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旅立ちの反響

 風呂から上がると、何故か家の空気が重苦しくなっていた。


「あれ?爺ちゃん達がこの時間に来るなんて珍しいね。コメット姉さんにガーポ義兄さんまで、みんなで集まって何かあったの?」

 家は割りと家族の行事を大切にする方だから、何かあると一家が集まるのは珍しくない。

 でも、今日はガーポ義兄さんやコメット姉さんが来る様な行事は何もない筈だ。


「功善、そこに座れ。財津家の当主としてお前に命を降す…バルバ大陸にあるメント公国に留学しろ、これは創地神様からの命でもある。納得したら準備をしろ」

 

「留学?確かにまだ高校は決まってないけど…今はまだ10月だよ」

 5ヶ月も前から旅立ちの準備をするのは早過ぎると思う。


「来週から魔導士の塔で修業をしてもらう。学校から卒業見込みの書類は出してもらった。お前が学校で学ぶ事はもうないって、イントルさんも言ってるし」

 確かに、イントルさんの通信教育のお陰で学校の勉強より先に進めている。


「ら、来週?ちなみに何年間の留学になるの?」


「ししょ…創地神様は行けば分かると言っている」

 これはチャンスかも知れない。

 このまま高校に進学しても嫁さんどころか彼女すら出来ない可能性がある。

 ザイツの名前を出せば直ぐに出来るかも知れないけど、そんな人を母さんや姉ちゃん達が認める訳がない。

 ましてやザイツ家の嫁となるとシャルレーゼ女王様とメリー婆ちゃんの両巨頭の認可がいる。

 何より…

(バルバに行けば周りはエルフだけじゃなくなる筈。これで外れエルフとか偽物エルフって言われずに済むっ!!)


「分かりました、留学をします」

 彼女は無理かも知れないけれども、エルフやザイツの名前に負い目を感じない様になりたい。


「コウゼン!!きちんと考えて返事をしたの?みんなと何年も会えなくなるのよ」

 何時もは冷静なシャルレイン姉ちゃんが大きな声をあげる。


「お兄ちゃん…嫌だよ、私は遠くに行って欲しくないよ」

 何時もは大人ぶっているメリルが服の袖を掴んで離さない。


「コウゼン、遊びに行くのとは訳が違うんだよ…知らない国でなにが何かあっても誰も助けてはくれないだから」

 コメット姉さんは小さい子供に言い聞かせる様にゆっくりと語り掛けてきた。


「コウゼン、お前の決めた事だから俺は何も言わない。でも約束しろ、俺達を驚かせるぐらいに成長してこい」

 父さんはそう言って久し振りに頭を撫でてくれた。


「コウゼン、覚えておきなさい。ここが貴方の家でここにいるのが貴方の家族よ」

 母さんが潤んだ目で優しく話し掛けてくれた。


「コウゼン、俺が違う世界からオーディヌスに来たのも15の時なんだよ。あの頃の爺ちゃんと違ってお前は色んな人に鍛えられているんだ、何があっても平気だよ」

 俺はガーグ王子やガーポ義兄さんに武を鍛えられてもらい、イントルさんに知を鍛えられてもらい、メリー婆ちゃんから弓矢と森の事を教えてもらった。

 そして爺ちゃんからは戦い方を習っている。

 この人達の為にも頑張らなきゃいけない。


――――――――――――― 


 功善の留学は家族に大きな衝撃を与えた。

 特に功善の両親である功貴とセレーノの衝撃は大きかった。


「コウゼンも家を出ちゃうんだね。ついこの間まで赤ちゃんだったんだけどな」

 セリーゼにとって、功善はようやく授かった財津家の後継ぎになれる男子である。


「だよな、少し前まで、よくお前の後ろに隠れていたのにな」


「あれは仕方ないよ、コウゼンは人一倍繊細な子なんだから」

 財津家の後継ぎになる功善が生まれた時に、多くのお祝いの使者が訪ねてきた。

 しかし、殆んどの使者が功善の顔を見た途端に呆気にとられこう言った。

”伯爵やコウキ殿に似て元気そうな赤ん坊ですね”と。

 そして成長にするに連れて周りの目は冷やかな物になっていった。

”あれはエルフではなく猿人ですよ、あんな醜いエルフなんている訳がない”

”あれを産んだのはセレーノ殿じゃなく猿人の女だ”

”三英雄とはいえザイツ家に嫁は来ないだろう”

 特に貴族は財津家の隆盛を妬み好き勝手な事を言い、功善は何時の間にか他人に怯える子供になっていた。

 

「前に親父に聞いたらわざと放っておいたらしいぜ”愛情は俺達が与えれば良いんだし、人を見る目が養われる”って言ってたな…俺も同じ目にあったけど、結構きついんだよな」


「でもコウキには私がいたでしょ?シャルレーゼ様が一喝してくれなきゃコウゼンはエルフ不信になってたと思うよ」

 功貴とセリーゼは幼馴染みで成長するに連れてお互いを意識する様になり、生涯の伴侶になった。

 シャルレーゼ自身も猿人と結ばれハーフエルフを産んだ経験がある。

 そんな事もありシャルレーゼは功貴の子供達を可愛がり、次女シャルレインの名付け親になっていた。

 そんなシャルレーゼにしてみれば、噂話に勤しみ幼な子傷つける貴族を許せる訳がない。

 シャルレーゼはパーティーで功善の噂をしてい貴族を呼び出してこう言った。

”ザイツ家があるからエルフィンは創地神の加護を受けれておるのに…お前らはよほどエルフィンを滅ぼしたい様じゃな”

 それ以来、表だって功善の噂をする者はいなくなったらしい。


「あれは事前に頼んでいたんだとよ、噂を流していた貴族は不正もしていたらしいぜ。功善にも良い相手が見つかれば良いんだけどな、でも彼奴は見た目は猿人だけど中身はエルフだから何百年も生きるんだよな」

 もし、猿人の女性を伴侶に選んだ場合、功善は人生の大半を一人で生きなくてはならなくなる。

 いくら一人立ちを決めたとはいえ、愛息に対する心配は尽きないのであった。



――――――――――――――――


 数日後、俺のお別れパーティーが学校で開かれたんだが参加者はクラスの10人のみ。


「セブンライトの奴、わざと同じ目にパーティーをぶつけたんだぜ。なんだよ、ガーネおじさんの功績を祝うパーティーって」


「コウゼン、残念ながらシルビアさんもセブンライトの方に参加したそうだ」

 仕方がないと言えば仕方がない。

 何しろ、学校では俺は一般人の猿人族なんだから。


「コウゼン、気にしなくて良いわよ。フルイにかけたと思えば良いんだから」


「そうだよ、お兄ちゃんの良さが分からない女なんてこっちかお断り…そういえばローゼ達は?」

 メリルの言葉にクラスメイトが固まる…まあ、二人が俺のお別れパーティーに来た時点で顎を外す位に驚いたんだけど。


「あの二人にはセブンライトのパーティーに参加してもらって情報を集めてもらっているよ。セブンライトの近くにいる奴と遠巻きにしてる奴じゃ信用度も違うからな」

 でも、お別れパーティーにすら片想いの娘が来ない俺って。

 いや、逆に考えよう。

 ここにいる連中は信頼がおけると。

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