悪魔師弟メントに降臨す
現実は厳しい…先生に生活費を要求したら、予算要求の書類を手渡された。
「国費も君の家庭が出したお金も、元を辿ればエルフィンの国民が汗水流して稼いだお金つまりは税金です。私が納得しなければ渡しません」
ちなみにパーティーの装備は実績を挙げないと認めないとの事。
「それじゃ、何か報告書を書いた時に予算要求書を持ってくるっすね」
先生は、俺に生活費と言う首輪を着けて情報を集めさせる気なんだろう。
…報告する事がないと、俺の収入が少なくなるから頑張ろ。
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最低限の生活費を渡されてから、数週間経ったある日。
俺が先輩方にサンドイッチを売っていると、サマオーレがニヤニヤしながら近づいてきた。
ニヤニヤしても様になるからイケメンは嫌いだ、俺がニヤニヤしていたら後ろ指を指されるんだぞ。
「何か用っすか?サンドイッチを売っても良いっすけど、お貴族様はシェフのランチを食べるんじゃないっすか?」
「ふん、そんな物を俺が食べる訳がないだろ?それもお前の稼ぎになるんだからな…そんな卑怯な企みは俺が叩き潰してやるから覚悟しておけ」
俺を指差しながら叫ぶサマオーレ様。
「はーい、卵サンドっすね、二百メートっすよ。何か言ったっすか?」
「俺を無視したな…今に吠え面をかかせてやるからな」
無視して当たり前だ、貴族の相手よりも生活費を稼ぐ方が大切なんだし。
「はいはい、吠え面でも三辺回ってワン!!でもやるっすよ。何なら契約書を書くっすよ」
「ああ、楽しみだな。卑怯者が泣いても誰も助けてくれないんだぜ」
おっし、他国の貴族に絡んだ証拠ゲット。
(この手の自己顕示欲が強い奴が騒ぐ時って何かがあるんだよな。先生に報告しとくか…さっきの契約書をちゃんと添付して)
先生に報告書を出して寮に帰ってくると、フォルテが暗い顔をしながら荷造りをしていた。
それは声を掛けるのを躊躇う程の落ち込み。
「コウゼン、すまん。パーティーを抜けさせてもらうよ」
フォルテが馬鹿でかい図体を、しょんぼりと縮こまらせながら俺に頭を下げてきた。
「謝る前に何があったか言ってみろ。力になれるかもしれないだろ?」
「下の妹がアルラウネの毒に侵されちまったんだ。薬を手に入れるには金が必要だから学校を辞めるんだよ。知ってるか?力の強い牛人は奴隷として高く売れるんだぜ」
フォルテはそう言うと、豪快に笑ってみせる。
目尻に涙を浮かべながら無理矢理に笑ってみせた。
データボール参照 アルラウネ
アルラウネは幻術を使う食人植物です。
相手が男なら美女に化け、相手が女なら僕にして男を引き寄せる餌に使うんですよ。
そして餌の対象になるのは人型なら何でもオッケーらしいですよ。
ゴブリンだろうが猿人だろうがお構いなし、アルラウネは栄養になれば良いんですからね。
ちなみに解毒に必要なのはアルラウネの根ですよ。
功善君、エルフは魔法への抵抗が強いから君にはアルラウネの幻術は効かないと思いますが、卒業するチャンスですよ。
(師匠、俺の初めての相手は好きな人って決めてるんっす)
「フォルテ、もう少し詳しく状況を教えてくれないか?」
「村に来た冒険者が妹に森から野莓を摘んで来て欲しいと頼んだらしいんだ。それなりの駄賃をもらった妹は直ぐに森に行ったらしいんだけど、日が暮れても帰って来ない。村のみんなで探しに行ったらアルラウネの近くに妹が倒れていたんだとよ」
(おかしい…何か変だ。森に直ぐに行けるくらいに慣れてるんならアルラウネの居場所も知っている筈)
「アルラウネは倒せないのか?毒を消すにはアルラウネの根を使うんだぜ」
「何人かが倒しに行ってくれたんだけど、アルラウネが大きく育ち過ぎて太刀打ち出来ないんだよ。幸い、例の冒険者が薬屋を紹介してくれるらしいんだ」
フォルテの話を全て信じるとしたら、これはおかしい。
「フォルテ、その森に今までアルラウネいたのか?」
「いや、聞いた事がないな。ゴブリンも出ない平和な森だったんだぜ」
(ますますおかしい。こりゃ、報告書を書く必要があるな)
「最後の質問だ…その森はどこと繋がってるんだ?」
「変な事を聞くな。確か、ル・ーガホ男爵領とイーエラ子爵領だぜ」
(自称器のでかい男さん、そう来たか…なら器の小さい男のしっぺ返しを喰らうがいい)
「フォルテ、学校を辞める前に一暴れしないか?自分で道を切り開いてこそ冒険者だろ?」
俺は頷くフォルテに準備をして来ると言い残し、エルフィンの大使館に報告書を届けに行った。
俺の報告書を受け取った先生はニヤリと笑う。
あれは悪魔の笑みだ、リヤンと言う国に楔を打てる事を喜ぶ悪魔の笑みだ。
「コウゼン君、私からも面白い報告書があるんですよ」
サマオーレ君、君はエルフィンの悪魔を二匹同時に相手が出来るかな。




