呼び出しと説教?
スカウト課の授業は何時も独特の熱気に包まれている。
「えー、このラッシュラッカーだが触れるとかぶれるのでっ気を付た方が良いですよっ。また虫が多く集まるのでっ、鳩蜂への注意を怠らない様にっ」
スカウト課の担任アーンスト先生が手に持つのはラッシュラッカー、エルフィンではウルシと呼ばれている。
爺さんがウルシを木製品に塗る方法を伝えてから、ウルシを塗った木製品シッキがエルフィンに広く浸透したそうだ。
「先生、かぶれた場合は何が有効でどれ位で治るんでしょうか?」
質問をしたのは執事服を着た男子。
「リヴァークラブを叩き潰した汁を使えばっ三日もあれば治りますっ。また放置をしたりっ掻きむしるとっ痕が残るので注意し下さいっ」
「マジっ?お嬢様の肌に痕が残ったりしたら、一家処刑ものじゃない。絶対にリヴァークラブの汁なんて塗らしてくれないよ」
メイド服を着た女子が悲嘆に暮れる。
「うちの坊ちゃまが三日も痒い思いをしたら機嫌が悪くなって俺を殴るに決まっている。森の探索はなしに出来ないかな」
「あー、塩水でよく洗ってアロエの果肉を塗ると効くっす。それと何回かかぶれると耐性もつくっすよ」
エルフは肌が弱いから漆掻きはザイツ家男子の仕事とされている。
ちなみに俺はかぶれたらアロエを塗ってヒールの繰り返しで耐性をつけられた。
「コウゼン、マジか?サンキュー。お前卒業したら坊ちゃまにお仕えしないか?子爵の三男だけど給金は出るぞ」
「就職先がなかったら頼むっすよ」
ベテラン冒険者になると知識も豊富で魔物の気配を探れるから、スカウトを必要としなくなる人が多い。
故にスカウトを自ら希望する人は少なく絶対数は足りないらしい。
だから、自分の従者をスカウト課に入れる貴族や騎士が多いそうだ。
従者にしてみれば、自分のミスが雇い主の惨事になるので必死で勉強をしている。
(自分は剣や魔法で大活躍して、従者にスカウト技術を身に付けさせるか。見栄を張るのも良いけど、貴族にこそスカウト技術は必要なんだけどな)
スカウト技術が上がれば闇討ちや毒殺を未然に防げるし、手柄は部下に建てさせるのが基本。
そうすれば部下はより一層仕事に励む筈…なんだけど、俺の護衛と侍女はそうならなかった。
理由は雇い主の魅力不足だと思う。
ちなみにクラフト君に絡んだゲニーの従者モッキーとゼーロのメイドもスカウト課にいる。
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授業が終わり、教科書を片付けているとゼーロのメイトが近づいてきた。
そう、あくまで近づいて来ただけなので、ここで過剰反応すると高確立で赤っ恥を掻く。
「コウゼン・モノリスさんですよね。少し宜しいですか?申し遅れました、私はラシーヌ・ラフィンヌと申します」
まだ、喜ぶのは早い。
中学の時に、女子から声を掛けられたのは苦情の方が多かったんだし。
「なんすか?俺は帰って洗濯や飯支度をしたいんすけど」
「この後、少しお時間をもらえませんか?」
これは来たか?…放課後デートのお誘いが!!
なんと言っても俺は爺さん、父さんと奇跡を起こしたザイツ家の長男なんだ!!
これは二度ある事は三度あるのパターンかもしれない。
「少しなら良いっすよ」
高鳴る胸を押さえて出来るだけ冷静に答えてみせる。
「ありがとうございます。我が主、ゼーロが話をしたいと言うもので。フェリテ男子寮までご同行下さい」
やっぱり、世の中はそんなに甘くなかった。
これはいわゆる三度目の正直、いや世間的常識だろう。
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フェリテ男子寮、貴族や騎士のご子息様が生活される豪奢極まりない建物。
広いエントランスには脛まで埋もれそうな真っ赤な絨毯が敷かれているし、立派な石像まで置かれていた。
そして壁にはイントル画伯の絵画…流石はチートトロル。
更に驚かされるのは男子寮なのに、普通にメイドさんが歩いている事。
「ゼーロ様、モノリスさんをお連れしました」
無駄に広い部屋だと言うのに、ゼーロは窓際で物思いに耽っていた。
それが絵になるから、余計にムカつく。
「ラシーヌ、ご苦労様。モノリス君、良く来てくれたね。身分なんて気にしないでゆっくりと寛いでくれたまえ。さあ、椅子に掛けてくれ」
(身分なんて気にしないでだと?…何時か俺が逆に言ってやるからな!!卒業式に驚かせてやる)
「ありがたいんすけど、早く用事を済ませて寮に帰りたいんすよ。俺にはメイドじゃなく洗濯物が待ってるんす」
「そうかい?なら単刀直入に言うよ。何故、ゲニーの味方をした?もう少しでメントの恥を排除出来たものを」
ゼーロは僕って怒ったら迫力あるだろって、感じで睨み付けてくる。
「それに俺が答える義務はないっすね。適当に理由を考えて納得すれば良いじゃないっすか」
「き、君は僕を愚弄するのか?」
こういう奴がいるから、貴族が誤解されるんだよな。
「愚弄して欲しいんすか?なら愚弄しまくってやるよ。俺から言わせりゃゲニーもお前も同じ井の中の蛙なんだよ。なーにがメントの恥を排除だ?ただの学生にそんな権限なんかないっつーの。それともゲニーみたいにパパの権力を使うのかな?…シールドボール!!ラシーヌさん、ナイフで刺すんなら気配と足音を消さなきゃ駄目だよ。つーか主の部屋で人を殺す方がよっぽど恥だっつーの」
シールドボールに弾かれたラシーヌさんが親の敵を見る様な目で俺を睨んでいる…これでフラグは完璧に消え去ったな。
「何故だ!!トップの成績で合格して、あの血塗れハンセンを倒した君がゲニーなんかの味方をする?」
「あのな、誰もゲニーの味方なんかしてないつーの。あのままお前がゲニーのプライドをズタズタにしていたら、彼奴は誰を恨むと思う?それにゲニーみたいな奴が勉強して色々と気付くのが、この学校の良さだろ?」
そろそろ納得してくれないと、シールドボールの酸素が足りなくるんだよね。
「君はクラフト君が逆恨みされるのを防いだって言うのか?…それだけじゃなくゲニーにも更正する機会を与えたと言うのか?」
「クラフト君は俺のダチだから当たり前じゃないっすか。それと俺は人に機会を与える程、偉くないっすよ」
ゼーロが椅子に座り込んだので、小声でマジックキャンセルを唱えて出口に向かって歩き出す。
幸い、ラシーヌさんはゼーロの側から離れようとしない。
「それじゃ失礼するっすよ。お互い、何もなかったで良いっすよね?」
お願いだから、クラスの女子にキツイ言葉でゼーロを責めたとか言わないで欲しい。
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功善が部屋から出たのを見計らってラシーヌはゼーロに話し掛ける。
「見事に論破されちゃったね…ローゼ、悔しい?」
「悔しいけど、何も知らない私達には、あの人の力が必要だと思うんだ」
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