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第8話 アリーセ様。

「あら、モニカちゃん。今日の髪飾りも可愛いわね。手作りなの?」

教室に入り、席に着くと、アリーセ様が楽しそうに聞いてきた。

今日は大きなお花が私のツインテールを飾っている。義兄も可愛いと言ってくれた。

毎日ボンボンと言うわけにもいかないので、夜なべして作った。もちろん、ビアンカとお揃いだ。

「まっ。ありがとうございまーす。そうでーす。毛糸を編んで、作りましたぁ!」

お礼を言って首をかしげると、頭に飾った花がばさっと音を立てる。少し…大きすぎたかもしれない。


「うふふ。5年前に完璧なお嬢様だったあなたが、変わった格好をなさっているから、反抗期なのかと思ってみていたのよ?ね、カミル?」

「……」

話を振られたカミル君は瞬きを一つだけした。


「10歳やそこらでいきなりフール語で会話を始めるくらいの才女なんですもの…あの後、付き添ってきた親御さんの間で噂になっていたのよ?すごい令嬢が現れたって。」

「…はあ。」

「おかげで、家に帰ってから、語学の先生が別につけられて…みんな同じ苦労をなさったと思いますわ。ね?カミル。」


…そんなことがあったのか。うちは義兄が難なくフール語もブリア語も話せたから、そんなものかと思っていたけど…違ったのね?


「でも、モニカちゃんが面白くて親しみやすい人だってわかって嬉しいわ!」

からからと楽しそうに笑うアリーセ様。


「えへへっ」

アリーセ様?…私たちはライバル、ですのよ??殿下の婚約者の椅子を狙うラ・イ・バ・ル!



放課後、生徒会室に出向くと、エルヴェーラ様に目をそらされた。

目をそらすほど…かわいいに違いない、と、思うことにする。本当にすみません。でも私には達成したい大志、があるんです!


生徒会活動も毎日やるほど仕事があるのかしら?と思っていたが…なんでも苦情係、というか…苦情の処理や喧嘩の仲裁、備品の希望やら修理の依頼まで…上がってきたものを各部署に振り分けたり、実際に現場を見にいったり…意外なほど本業外の仕事が多かった。まあ、現場に出るのはほぼ1年生3人だけど。


おおらかなアリーセ様は、場を収めるのが上手だった。

口が立つクレーマーには、私が応戦した。

女の子のもめごとにはカミル君がとことん話を聞いてあげていた。

…中々いいコンビだと思っている。



お隣の席のアリーセ様はほんの少し変わったご令嬢だった。

休みの日には教会の炊き出しの手伝いに行ったり、孤児院のペンキ塗りまでしてくるらしい。高位貴族の社会貢献なのか?と最初は思っていたが…授業中に読んでいる本がまた、独特だった。


【フール国の革命についての考察】


あまり…ご令嬢の読むような本ではない。と、いうか…殿下の婚約者候補が手に取るのはどうか?というか…。


…この国のお隣のお隣にあるフール国は、20年ほど前に重税にあえぐ民衆が蜂起して革命が起きた。王政が廃止され、王族はもちろん、貴族と言う貴族が皆、女も子供も処刑された。

民衆による政治が行われたが混乱が収まらず、お隣の国ブリアが<漁夫の利>的に軍事攻撃を掛けようとしたところに一人の背の小さな男が現れて、危機を回避した。結局その男が王位についた。最初は地方地方に役人の形で派遣されていた官僚が、貴族もどきに変化して…今はすっかり元通りの王政に代わっている。フール新国。近代史で習う。


…うちにいるフールの料理人もこの際のごたごたで出国して来た一人だ。貴族ではないが、貴族に贅沢な料理を提供していたという理由で迫害を受けたらしい。隣国ブリアやこの国に、旧フール国の料理人が沢山いる理由だ。


…その考察本。


もちろん学院の図書館にも、王立図書館にも置いてある。

読まない方がいいんじゃない?とも言いにくい。

アリーセ様をちらりと見たら、その隣にいるカミル君と目が合った。ほんの少し…困ったような顔をしている。


アリーセ様は気にしていないようだ。

翌日も革命関連の蜂起した側から書かれた書簡集を読んでいた。


「えっとぉ…アリーセ様は何でそんな難しそうなご本を読んでいるんですかぁ?」

なるべくさりげなーく、本人に聞いてみる。

「ああ、これ?」

アリーセ様が隣に座る私の耳元で、こそっと教えてくれた。

「…私ね?カミルと結婚したいの。でも、お父様が子爵家の次男坊なんてダメって言うのよ。だから…なんかいい方法はないかなあ、って。いろいろ調べてるところなの」

「ああ…なるほど」

いや、それにしたって…極端すぎやしませんか??

いや、その前に、殿下の婚約者候補ですよね?



義兄は殿下の家庭教師を再開したので、帰りが遅い。

アリーセ様のことを相談しようと思いながら…疲れ切った顔の義兄を見ると、余計な心配かな、とも思ってしまう。


何日か後の朝の馬車の中で、こっそりと義兄に相談した。

「…いや、ほら、図書館にある本だし、問題ないとは思うけどね?どうかしら?」

「…アリーセ嬢だったのか…」

「え?」

「王立図書館でも同じような本を何冊か借りているね。尋問官が学院に入る許可を殿下に求めていた。」

「……そんなに?」

「うーん。高位貴族で、しかも殿下の婚約者候補となると…。こと、あの革命に関してはみんな敏感だからね。」

「どうなるの?」

「<革命を目指していないこと>を証明する必要があるだろうな。証明できなければ、」

「できなければ?」

思わず身を乗り出してしまった私をゆっくりと座らせて、義兄が困り切った顔で言った。

「アリーセ嬢の生家、ゲラルト侯爵家は断絶だろう。」

「……」









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