孫には孫の闘い方決着編
シールドボールを掛けておいたから、アラルウネラの球根には傷一つ着いていなかった。
「トロイ君は球根を持って。フォルテは魔物使いを頼む」
「良いけど…コウゼン、お前何者なんだ?」
フォルテが訝しげに問い質してくる。
うん、やっぱり俺の高貴な貴族オーラは隠しても隠し切れないんだろう。
「実は外国から来た貴族かも知れないぞ」
きっと、フォルテは”やっぱりな”と言ってくる筈だ。
そして、俺の正体を教えると”これまでの無礼をお許し下さい”と言うから、俺は”ダチに礼儀はいらない”と言う。
…完璧過ぎて、我ながら恐い。
「外国の貴族だぁ!?寝言は寝てから言え。庶民オブ庶民のお前が何を言ってんだ」
エルフも否定されてんのに貴族まで否定かよ。
「モノリス君、貴族がお弁当を売るのは無理があるよ」
フォルテに次いでトロイ君まで、俺の告白を冗談扱いするとは。
「俺がまとっている高貴なオーラが見えないだと?」
「今のお前がまとっているのは汗の臭いだけだろ…その、ありがとな。お前のお陰で助かったよ」
フォルテが顔を赤らめながら照れ臭そうに礼を言ってきた。
「礼を言うのはまだ早えよ。俺に感謝するのは球根を薬に加工して妹さんが治ってからにしろ…ただし、変に照れるのはなしだ…キモいから」
「テメェ、人が素直に礼を言ってやったのにキモいだと?」
「フォルテ君、待って。まさか、モノリス君は薬も作れるの?…君は一体、何者なの?」
何者って、もう答えは言ったんだけど。
でも貴族が信じてもらえなかったんだから、ハーフエルフはもっと信じてもらえないと思う。
「爺さんが冒険者だったから、色々と教えてもらったり鍛えてもらえたんだよ。さて、森から出るぞ」
そろそろ、イーツゴ男爵の部下が来る筈。
その時に、貴族の俺が荷物を持ち、フォルテ達が手ぶらだとあまりよろしくない。
森を抜けるとえらくゴツい中年男性と数人の騎士が待機していた。
「り、領主様!!」
フォルテは中年男性を見ると、慌てて膝まづく。
(男爵様自らお出迎えとはね…先生の脅しが効いたんだろうな)
「全員、無事な様だな…良かったー…。それとここは野外、礼儀は無用だ」
小声で良かったと言ったのは俺達の安全より、自分の安全が保証されたからだと思う。
それでも膝まづいているフォルテとトロイ君。
その隙に俺は騎士の一人に手紙を渡してから、素早く膝まづいた。
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朝の光が窓から射し込む頃、ようやく薬が完成した。
だけど眠い…ただ、ひたすら眠い…。
我ながら良く働いたと自分で自分を褒めてあげたい気分だ。
アラルウネラの球根を磨り潰して汁を濾すと乳白色の液体になる。
その液体をかき混ぜながら八時間ほど、煮詰めれば解毒剤の出来上がりだ。
だから、俺は一睡もしていない所か飯も食えてない。
「あれ?モノリス君、ごめん。先に寝ちゃったみたい」
慌てて謝るトロイ君だけど寝たのは一時間位前だ。
「だったらこの薬をフォルテの家に届けてもらっていい?俺は寝てないから一眠りしたいんだ。あっ、それとフォルテに妹さんが落ち着いたら、俺を起こしに来いって伝えて」
トロイ君は快諾してくれ、直ぐに部屋から出ていった。
入れ替わりで入って来たイーツゴ男爵の部下から手紙を受け取る。
(やっぱり、そうだったか)
眠いけど、手紙の内容を思うと、あまり気持ち良く寝れそうにはない。
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フォルテがやって来たのは、それから二時間程してからだった。
「コウゼン、顔色が良くないな。まだ、寝不足なのか?」
「今回の計画を企て張本人が分かったんだよ。名前はルリア・テリル…トロイ君が片思いしている幼馴染みだ」
どうして最悪の予想だけは的中率が良いんだろうか?
「マジかよ?まさか、お前はこれを予想していてトロイを家に寄越したのか?」
「取り越し苦労に終われば良かったんだけどな…予想が当たっちまったよ」
予想はしていたけど、確認するときつい。
「予想?なんでトロイの幼馴染みが計画を建てたと思ったんだ?」
「良く考えてみろ。もし今回の騒動が最悪の結果になっても、唯一傷つかないのはトロイ君だけ。サマオーレのパーティーでトロイ君の関係者は幼馴染みのルリア・テリルだけだ。大方、サマオーレから自分が跡継ぎになれば妻に迎え入れるとか言われたんだろうな」
でも、良くて側室だと思う。
「いや、トロイを助けたかったって可能性もあるだろ?」
「それはない。それなら俺達のパーティーにルリアが入っているし、計画をトロイ君に教えてるさ。お互いの家族を知ってるから、トロイ君が死んだりしたら気まずいからだと思う」
俺からすれば笑えるくらいに穴だらけの計画だけどムカつく。
「なんでだよ!!なんで俺達が巻き込まれなきゃいけないんだ!?」
「イーエラ子爵の四男サマオーレが庶民の俺達に負けたとなると継承レースから脱落が決定するだろ?あの手の馬鹿貴族は庶民が死んでも何とも思わないんだよ」
多分、罰は充分過ぎる程に喰らっているだろう。
「いずれトロイにもバレるぞ」
「妹さんの目にはトロイ君がヒーローみたく映ってるだろうな」
本当は俺がヒーローになって、妹さんとラブラブになる予定だったんだけど。
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それから数日後、俺は先生から呼び出されて大使館に来ていた。
先生の執務室に入ると、中年の男性と眼鏡をかけた穏やかな男性がソファーに座っていた。
「コウゼン君、いらっしゃいませ。こちらはテモット・イーエラ子爵とご長男のケンキョウ・イーエラ様です」
本来なら爵位がない先生が、こんな態度をとるのは国際問題になってもおかしくないんだけど、テモット子爵は注意する所か顔を真っ青にして微動だにしない。
「ザイツ様ですね。この度は家の馬鹿息子がご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。だから何とぞ創地神様にこの事は伝えないで下さい」
テモット子爵は俺の方を向くなり勢い良く頭を下げてきた。
「師匠なら俺が伝えなくても把握していると思うっすよ。それで先生どうするんすか?」
「こちらから提案したのはサマオーレさんの継承権の廃止並びにイーエラ家からの送金の停止です。コウゼン君もそれで良いですね?」
つまり、母方からの送金は可能にすると。
「いいっすよ。逆ギレされたら面倒臭いですし」
「本当にそれで良いんですか?息子の罪を許してもらえるんですね」
「はぁ?なに言ってるんすか。サマオーレには、これから一生他領に魔物を放った罪を背負ってもらうんすよ。計画を建てた女もパーティーにいる奴等もずっと日陰者として暮らしてもらうんすよ」
命を奪わない代わりに夢と希望を根こそぎ奪うだけ。
「ああ、それとイーエラ家にはコウゼン君の後ろ楯になってもらいます。まだザイツの名前は出せないので。それと出来るだけ早くケンキョウさんを正式な継承者にする事を発表してくださいね」
後日、イーエラ子爵家からイーツゴ男爵家に多額の賠償金が支払われ多らしい。
そしてイーツゴ男爵も俺の後ろ楯になってくれるそうだ。
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