メントに悪魔がやって来た
胃が痛い…痛過ぎて泣きそうだ。
胃痛の原因は、柔和な笑みを浮かべながらお茶を飲む目の前の男性。
光を反射して輝く金色の髪に晴れた空を想わせる澄んだ青色の目。
そして女性と見まがうばかりの優れた容姿と洗練された作法。
何も知らない人は、彼を見て深窓の令嬢か、どこかの国お姫様と思うかも知れない。
でも、良く知ってる俺から言わせてもられば腹黒ドS悪魔。
(な、何で、この人がメントにいるんだ!?俺の自由が…ハッピースクールライフが音をたてて崩れていく)
俺の悲痛な心の叫びを無視して、金髪碧眼の悪魔はゆったりとお茶を飲む。
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事の発端は俺宛に届いた差出人が書かれていない一通の手紙。
中にはエルフィンの公式文書が入っていて、国と父さんから生活費を預かっているので、大使館まで取りに来て欲しいと書かれていた。
差出人の名前を書かなかったのは、俺がエルフィンの関係者だとバレない為の配慮との事。
(生活費か…生活をする分には余裕はあるけど、パーティーの装備を揃えたいから渡りに船だよな)
何よりも家族やエルフィンの近況が知りたい、俺の家族はエルフィンで有名だから元気かどうかは分かると思う。
(俺がエルフィンの大使館に行けば目立つな…裏口から訪ねるか)
そしてフード付きのローブを着て行けば個人を特定出来ないと思う。
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エルフィンの大使館は港の近くにあり、周りをルーンランドやデュクセン、ヘイムランドの大使館に囲まれていた。
大使館は簡素な石造りだが、そこかしこに防御系の魔方陣が刻み込まれている。
(ロッキバルバはエルフを差別してるから、警戒してんだろうな)
フードを目深に被り直して大使館の裏口に向かう。
裏口をノックして、出て来た人に手紙を渡せばミッションコンプリート。
「すいません、手紙を受け取った者ですが」
「お話は伺っております。さあ、中へお入り下さい。メントの生活には慣れましたか?」
「エルフィンに比べたら何かと不便っすけど、何とかやってるっす」
緑色の髪の男性エルフに案内されたのは執務室と書かれた部屋。
「大使、失礼します。コウゼン様がお見えになりました」
「ありがとうございます。コウゼン君を部屋に通して下さい…それと彼から色々と聞きたい事があるので、暫く部屋には来ないで下さいね」
(…どっかで聞いた声だよな…)
執務室に入ると金髪碧眼のエルフが笑顔で出迎えてくれた…ってマジ!!
「ミ、ミ、ミ、ミッシェル先生?なんでメントにいるんすか?」
ミッシェル・スターローズ、スターローズ公爵家の次男でガーグ王子の幼馴染み兼懐刀。
ミッシェル様の為に新しい公爵家を作るって話を当主になったら自由に動けなくなると蹴ったエルフ。
ガーグ王子への忠誠心は強く、ガーグ王子に仇なすと見れば平気で罠に嵌めるし暗殺もする腹黒エルフ。
そして俺の政治や交渉術の先生でもある。
「私がロッキバルバとの交渉を担当していたから、先日大使に任命されたんですよ」
そう言って優雅にお茶に口を着けるミッシェル先生。
「あは、あははは…それで俺は何をすれば良いんすか?」
わざわざ人払いをしたって事は俺に何かさせたいんだと思う…逃げたり断ったりしたら生き地獄が待っている。
「簡単ですよ。冒険者として活躍して、この国でスパイをしてもらう。それだけです」
ミッシェル先生は俺の正体がバレたら平気で見捨てると思う。
「スパイっすか?俺がエルフに見えないからっすよね」
一見どころかじっくり見てもエルフには見えない俺はスパイにうってつけだろう。
「ええ、この地はエルフに厳しいですからね。エルフィンと本当に国交を持ちたいのか知る必要がありますから」
「あー、エルフへの偏見が強いんすよね。メントには奴隷以外のエルフはいないそうっす」
観光に来たエルフィンの民が奴隷されたらたまったもんじゃない。
「その辺の事情も詳しく調べて下さい。私だと色々と警戒されますので」
そりゃ、そうだろう。
いくら偏見を持っていても他国の大使を蔑ろにはしないだろうし。
でも、先生は蔑ろにされたら喜ぶと思う…相手を罠に嵌め易くなるって。
「分かりました。それじゃ受け取る物を受け取ったら帰るっすね」
「何を言ってるんですか?まずはメントでの体験を話しなさい」
学校に入って一ヶ月でトラブルに口を突っ込んだ事がバレたら叱られるよな。
「…子爵家の四男と対立をしましたか…」
「友達の恋を何とかしてやりたくて…すいませんでし」「よくやりました!!偉いですよ」
謝ろうとした瞬間、ミッシェル先生が俺を誉めてくれた…これは友達の為に動いたのが評価されたんだろうか?
「相手が何かをしてきたら直ぐに私に言いなさい。特に親御さんが圧力を掛けてきたりしたらね。闇討ちにあったら最低でも掠り傷は負いないさい、理想は骨折ですね」
先生は俺を交渉のダシに使うつもりだ。
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