パープエルフ?
面倒な事になった。犯人は公爵の息子で、公的に存在しない人物。かなりの証拠を提示しないとパトス公爵にしらを切られて終わりだろう。証拠を掴もうにも、ここは敵の本拠地。下手に動けば闇に葬られてしまう。
「さてと、どうすっかな。あのネージュって奴を引き摺り出す訳にもいかないし」
「ハーフエルフってエルフと同じで恐い位に顔が整っていて、俺達とは別の生き物だよな」
この失敬な牛人を、今すぐ絶対結界から叩き出してやりたい。そんな事をしたら、俺も見つかってしまうので断念するけど。
「おい、脳筋牛人。お前の隣にいるのもハーフエルフって事を忘れてないか?」
俺の場合は、面白い顔なんだけど。
「お前はハーフエルフってより、パープエルフだからな。それでパープエルフさん、これからどうするんだ?」
誰がパープエルフだ。今はそれよりネージュをどうすかだ。
(でも、ネージュはどうやってエルフの女の子と接触したんだ?女の子か言っていた耳の長い人はネージュの事だと思う。でも、ネージュのいる部屋には鉄格子がある。だから、ネージュは外に出れない…あの鉄格子がネージュのアリバイになっちまう)
普通に考えれば城内に内通者がいるんだろうけど、そんな簡単に見つかるとは思えない。そいつは主であるパトス公爵をも欺いているんだから。
「でも、あの人は公爵様の子供なんでしょ?なんで、あんな所に閉じ込めてるんだろ」
貴族のそういう醜さは、一般家庭に育ったトロイ君には想像がつかないかも知れない。
「パトス公爵は猿人至情主義、ハーフエルフの息子がいるなんてバレたら不味いんだよ。しかも、ネージュの髪は白。昔、パトス公爵が捕まえたエルフの姉妹の一人を嫌でも連想させる。いくら猿人至情主義が蔓延っている地でも領主の権威がガタ落ちになるんだよ」
白い髪、ラシーヌさんは白い髪に気を付けろっ言った。もしかして、ラシーヌさんはネージュの事を知っていたんじゃないだろうか?そしてネージュもゼーロとラシーヌさんの事を知っている。それならゼーロが今回の依頼に参加しなかった事も頷ける。下手すりゃ自分もテロの一味にされちまうんだから。
「問題はなんで、パトスがネージュを今まで生かしてたかだよな。策略の才能があるかどうかなんて、餓鬼の頃には分からねえだろ?」
エリーゼ叔母さんの言う通り、ネージュを赤ん坊のうちに殺した方が安全だ。さっきの話し合いを見る限り、肉親の情が湧いたとは考え難い。簡単に考えればハーフエルフの魔力に期待したか好き者の貴婦人辺りに売ろうとしたかだ。
「それを今考えても始まらないっすよ。なんか証拠を見つければ良いんすけど」
俺がネージュの立場ならどうする?どう動けば有利になる。同じ(…)ハーフエルフだから俺なら分かる筈だ。
(ネージュのあの態度、パトス公爵に殺されてもおかしくないよな。隠し子が消えても誰も騒がないし…待てよ、冒険者に依頼が出した事はネージュの耳にも入ってる筈。そしてネージュには協力者がいる…こりゃ、利用されちまったな)
「コウゼン、どうした?」
「エリーゼ叔母さん、冒険者の配置図を見せてもらえるっすか?…ここがパトス公爵の部屋だから、この辺まで下がれば大丈夫だな。後はメデューサをうまく交わせれば」
パープエルフでもエルフはエルフ。猿人には分からない魔力を感知する事が出来る。
(まーた絶妙な位地に配置してくれたっすね)
メデューサがいるのは城の中央部、パトス公爵の部屋へと続く階段の近くにいた。。そこからゆっくりとこちにら向かってきている。このまま進めばメデューサに背後を突かれてしまう。
「今から元の配置場所に戻るっすよ。多分、冒険者が大勢逃げてくると思うのではぐれない様にして欲しいっす」
メデューサが絶妙な位地に現れたから確信出来た。この一件、絶対に師匠が絡んでる。
配置場所に移動しようとしていると、物凄い地響きが聞こえてきた。そして微かではあるが、廊下も揺れている。
「地震?…違う、これは足音じゃないか」
エリーゼ叔母さんの言った通り、地響きだと思っていたのは沢山の足音。そして近づくにつれて音は明瞭に聞こえてきた。鎧が擦れるガチャガチャと言う金属音、何かから必死に逃げ惑うバタバタと言う足音、苦悶にも悲鳴にも聞こえる人の声。
「ば、化け物だ!!剣も魔法も効かねえ」
「なんだよ。目が合っただ石にされるなんて理不尽過ぎるだろっ」
「あんな化け物、倒せる訳ねーよ」
そう、メデューサは倒せない。逆立ちしようが、バック転しようが倒せないんだ。
ミッシェル先生は俺にパトス公爵の情報を集めろとは言ったが、メデューサを倒せとは言ってない。
「俺がしんがりを勤めるっすから、みんな先に逃げるっすよ…メデューサが来たっす!!早く行くっす」
実際にはメデューサのメの字もないんだが、確認する人はいない。そりゃそうだ、確認したら石にされちゃうんだし。
でも、効果はてきめん。冒険者達は恥も外聞も捨てて、一斉に走り出した。
「みんな、武器をしっかり縛って抜けない様にしといて…それじゃ、取い出し足りるは三枚の御札ならぬ三つのシールドボール」
美容に良いトナ・リノハナ湖の泥入り。一本道になった所で、泥入りシールドボールを後ろに転がす。
「マジックキャンセル、マジックキャンセル、マジックキャンセルー!!」
倒せないんなら足止めすりゃ良い。でも、壁やただの泥で足止めしたら、失礼に当たる。メデューサ様の不興をかったら一大事だ。蛇は湿気を好むし、メデューサは女性。美容に良い泥なら顔についても怒らないと思う…頼むから怒らないで下さい。モテナイ君が必死に考えた結果です。
…そしてある情報が飛び込んできた。パトス公爵が刺殺され、冒険者の一人が捕縛されたらしい…今回は後塵を帰したが、同じハーフエルフ、次は負けない。




