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第18話 光る。

「テオドール殿下の周りの方たちは…皆さん、面白い方ですわね」

「あ?嫌味なんですか?」


ふうっ、とテオドールがため息をつく。

くすくすっと笑いながら、クロディーヌ王女が

「だって、殿下と媚薬の奪い合いをしたり、私に渡されるはずだった薬が毒薬でも動揺もしていらっしゃらなかったり…」

「ああ。あのアリーセという令嬢は自分の侍従と…カミルと結婚したいらしくて、いろいろやらかしてくれるんだよ。前なんか、フールの革命家の本を持ち込んでな…」


どこで誰に命を狙われるか見当のつかないクロディーヌ王女と、王城のサンルームで並んでお茶にしていた。なるべく離れないようにしていたので、それなりに会話もするようになった。だんだんと…この人の置かれてきた立場も分かるようになってきた。


「あの、モニカって子は伯爵家の養女なんだがやり手でね。義父親と商社を大きくしている。10歳やそこらの頃で当たり前のようにフール語とブリア語、華国語まで話せるほどの才女だよ。変な子だけど。」

「まあ、華国語まで?」

「ああ。亀の飼育係が華国人だったらしくてね」

「あの媚薬の、亀、ですね?」

そう言ってクロディーヌ王女はころころと笑った。


この国に来た当初は、表情一つ変えなかった彼女が、こうして笑うようになった。無理にでも学院に入れて良かった。おおよそ…同年代の娘と話したこともないような生活だったらしいから。

淡々と自国にいた時のことを説明してくれたけど…ほぼ…幽閉に近いかな。


「テオドール様は…エルヴェーラ様と結婚する予定だったのでしょう?とても上品な良い方ですわよね?」

「うーん。あなたがもし、こんな形で来なければ、消去法でそうなったかなあ。でもね、本当はあの子は私の従弟が好きなのさ。私の婚約者候補になって言い出せなくなってしまったけどね。」


クロディーヌ王女の髪をひとすくいして…柔らかな赤い髪にキスを落とす。


「私は、この国は戦争を望んでいない。どこの国と、でも、だ。」

「……」

「そのためにはあなたを守り抜いて、あなたを幸せにしたいと思う」

「……」

「…あなたにも腹をくくってほしい」

「……ええ。元々、戻るところもございませんので。でも、殿下?そんなに簡単に私を信用してよろしいのですか?寝首を搔くかもしれませんよ?」

「…そうしたら…私は人を見る目がなかったんだなあ、ってあきらめるさ」


クロディーヌはほんの少し目を大きくして驚いて…私を見た。

ゲルト国では珍しい、赤みを帯びた瞳が美しく光る。

瞼に一つ…キスを落とす。



クロディーヌ王女に「風邪薬」を届けに来た侍女は、あの日のうちに他殺体で見つかった。王城に入る際に、王女の持ち物はすべて持ち込めないようにしていたので、王女に自害用の毒薬が渡せなかった侍女が…婚約者発表予定の12月の舞踏会が近づいたので焦ったのだろう。ブリアの王女であるにもかかわらず…つけられた侍女は2名。護衛騎士はついては来たが帰ってしまった。もう一人の侍女はしばらく前から割り当てられた部屋に帰っていないらしい。殺人容疑で探している。侍女が使っていた部屋は捜査が入ったが、何も出てこないだろうな。


「婚約が決まったら、ゲルト国の者にやっかみを受けて他殺されたと装う。」

「婚約が成立しなかったら辱めを受けたと自害する。」


淡々と…そんなことを打ち明けてくれたクロディーヌ王女に驚いた。

ブリア国に…愛されることも、愛することもなく…

おおよそ…生きていくという欲も…なかったのかもしれない。


私の周りにいた二人が…その彼女とあまりにも対照的だった。そう言うことだな。

あれがやりたい。これが欲しい。そんな奴らだ。

何もかもが彼女には新鮮だったのだろう。

何がきっかけだったとしても…彼女がどんな形でも、生きてみたいと思ってくれたことは幸いだった。


モニカの持ち込んだ小瓶ももちろん調べられたが、問題はなかった。

それどころか、瓶の中身に気が付いた検査官たちが頬を染めてざわめいた。

しまいに…じゃんけん大会になったらしいが、賞味期限を過ぎると雑菌が繁殖しやすくなって大変危険だとモニカに止められて泣く泣く諦めたようだな。


アリーセは約束通り、モニカに代金は払ったが…カミルに亀の血を飲ませる気はなくなったらしい。


*****


「あらあ、お兄さん、今日も飲みに来てくれたの?」


薄暗い安酒の飲める居酒屋の隅に、平民の格好ではあるが…どう見ても品のある男が座って酒を仰ぐ。店内は薄暗いが…まだ年若いその男に、ここで働いて間もない女がにじり寄る。いい体つきだ。

「…俺は間違っていない…」

先ほどから同じことをつぶやきながら、安酒をあおっている男。


「…お兄さんは間違っていないわよ?だって、あの女、ブリアの王女とか言ってるけど卑しい血が入っているのよね?そんな女の産んだ子がゲルト国の王になるのかと思うと…ぞっするわよね?」

「…ああ…」

「それに、」

男の耳元で女がつぶやく。

「…それに…あの女が王子の嫁になったら…王妃になったら…この国はブリアの言いなりよ?」

「…ああ…」

ぐいっとグラスの酒を飲みほした男に、これは私のおごりだと言いながら、女が酒を注ぐ。豊満な体をぐいぐいと男に押し付けている。


「みんなあなたの言ったこと、やったことが正義だと気が付くわ!あなたはやっぱり英雄の子孫なのね!かっこいいわあ!うふふふふっ」

「…ああ。」

「もっといい爵位がもらえるわ。みんなを見返すのよ?ね?」


薄暗い店の隅で…その女の眼だけがギラリと光る。









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