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旅立ちの日

 埋め込み手術が無事?成功すると、師匠が紙の束を渡してきた。


「功善君、5日後にはメント公国に渡ってもらいます。メント公国に行ったらエルフィンの人とはなかなか会えなくなりますから、お別れの手紙を出して下さい。誰も見送りがいないのは寂しいでしょ?」


「でも、エルフィンに手紙が着くに6日は掛かりますよ。今からじゃ間に合わないっすよ」

 手紙が着く頃には俺は船の上だから意味がない。


「私がそんな初歩的なミスをする訳ないでしょ?その手紙に名前を書いて紙飛行機にすれば相手の所に自ら飛んでいきます。しかも功善君との絆が深ければ深いほど、飛ぶ速さも増すんですよ。功才君から折り紙を教えてもらってますよね?」


 爺さんがニホンから持ってきた技術のお陰で紙の大量生産が可能になりエルフィンでは紙が安く買えるし、俺は紙飛行機ぐらいなら簡単に作れる。

 手紙を出すとしたら、家族は当然だしシャルレーゼ様やガーグ様にも出しておきたい。

 後は、シルビアさんにも出してみよう…俺がいきなり居なくなって心配してるかもしれない。 

 結果…家族の紙飛行機は作るなり物凄いスピードで飛んでいったし、シャルレーゼ様達への紙飛行機も向かい風を無視して勢いよく飛んでいった。

 そう、1つを除いては


「功善君、功善君、一つだけ足元からピクリとも動かない紙飛行機がありますよ。これはデータボールの出番です」


データボール参照 シルビアさんへの紙飛行機

 飛ばなかった紙飛行機…それは切なさの象徴

 飛ばなかった紙飛行機…それは青春の思い出

 飛ばなかった紙飛行機…それは功善君が振られた証

 作者 愛の詩人ロッキ 

 師匠は、これを読ませたい為にデータボールの指示を出したんだな。


「爺ちゃんの言ってた通りデータボールって無駄に高性能なんすね」


「まあ、お相手は功善君をただの猿人と思っているんですから仕方ないですよ。私が功才君に頼まれて超高性グレイト認識障害魔法を掛けたんですから分からなくて当たり前なんですけどね」

 うん、だから正体がばれなかったんだ。


―――――――――――――――


 ロキバルバにはエレガンスの港から行けるんだけれども、師匠に転移魔法で連れられて来らたのは岩場。

 正確にはやたら薄気味悪い洞窟の近くにある岩場なんだけれども…


「師匠、船が見えないんすけど…っていうか、ここには小舟しか着かないっすよね」

 いや、見たくはない物は見えてるんだけど。


「もう、嬉しいからってとぼけなくても良いですよ。創地神ロキが世界樹ユグドラシアルを利用して作った段ボール船イナバホワイトラビット号を授けちゃいます」


「世界樹で段ボールを作ったんすか?なんで木造船じゃないんすか?」

 師匠が指差す先には手書きで”イナバ”と書かれた大きな四角い段ボール箱が浮いていた。


「これはただの段ボール船じゃないですよ。防水魔法と不沈魔法を掛けていますし、便利なナビつき。その上に魔力によって回転速度が変わるスクリューまでついてるんですよ」


「ちなみにナビってのは、段ボールで出来た矢印の事じゃないっすよね?」


「大正解です。それに魔力を流して念じれば目的地を指してくれます。しかも、舵と連動してるなんて正に至れり尽くせりじゃないですか」

 いや、嫌がせここに極まれりって感じなんだけど。 


「雨が降ったり嵐に遭ったらどうするんすか?やっぱり安全に大きな船で」


「そんな時は蓋を閉めて箱状にしてしまえば問題ありません。きちんと蓋は紐と連動していますし」

 つまり、海が荒れたら沈まないけど地獄の船酔いが待ってると。


「ひ、引っ越しの荷物はどうするんすか?この段ボールには積みきれないっすよ。重さに耐えれないかもしれないっすよ」

 ちなみに俺の荷物は父さん達が持って来てくれる手筈になっている。


「安心して下さい。イナバとは異世界の言葉で100人乗っても大丈夫と言う意味です。それに君の荷物はきちんと乗りますよ。ねっ、功才君」

 師匠が虚空に声を掛けると、そこから爺ちゃん達が姿を現した。


「功善、お前の荷物はこの時空リュックに入っている。持っていけ」

 爺ちゃんがんがくれたのは真っ黒なリュック。


「じ、時空リュックって家宝だろ?持ってないよ」


「コウゼン、どんな宝物も受け継ぐ人がいなきゃ宝の持ち腐れなんだよ。お婆ちゃんが昔使ったミスリルの弓矢も入れておいたからきちんと使いなさい」

 メリーお婆ちゃんは、そう言うと子供の頃みたいに頭を撫でてくれた。

 

「コウゼン、いってらっしゃい。身体に気を付けてね。野菜もちゃんと食べて、それからそれから…お母さんはお前が元気ならそれで充分だから無理はしないでね」


「功善、頑張ってこい。お前は父さんと母さんの自慢の息子だ、どこにいっても大丈夫だ」

 父さんと母さんは優しい目で俺を見守ってくれている。


「コウゼン、お姉ちゃんはそのうち公務でメント公国に行くから案内を頼むわね。悪い女に引っ掛かちゃダメよ」

 

「コウゼン、向こうの女に馬鹿にされたらお姉ちゃんに言いなさい。お姉ちゃんが倍返しにしてやるから」


「お兄ちゃん、店の事は私に任せて。だから…だからちゃんと帰って来てね」

 顔は似てないけど、この人達は俺の大切な姉妹だ。


「コウゼン、忘れるでないぞ。エルフィンがお前の祖国で帰る場所じゃ。お前は誰が何と言おうとエルフィンの民なんじゃからな」

 シャルレーゼ様が庇ってくれなければ俺はエルフィンから逃げていたかもしれない。


「コウゼン、気合いを入れて行けよ。なーに、お前に半端な事をしたら国を挙げてケンカをしに行くから安心しろ」

 ガーグ様が大きな手で俺の背中を押してくれた。

 この日、俺は初めてエルフィンから、そして家族から離れた。

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