第4話 いざ、お茶会へ。
6月。
王城の中庭にはバラが咲き乱れている。
毎日のように第一王子の勉強部屋から眺めている。
アレクシスは、この中庭でふざけたお茶会が開かれるのかと思うと、つい王子をいじめたくなる。
「殿下…フール語とブリア語は壊滅的ですね。今まで何をやってきたんですか?うちの妹はあなたより年下だが、僕と会話ができるぐらいですよ。なんなら華国語も話せます。」
「…は?言葉を選べ。不敬だぞ。」
「まさか…ゲルト国王になるんだから、他国語はいらないとお考えで?」
偉そうにふんぞり返る殿下の目を探るように見つめる。ほんの少し笑みが浮かんでしまったのはご愛敬だ。
「……」
「ああ。わかりました。あなたの代で大陸を治めて、ゲルト語を大陸公用語になさるおつもりですね?」
「うっ……やればいいんだろう?」
「そうですね。では今日から授業はすべて殿下の最も苦手なフール語で行うことにいたしましょう!」
「……お前、不敬だぞ…」
『は?この部屋の中では私は殿下の先生で、殿下は私の生徒、ですよね?先生を敬う、という常識でさえお忘れでございますか?』
不敬不敬とうるさい小僧だ。アレクシスは殿下にフール語で諭す。半分ぐらいは理解できているか…あやしいところだ。
「……」
『はい、では教科書を開いてください』
「……」
殿下をいじめてほんの少し気が晴れたが、このような男にモニカを嫁がせるわけにはいかないな、と再認識する。まず、口が悪い。口癖は、不敬だぞ。趣味は金魚を飼うこと。勉強部屋にたくさんの水槽が並んでいた。もちろん手入れをするのは使用人だろうけれど。
こいつ自体はバカではないようだが、今までの教師は下手に出過ぎていたんだろう。こいつに不敬だ、と言われたら普通は引くしかないからね。
殿下に間違ったスペルを100回書かせている間、アレクシスはぼんやりと中庭を眺める。
ああ…早く帰りてぇ…。
今日はモニカは何やってるのかなあ…。
***
モニカは母がこれでもか!と気合を入れて作ったフリフリのベビーピンクのドレスを着ている。モニカ本人はツインテールにしようとしていたが、僕が侍女に言って普通に下ろさせ、ドレスに合わせたヘッドドレスをつけた。かわいい。ツインテールだってかわいいだろうけど。
「お義兄様?」
「なあに?」
馬車に並んで乗り込む。家族の付き添いが認められているので、一緒に行きたがった両親を説得して僕が付き添うことにした。もちろんいつもの侍女もいる。
モニカはまだ10歳だけど、僕のエスコートにきちんと応えている。立派な淑女だ。
「お兄様がそんなにきちんとした格好をなさったら、私がかすんでしまいますわ!」
「そう?モニカはかわいいよ?」
僕は夏用のこげ茶の上着に、モニカとお揃いの色のベビーピンクのチーフ。むふふっ。
「そ…そんなことを言って下さるのはお義兄様だけですわ!」
ぷんすかしているモニカもカワイイ。手を取って、目を見つめて良く言い聞かせる。
「いいかい?無理しなくても、王子様じゃなくても僕がモニカをお嫁に貰ってあげるからね?」
「まあ、お義兄様!冗談でも嬉しいです!ありがとうございます!でも、私、頑張りますわ。」
緊張がほぐれたのか、パッと明るい笑顔でモニカが言った。
*****
モニカをエスコートして中庭のお茶会の会場に入ると、女の子に囲まれた殿下が僕を見つけて顔を曇らせる。相変わらず失礼な奴だ。
「テオドール第一王子殿下にご挨拶申し上げます。ヘルケ伯爵家アレクシスでございます」
「…ん、ああ。」
「ご招待いただき、光栄でございます。ヘルケ伯爵家モニカと申します」
スカートを引いてお辞儀をするモニカ。完璧だね。母はおっとりしてみえるけど結構厳しい先生だからね。
「ああ、ようこそ。ゆっくりしていってね」
ストレートのまばゆい金髪。青い瞳。正装の白のジャケットに金モール。
こいつもしゃべらなければ素敵な王子様に見えなくもない。アレクシスはモニカの顔をちらりと見る。頬を染めていたりしたらすぐに連れ帰ろうと思っていたが、平常心のようだ。よしよし。
「モニカ?殿下は今、フール語をお勉強中だ。会話はフール語で。いいね?」
『まあ、お義兄様、了解いたしました』
殿下の張り付けた笑顔が…ほんの少し歪む。ふふっ。モニカの切り替えも早い。
「……」
『綺麗なお庭でございますね。私、王城に入るのは初めてですので、楽しみにしてまいりました。後ほど、義兄上と王立図書館にもお邪魔する予定なんですの。』
『あ…楽しんでいってください』
『ありがとうございます』
にっこり笑ったモニカが、お辞儀をする。
…うふふっ。モニカ?語尾も伸びなかったし、作法も完璧。フール語を難なく使えるってことはバカではないことも証明しちゃったね?




