の服に布のパンツだけど迫力満天で
、どうみて中学生には見えない。
クレシタの中学には留年制度があるんだろうか?
「今年は絶対に合格してやる。クレシタの血塗れハンセンに当たった不幸を恨むんだな」
血塗れなんて異名を自称している人と、試合をしなきゃいけない恥ずかしさなら恨むけど。
「モノリス気を付けろよ。そいつの拳は皮膚を切り裂くからな」
ルータ先生は注意してくれたが、余程の達人じゃなきゃそんなのは不可能に近い。
「今年は?ちなみに受験は今年で何年目っすか?」
「六回目だ、今まで当たった奴を半殺しにしていたら落とされたんだよ。今年は完璧に息の根を止めてやる。ビビってチビるなよ?」
ビビった!!二十歳になって血塗れハンセン?
それを言って許されるのは、十三歳までだって。
家の王子様も、暴れん坊ガーグって言ってたけど。
つうか、試合で半殺しになんかにするから落ちるんだって。
試合で自分をコントロール出来ない奴が魔物に勝てる訳がない。
「冒険者になって何がしたいんすか?」
二十歳を越したら堅実な生き方をした方が良いと思うんだけどな。
「エルフの奴隷を買うんだよ。お高くとまったエルフの女を奴隷にしてヒイヒイ言わせるんだ」
エルフの女を奴隷にするか…それなら俺は血塗れハンセンをヒイヒイ言わせて冒険者を諦めさせてやろう。
ハンセンは素手で戦うらしい…わざわざ血塗れを宣伝するのは過去の試合が脅しに効くからだ。
素手で切り裂いて血塗れか…そしてハンセンの掌が微妙に膨らんでいる。
つまり、ハンセンの手口はあれだ。
試合開始の合図と共にハンセンが大袈裟な構えをとった。
俺も模擬槍を構える。
(これで確定だな…ハンセンの掌の中に小さなファイヤーボール)
ちなみに俺はファイヤーボールは大小様々、スピードも自由にコントロール出来る。
でも、いまだに師匠から合格はもらえていない。
「あ、熱っちー!!手が焼ける!!」
俺の放ったスモールファイヤーボールじゃ火傷どころかまともなダメージを与えれないだろう…ただし、人にはね。
「やっぱり釘を隠し持ってたんすね。服に隠した釘を掌に隠して切り裂いていたんすね」
これでハンセンの反則負けにして欲しいんだけども。
「てめぇ、俺の奥の手をばらしやがって」
「いや、そこはシラを切るところっす。どっちにしろ、あんたには冒険者は無理っすよ。勝ててもゴブリンくらいっすね。相手を誘い込む為に大袈裟な構えをとったんだと思うんすけど、あんな構えじゃ腕を食い千切られてお仕舞いっすよ」
頑張れ、俺出来るだけ時間を稼ぐんだ。
そして審判、俺の勝ちのコールを早くしてくれ。
「てめぇ、殺してやるっ!!」
マジ切れのハンセンが近づいてくる。
「勝者、コウゼン・モノリス。早くその馬鹿を捕まえて牢屋にぶちこめっ」
(良かったあの程度の奴に奥の手を出さずに済んだ…って、良くねえよ。これじゃあ合格確定じゃん)
後日、合格通知を見て俺は思わず泣いてしまった。
だって、冒険者学校には、エルフの少女なんている訳がない。
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