進むべき道
爺ちゃんが後半年しか持たない、余りの衝撃に体の力が抜けていく。
体が氷の様に冷たくなり、試合中なのに立ち上がる事すら出来ない。
「こら、立ち上がれ。まだ試合は終わってねえぞ」
俺の耳に届いたのは鬼の咆哮。
王子に痛めつけられたから立てないんすけど。
明日のパレード護衛は身体痛により、自主的に休ませてもらおう。
「王子、モノリス選手は明日パレードの護衛もしてくれるんですよ。その辺で止めてもらえませんか?」
誰かがガーグ様を止めてくれたらしい。
痛む首を何とか動かしてみると、そこにいたのは悪魔。
ヤバイ、この展開は禄な事がない。
「だ、大丈夫っす。俺はま…」「サイレント。どうしました?コウゼン君…パラライズ…大変です、ザイツ選手が痛みの余り気絶してしまいました」
悪魔のサイレントとパラライズのコンボで、身動きがとれなくなる。
「皆さん、ザイツ選手を運んで下さい。ザイツ選手を気絶させたのはガーグ王子ですからエルフィンが責任を持って看病をしなくてはいけません。大使館にお連れしない」
不味い、大使館で看病されたら、明日のパレードをサボれなくなる。
「コウゼン君、私の計画から逃げれると思ったら大間違いですよ」
その後、俺は簀巻きにされてエルフィンの大使館に連行された。
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ガーグ・エルフィンローズ、イントル・ハンネス、功才・財津。
この三人はエルフィン三英雄と言われている。
先の大戦で自ら前線で戦いエルフィンを滅亡の危機から救い、その後卓越したリーダーシップで国を発展に導いたガーグ王子。
あらゆる知識や芸術に精通し、オーディヌス大陸全ての国との同盟を結んだイントル・ハンネス。
ガーグ王子に狡知で勝利を持もたらし、エルフィンには異世界の知識で発展に導いた功才・財津。
この三人がいなかったらエルフィンだけじゃなくオーディヌスはレクレールに支配されていたかも知れない。
爺ちゃんを安心させると言う事は、残りの二人も納得させなきゃいけない。
…ぶっちゃっけ、全く思い付かない。
俺は冒険者だから依頼を成功させるのが一番だ。
でも、そんな都合の良い依頼なんてある訳がないし、あっても学生の俺が受けれないだろう。
これが物語なら、トラブルに巻き込まれて解決ってパターンもあるだろう。
でもトラブル待ちなんてしていたら、直ぐに半年は過ぎる。
一番現実的なのは彼女を作る事だろう。
俺はザイツ伯爵を継ぐから伴侶は必須、それも恋愛結婚じゃなきゃいけない。
伯爵家の後ろ楯なしで恋人を作る…これが一番難しい。
何故なら恋人の場合、ザイツ家女性陣も納得させなきゃいけなくなる。
メリー婆ちゃん、母さん、姉ちゃん、コメット姉ちゃん、シャルレイン姉ちゃん、メリルを納得させる女性なんている訳がない…いても、そんなハイスペックな女性が俺の恋人になる訳がない。
困った時の神頼みって言葉があるけど、俺の知ってる神様は時代を明明後日の方向に持っていくから危険だ。
(とりあえず明日のパレードを成功させてから考えるか)
寝不足の所為で王家の人間を危険に晒したら、廃嫡されてしまう。
…明日、雨で中止にならないかな。
大使館にいるから、逃げれないし。
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朝起きたら嫌になる位の晴天だった。
正に雲一つない青空、遥か遠くまで澄み渡っている青空、そしてパレード中止は絶対にあり得ない青空である。
(くっ、神よ。我に腹痛を与え給え)
当然、ながらそんな願いを叶えてくれる神様なんている訳もなく出掛ける時間が来てしまった。
俺達の持ち場は王家の馬車のすぐ側。
屋根のないオープン型の馬車に乗りながら、シャルレーゼ様やガーグ王子が沿道の人達に向かって手を振っている。
「しかし、エルフの傷薬は本当に効くんだな。あれだけボロボロにされたのに次の日には体が動くんだからよ」
まあ、エルフの傷薬の効能だけじゃなく、フォルテの体が頑丈だから動けているんだと思う。
「デスホークとライトは休みらいしな。笑劇団からは女性陣のみが参加か」
確か名前はレインとルリア、二人は俺達の少し前を歩いている。
「おい、スケベ坊主。護衛の最中に女に見惚れてんじゃねえぞ」
「エリーゼ先生誤解っすよ。あの二人からは違う意味で目を離せないんすよ」
ライト達がいないから、あの二人が動く筈。
俺達だけなら女性と戦いにくいが、今は見た目は女性、中身はオーガのエリーゼ先生がいるから心配はない。
しばらく歩いていると、レインとルリアの二人が突然距離を開けた。
そして、その隙間から一人の少女が飛び出してきた。
飛び出して来たってのは、正確じゃなく誰かに背中を押されたって感じだ。
年は五・六才で首から小さな体とは不釣り合いの大きな石をぶら下げている。
「あの石は…ガーグ、馬車を停めろ。あれは魔力に反応して爆発するマジックアイテムだ」
エリーゼ先生の言葉に沿道がパニックになる。
「エリーゼ先生、爆発規模はどれ位なんすか?」
「威力も強いし、範囲も広い。エルフは近づくなよ。猿人の魔力位じゃ爆発しねえが、エルフの魔力があると爆発する」
あんな小さい子が、馬車の前に倒れこんで来たら、シャルレーゼ様やガーグ様が放っておく訳がない。
それに二人が近づかなくても、護衛のエルフが動けば反応して爆発すると…。
「あの首輪を外したら、どうなるんすか?」
「魔力を流さないと外れないと思うぜ。留め具の所にもマジックアイテムが着いている」
流石は元魔法研究所職員、見ただけでマジックアイテムの効果を特定した。
「エルフの魔力じゃなきゃ大丈夫なんすね。みんな、動くぞ」
肝心のメント騎士団は爆発を恐れて及び腰だし。
「コウゼン、早く指示を出せ。あんな小さい娘が泣いてんのに放っておくのは性に合わねえ」
フォルテが少女に向かって一歩前に出た。
「モノリス君、僕なら何時でもいけるよ」
トロイ君はそう言って笑顔を見せてくれる。
「コウゼン君、僕は何をすれば良いんだい?」
ゼーロは俺の指示を待ってくれている。
「モノリスさん、今度は何をみせてくれるんです?」
ラシーヌさんは逃げる素振りもみせない。
そうだ、俺一人ではやれる事に限界がある。
でも、この仲間となら何かが出来る筈だ。
「トロイ君、あの首輪を外して。そうしたらラシーヌさんは鞭を使って、首輪を放り投げて欲しいっす。ゼーロは女の子を保護。フォルテ、腹の高さで手を組んでくれ。俺はそれを足場にしてジャンプをする…いくぞ!!」
「大丈夫、お兄ちゃんに任せて。直ぐにお母さんの所に帰してあげるから…ラシーヌさん!!」
爆発の怖さを隠しながらトロイ君が優しく微笑む。
「分かりました。ゼーロ様、女の子をお願いします」
ラシーヌさんは首輪に鞭を巻き付けると、空高く放り投げた。
「コウゼン、来い」
フォルテと息を合わせて思いっきり跳ぶ。
「フライッ&シルードボール五連」
空中で首輪にシルードボールを掛ける。
シルードボールが、爆発に耐えれないとヤバイので五重に重ね掛けをする。
首輪は俺の魔力に反応したらしく、爆音をたてながら爆発した。
そして女の子はこう言った。
耳の長い人に首輪をつけられたと。
耳の長い人、それはエルフの事かもれない。
ちなみに神様は俺の願を聞いていたらしく、パレード終了と同時に腹痛に合わせてくれた。




