第23話 そしてそれから。(最終話)
ゲルト国とブリア国の間で、何度目かの和平条約が締結された。
国境の山には礎石が打たれ、測量図にもきちんと記載されて、あれ以来もめごとはない。
今までは、下手に採掘すると言いがかりをつけられそうで手つかずだった鉄鉱石の調査も始まり、採掘は国営事業で行う準備が進んでいる。
うちの長男のアレクシスは正式に殿下の秘書官になって忙しく過している。週に一度、家で見るかどうかかな。やり手の嫁が家のことも、持っている商会のこともそつなくこなしてくれている。本当に…アレクシスは良い嫁を貰った。
「お義父様、アルブ子爵家からのすっぽんの初めての納品ですが、状態をご覧になられませんか?」
「うん。温泉地での養殖はさすがに大きくなるのが早いんだね?始めてまだ3年だろう?」
「そうですね。通常だと5年かかりますからね。」
長男の嫁と並んで歩く。
この五年の間に、屋敷の隣の土地を買って商会の商館を建てた。すっぽん用の池も、大きな水槽もある。
「ほう。3年でこの大きさか。たいしたものだな。仕入しても採算が合うのか?」
大きな水槽に個別に入れられているすっぽんは、今までの天然物の5年物より大きく見える。
「ええ。アルブ子爵領の温泉を利用していますので、コストは抑えられております。すっぽんはヘルケ伯爵家との独占契約になります。当主のアリーセ様が凝り性ですので…餌や飼育環境を勉強して、工夫してくださっているようで…。ふふふっ。相変わらずです」
「そうか。あそこの温泉事業もお前が出資しているんだろう?」
「はい。国営事業で鉱山の採掘が始まれば、人の出入りが多くなりますから。国のお金で街道も整備されますしね。温泉保養地を中心に、市場や宿泊施設…一つの宿場町を作っても採算は合うはずです。カミル君と打ち合わせ済みなので、投資したお金は10年あれば回収できる予定でいます。」
淡々と語るモニカは今日も緑色のワンピースに一本縛りの茶色い髪。
養女に貰って来た時はまだ7歳だった。親元から離されても泣きもしないで、聞き分けのいい子だった。残してきた姉弟に毎月手紙を書いていたな。寂しくないはずはなかっただろうが…。
…大きくなった。
あの日も、順番を間違えないようにと緊張した。<兄妹>での結婚はできないからね。プロポーズも困る。そんな噂も困るし。
モニカと養子縁組を解消してから、アレクシスとの結婚話をしようと思っていたら…私たちの馬車が着いたモニカの実家の前に、王城から直接、単騎で駆けつけたアレクシスが待っていた。
…そんな情熱的な息子だとは思わなかったよ。うふふっ。
先方のご両親に事の次第を説明して…養子縁組を解消して…アレクシスがモニカに跪いてプロポーズ。その場でモニカの実父に婚姻承諾書に署名を貰って来た。忙しい一日だったが、皆さんに祝福していただけてよかった。
…モニカはまさか…ヘルケ伯爵家のためなら、とか…思っていたりするのかな?
まさか…恩返しとして、アレクシスと結婚、とか?
そんな心配をしたりもしたが…。
「お義父様、お昼にお義母様と入荷した養殖のすっぽんスープを食べる予定なので、行きましょうか?」
「ああ。急に大きくするんだから、大味なのかな?」
「どうでしょうね?楽しみですね。」
義娘と並んでのんびり話しながら中庭を突っ切って、妻の待つダイニングに向かっていると、アレクシスが王城を抜け出してきたようで、私の事そっちのけでモニカを抱きしめている。まあ、これもいつものことだが。
「まあ、また抜け出してきたんですのね?アレク!」
「だって~そうでもしないとモニカに会えないし!休みないし!」
「またラウレンツ卿に叱られますよ?」
「だって…殿下は妃といちゃいちゃしてるのに、ずるくない?」
「アレク…」
やれやれ…。大きな犬のように甘えるアレクシスをなだめているモニカ。
私たちを見つけたアロイスとビアンカが駆け寄ってくる。
ダイニングの窓から、妻が手を振っているのが見える。
ずい分と暖かくなったなあ…何度目の春だろうか。
「さあ、みんなでお昼にしよう!」
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。




