第9話。真夏のホラー?呪いのクーラーと腹ペコサウナ
第9話:真夏のホラー? 呪いのクーラーと腹ペコサウナ
「アッチィィィ……マジで溶ける……」
8月の昼下がり。拓海の部屋は、地獄のような熱気に包まれていた。
なんと、よりによって最高気温を記録したこの日に、エアコンが完全に沈黙したのだ。
室温はすでに35度突破。
拓海はパンツ一丁で床に行き倒れ、スマートAIのアイリスも
「本体温度上昇のため、保冷剤の貼付を要求します」
と、スマートウォッチの画面にエラーを吐き出している。
そんな中、フロックコートを脱ぎ捨ててステテコ姿になった時次郎が、汗をダラダラと流しながら立ち上がった。
「ダメだ、限界だ! 拓海、僕は思いついたぞ。涼しい秋が来るまで、時間を止めればいいんだ!」
「バカ言え! そんなことしたら俺たちの人生が数ヶ月フリーズするだろ!」
「背に腹は代えられないよ! ハッ!」
止める間もなく、時次郎が指をパチンと鳴らす。
――ピシィィィン。
セミの声がピタッと止まり、世界から音が消えた。
時次郎は
「ふぅ、これで一安心……」
と胸をなでおろそうとした。
——が、異変はすぐに起きた。
「……おい、時さん。なんか、さっきより息苦しくないか?」
「へ? え、あ、あれ……? おかしいな、汗が止まらないぞ?」
スマートウォッチの画面が緊急発光し、アイリスが警告音を鳴らす。
「マスター、大変です! 時間が止まった空間では、空気の移動——つまり『風』が一切発生しません。室内の熱気がその場に固定され、さらに我々の体温で室温が上昇し続けています!」
「つまり、どういうことだアイリス!」
「この部屋は今、完全なる『サウナ』と化しています。1分以内に時間を動かさなければ、熱中症で全滅です!」
「何やってんだよアナログおじさん!!」
拓海は叫んだが、時次郎の顔はすでに茹でダコのように真っ赤になっていた。
ギュルルルルルッ!!
「あ、暑さで一気にカロリーが……。拓海、冷たいもの、冷たい流動食を……」
時次郎がカチコチに固まる。
このサウナ空間で、時間が完全にロックされてしまった。
「冷たいもの!? 冷蔵庫の中は……麦茶しかない!」
拓海はフラフラになりながら冷蔵庫へ這っていき、キンキンに冷えた麦茶のピッチャーを掴んだ。
しかし、時間が止まっているため、注ごうとしても水面がカチコチで液体が外に出てこない。
「そうか、時間が止まってるから、傾けても出てこないんだ! くそっ、こうなったら!」拓海はピッチャーの中に無理やり右手を突っ込み、凍りついたように静止している麦茶の塊を
『素手でガバッと鷲掴み』にした。
そのまま時次郎の口へと突進し、冷たい液体の塊を無理やり喉の奥へ押し込む!
「冷たーーーっっ!!!」
頭がキーンとなった時次郎が跳び起き、反射的に指を鳴らした。
カチ、カチ、カチ!ミンミンミンミ
ン……!!
と、セミの声が戻ってくると同時に、窓からわずかな生ぬるい風が吹き込んできた。
サウナ状態からは脱したものの、部屋は相変わらず激アツのままだ。
「……はぁ、死ぬかと思った。もう二度と夏に時間を止めないでくれよ……」
「ごめん、ごめんって拓海。あ、でも、掴み取った麦茶がフロックコートのポケットに入っちゃって、今すごく冷たくて気持ちいいよ?」
「お前、それ俺が飲むはずだった麦茶だぞ!!」
結局、二人は近所のサクラの部屋のクーラーに避難させてもらうことになり、拓海の苦難の夏はまだまだ続くのだった。




