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第19話 12月。

アレクシスは殿下の執務室で、じいやさんに12月の大舞踏会の最終決定のスケジュール表を見せられる。もうすぐだ。

ここのところ、殿下はブリアの王女につききりなので…幸か不幸か…僕にはじいやさんがつききりになっている。

今も殿下の執務室に設けられた自分用の席の隣にじいやさんがにこやかに笑いながら座っている。


陛下の御挨拶を頂いた後に、テオドール王子殿下の婚約者の発表。お披露目。お二人のダンス…。


「危ないのは…ダンスが終わった直後、ですかね?」

アレクシスがスケジュール表を眺めながらそう指摘すると、

「うーん。発表直後の皆の歓声が上がったあたりも危険かなあ。」

たいした緊張感もなく、じいやさんが返す。


「替え玉でも用意しますか?」

「うん。そうだね。…学院に落書きをして放校された子がいたでしょう?」

「ええ。僕と同じクラスの、アルブ子爵家のホルスト、ですよね?」

「うん。あの子の消息がつかめなくなっていてね…見張るように言ってあったんだけど。ブリア側に見つかったら利用しやすい子だよねえ。実家は降格させられたし、自分は平民落ちさせられたしね。そう思わない?アレクシス」

「……でも…会場に入れますか?」

「どうかなあ。何とでもできそうだよネ」

「……」

「それから、替え玉だけど、女性騎士ってわけにもいかないんだよね…立ち居振る舞いがねぇ。高位貴族令嬢じゃないとね。」

じいやさんがにこにこしながら僕を見てくる。

「……」

「ダンスも完璧にやってもらわなくちゃいけないし。カツラとヴェールで顔なんかどうにでもなるんだけどねぇ。どう思う?」

「……」


…嫌な予感しかしない。



*****


居酒屋で知り合った女給に匿われるように過ごす。

俺に惚れているようで、飯も酒も用意してくれた。


そうこうしているうちに、王城での大舞踏会の日が来た。

「はい。今日のパーティーの給仕の制服よ。正式なバッジも付いているから、勝手口から普通に入れるからね?」

女がどこからか、給仕用の制服を手に入れてきた。こいつは本当に俺の立身出世を望んでくれている。

「ねえ、ホルスト…侯爵様になっても、私を捨てないでねぇ」

なんて、可愛いことを言ってくる。

着替えた俺に口づけをしながら、しだれかかってくる女…渡されたのは、ソムリエナイフと同じサイズの折り畳みナイフ。

「ホルスト…あなたは英雄よ?」


そうだ。みんな騙されているんだ。

ブリアのせいで、うちの領はぱっとしなかった。俺は英雄の子孫だというのに…正しいことを言っても聞いてくれなかったこの国も…騙されているんだ。


俺は、ブリアの偽王女から、ゲルト国を救うんだ。



*****


いよいよ大舞踏会の当日。

アレクシスはじいやさんと殿下の後ろに控えて、陛下のお言葉を聞いている。


緊張して…口が渇く。


しん、と静まり返った会場の面々に目をやる。どこだ?

じいやさんの読み通りホルストかも知れないし…行方不明になっている侍女かもしれない。全く違う刺客の可能性もある。どうにかして着飾って参加しているのか?スタッフになって潜り込んでいるのか?事前にみっちり身元の確認はさせたが…。


「我が国の王太子であるテオドールはブリア国クロディーヌ王女を娶ることになった。これにより、長年滞っていたブリア国との和平が強固なものになるであろう!」


会場の割れんばかりの歓声と拍手の中、クロディーヌ王女の手を取ってテオドール殿下が挨拶に進み出る。王女が深々と陛下に礼をする。とてもきれいな仕草だ。

白のドレスに短いヴェールを被り、そこから柔らかそうな赤毛が下ろされている。


ホールに詰めかけていた諸侯が壁に下がる。

…センターで二人は踊りだす。完璧なダンスだ。観客からため息が漏れる。


一曲終わって…二人が恭しく観客に挨拶をしたタイミングで…会場の右袖から…白のドレスに短いヴェールを被り、そこから柔らかそうな赤毛が下ろされている王女が現れる。


「まあ、殿下、本物は私ですわ…なんてことでしょう!」


ざわざわとざわめく会場。殿下は今踊った王女の手を取ったまま途方に暮れている。その時…会場の入り口のドアが開いて…


『まあ、殿下、本物は私ですわ…お分かりですわよね?騙されてはいけませんわ!』


白のドレスに短いヴェールを被り、そこから柔らかそうな赤毛が下ろされている王女が流暢なブリア語でそう言いながら殿下に近づいていく。


観客は道を開けるが…明らかに困惑している。

二番目の方が泣きそうだった、とか。

いや、最後に入ってきたブリア語が上手な方が本物なのでは?

いや、最初に踊った方の品の良さは本物だ!だの…


僕の横でじいやさんがくすくす笑っている。

「アレクシスの妹君は、本当に面白いことを考えつくなあ…退屈しないねぇ」

「……はあ。」


3人の王女に囲まれる形で…テオドール殿下が立ちすくんでいる。


皆が3人の王女にくぎ付けになっている時、控えていた一人の給仕係の男が片手をポケットに入れたまま、親指を噛んでいる。見つけた。ホルストだ。

アレクシスが護衛騎士に小声で指示を出す。

「あの男がもうすぐ会場を出るから、後をつけて。逃げて行った先にいる女も捕まえて。」

「うん。なるべく殺さないで連れてきてね」

じいやさんがなんてことないように付け足す。


さて…ホルストがそそくさと会場を出て行ったところを確認して、カーテンの後ろにいらっしゃるクロディーヌ王女に目配せする。

「では、王女殿下、ご案内いたします」

アレクシスが王女の手を取って、3人の王女に囲まれて途方に暮れている風を装っている殿下のもとにお連れすると…4人目の王女の登場に会場はますますざわついた。


本物は私!と大揉めしていた先の3人の女性が、跪いて臣下の礼を取る。

もちろん僕も、王女を殿下に引き渡して礼を取る。


テオドール殿下がクロディーヌ王女のヴェールを上げて、にっこり笑ってキスを落とす。

あっけに取られている観客を促すように、僕たち4人が拍手をし出すと…余興だったとでも思ったのか観客たちが歓声を上げた。


ダンスが始まる。


僕は3番目の姫の手を取る。ついでにヴェールもカツラも外させた。いつもの茶色の髪が現れる。

2番目の姫はカミルが慌てて捕まえていた。

そして…1番目の姫は…大公家嫡男のハーロルト様がダンスを申し込んでいた。


「まあ、お義兄様!どうして私だとわかったんですか?」

迷わず手を取った僕のことが不思議だったのか、モニカがステップを踏みながら聞いてきた。

「ん?一番ちんちくりんだったからだよ?モニカ。」

「んまあ!」

ぷんすか怒りながら、それでもモニカは僕と3曲も踊った。


「ねえねえ、知ってる?モニカ。婚約者や旦那さん以外と2曲以上踊ってはいけないんだよ?」


「え?」


…僕はモニカが熊に変装していても、わかる自信があるなあ。











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