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メントとエルフ

 ショックの余り、目の前が暗くなる。

 足元が覚束(おぼつか)なくなり、初夏の校庭にいる筈なのに寒気までしてきた。


「お前等も聞いていると思うが、後日メントにエルフィン聖皇国の王家の方々がご来訪される。お前等には護衛の任務に着いてもらう。分かったな!!」

 気合いが入りまくった近接課のスパ・ルータ先生が叫ぶ。

 叫ばれているのは各学年から選抜されたパーティー。

 俺達も選ばれたし、予想通りライト達もいる。

 ここまでは良い…でも、なんであの人達が冒険者学校に来てるんだ!?


「私の名前はミッシェル・スターローズ、エルフィンの大使しております。今回、我がエルフィン聖皇の護衛を受けて頂きありがとうございます」

 そう言って優しい笑顔で微笑むミッシェル先生。

 沸き上がる黄色い歓声と漏れまくる溜め息。

 何人かの女子が初めてみるエルフの美貌に見とれたんだろう。

 言っておく、あれは悪魔だ。

 必要とあらば眉一つ動かさずに、俺達に精霊魔法をぶっ放すんだぞ。


「俺の名前はエリーゼ・ロックオーガ。ルーンランドの大使だ。当日は俺も警備に回る、よろしく、頼むぜ」

 そう言って不適に笑うエリーゼ教官。

 

「おいっ…返事はどうした?目の上の人間には返事をするのは礼儀だぞっ」


「「「はい」」」

 出来るだけ大声で返事をする…俺の場合は条件反射なんだけど。

 

「声が小さい。そんな、か細い声じゃ戦場で、かき消されちまうぞ」


「「「はいっ!!」」」


「そこの猿人、口の開きが小さい。その場で腕立てを五十」

 言うまでもなく、猿人とは俺の事。

 直ぐ様に腕立てを始めると、背中に重みを感じた。


(ぐおっ!!先生だな…重力魔法を使いやがった)


「スピードが遅い。二十回追加っ!!」


「押忍っ!!」

 遂に安息(がっこう)の地にまで悪魔と鬼が攻め込んで来た。


「良いか!?戦場での油断や甘えは死に繋がる。死にたい奴は油断をしろ。仲間を死なせたなくい奴は甘えを捨てろっ!!以上だっ!!」 


「「「押忍っ!!」」」


(流石はエリーゼ教官、俺を見せしめにして生徒の気持ちを掌握したんだな。だけど気になるのは騎士や貴族の連中だ)

 ミッシェル先生をあからさまな侮蔑の視線で見ている奴もいた。


(ミッシェル先生は自分が出る事で、犯人の特定をしようとしたんだな。そして直ぐに、エリーゼ教官のインパクトで打ち消したと)

 他の生徒なら逆恨みをするかも知れないけど、俺ならしごき放題なんだし。


――――――――――――――


 ボロボロの体を引き摺りながら、学校の図書館に向かう。

 調べるのは、なんでメントではエルフが嫌われているかだ。

 入学してから少しずつ調べていたが、あまりにも漠然としていて(いま)だに満足いく結果を得れずにいた。

 でも今日で確信出来た事がある。

 エルフを忌み嫌っているのは一部の貴族や騎士だけだ。

 どうやら庶民はエルフを嫌っていると言うより、縁が無さすぎて珍しい生き物としか見ていない。

 つまり、貴族の歴史に何かヒントが隠されている筈。

 一番古い歴書から読んでいき、エルフが記載されなくなった時代を特定、そしてその辺りの貴族の書物を調べていけば…。

 そんな風に考えていた俺が馬鹿でした。

 そんな貴重な資料が学校の図書館にある訳がないし、メントの紙の質は悪いらしく古い書籍が残されていないらしい。


(やっぱり誰かに聞いてみるか?怪しまれずに聞けるとしたら誰だ?)

 後ろ楯になってくれているとは言え、イーエラ子爵もイーツゴ男爵もメントの貴族。

 この時期に国に不利益に繋がる情報は教えてくれないだろう。


「よお、モノリス。さっきは災難だったな。しっかし、あのルーンランドの大使はおっかねえな」

 俺に話し掛けてきたのはスパ・ルータ先生。

 ルータ先生は、自分が司会をしただけに俺の事が気になったんだろう。

(待てよ…ルータ先生は俺が外国人だって知ってる。それなら聞いても怪しまれないか)


「そうっすかね?それより気になったんんすけど、なんでエルフィンの大使を睨んでいた人がいたんすか?」

 下手に同意したら、どんな特別訓練が待ってるか分からない。


「そういやお前は外国の生まれだったな…ここじゃ、あれだから指導室に行くぞ」

 先生の態度を見る限り、ここが静かにしなきゃいけない図書館だからじゃない様だ。


――――――――――――――


 ルータ先生はドカリと椅子に座ると、ゆっくり口を開いた。


「今から四百年も昔の話だ。その頃はメントでエルフを見る事も珍しくなかったらしいな。エルフの治療院もあったそうだ?」


「治癒魔法っすか?」

 緊急性が高ければ猿人相手に治癒魔法を掛けるのは有用だ。


「ああ、治癒魔法はエルフみたく魔力が強くなきゃ使えないからな」

 それだけじゃ正確ではない、治癒魔法は自分の生命力と魔力を媒介して相手の生命力に働きかけ掛ける魔法。

 早い話が寿命の前借りをして傷を治す魔法。

 もし、猿人に治癒魔法を乱発したら直ぐに老衰を迎える。


「それだけじゃ嫌われる様に思えないんすけど」


「ああ、ある貴族の若様が怪我をしたらいんだがエルフは治癒魔法を拒否したらしい」

 治癒魔法を掛けるのを拒否…病弱で生命力が弱い人、病気や毒に侵されている時、何度も治癒魔法を掛けて生命力に限界が来ている人。


「その怪我が原因で若様が死んだんすか?」


「いや、命に別状はなかったが傷が残り、婚約が破談になったらしい。怒った若様は治癒魔法を掛けたエルフを殺し、その婚約者のエルフを奴隷にしたそうだ。それを聞いたエルフは怒り鎖国したらしい」

 うん、馬鹿貴族だ。

 当然、周りには都合よく言い触らしたんだろう。

 だから、貴族にはエルフ嫌いなんだろうな…エルフを悪者にしておかなきゃ自分が悪者になると。

 エルフにとって四百年は代替わりする程、長い年月ではない。

 王家としては治癒魔法の使い手が少なくなるし、他国から責められるからエルフィンとの繋がりを強めたいんだな。


「随分と詳しいんすね」


「…餓鬼の頃、近所に奴隷にされていたエルフがいたんだよ。その人から聞いたんだ。俺が怪我がして泣いた時に治癒してくれてさ…初恋だよ」

 そういやルータ先生は独身らしい。

 未だにそのエルフに恋をしてるか、奴隷から救えない自分を責めてるのか。


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