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第17話 金魚。

「遅くなりましたー!モニカ、ただいま参りました!」


日誌を先生に届けて、モニカがいつものように元気よくツインテールを弾ませて生徒会室のドアを開けると、珍しく全員が金魚の水槽を眺めているところだった。


…金魚がそんなに珍しくもないでしょうに。毎日見てるし。


そう思いながら、席に付こうとしたモニカを、アリーセ様が振り返って見た。涙目だ。

「モ…モニカ…ちゃん?」

「はい?」

亡霊のようにおいでおいでをするアリーセ様を不思議に思いながら、モニカは席にカバンだけおいて、殿下の金魚の水槽に近づく。


「げっ…どうしたんですか殿下?金魚、可愛がっていましたよね?」


そこには…丸々と太った金魚が10匹すべて…ひらひらと…白い腹を向けて浮かんでいた。


「アリーセ。瓶の中身は毒か?」

「え?」


殿下がアリーセ様を睨みつけながら怒鳴る。


「え?だって…モニカちゃん?惚れ薬よね?劇薬だったの?惚れ薬って?」

激しく動揺するアリーセ様を見て…水槽の底に沈んだ蓋の外れた紫の瓶を見て…モニカはここで起こったであろうことを理解した。


「いえ。媚薬です。正確には精力剤です。」


「…精力剤?」

殿下の視線が私に突き刺さる。そりゃそうだ。今学院は、いや、この国はピリピリしている。殿下とクロディーヌ様はここのところ公務でいなかったから…油断したな。賞味期限が短い商品だから急いで渡そうとして…私としたことがタイミングを間違えた。それにしても…。


「ええ。アリーセ様に渡したのはうちの商品です。」

「劇薬なのか?」

殿下の声が低く響く。


「え?いえ…すっぽんの活き血と赤ワインを絶妙に混ぜ合わせたものです。うちの商社の商品です」

「…すっぽんの血?」

「はい。すっぽんと言う柔らかい亀の活き血です」


驚いた眼差しで見ていたエルヴェーラ様がハンカチで口を覆う。顔色も悪い。

いきなりお嬢さまに亀の血、と言うのは衝撃的過ぎたか?

アリーセ様の顔も青ざめている。まあ…愛しのカミル君に飲ませようとしていたのが亀の血、っていうのも…なかなかな衝撃か?効き目は確かなんですけどね。


「でも…亀の血で、魚は死なないと思いますよ?それにこの瓶…うちの瓶ではありません。」

「証明できるというのか?」

「ええ。うちの精力剤の瓶は、蓋に色っぽくハートの飾りがついています。これは…ダイヤモンドカットになっていますよね?どこかで…すり替えられた?」

「……」

「……」

「…どちらにしろ…衛兵を呼ぼう。」

殿下がそう言ったところで、生徒会室のドアがノックされた。


「失礼します。クロディーヌ様にお届け物です。必ず本人に渡してくれと。」

受付の係員さんが、白いハンカチに包まれたものを持って立っていた。

「ブリアから同行されてきた王女殿下の侍女の方からですけど、風邪薬らしいですよ。直接本人に渡すとごねられましてねぇ…やっとお帰り頂きました。」

「…そうか。ご苦労だった。これからも部外者は入れないでくれ」

「ええ。王城でも王女殿下にお会いできなくて、思い余って学院まで来たようですよ?」

そう言いながら、係員さんが、その包みをそっと殿下に渡した。

「では。間違いなくお渡しいたしましたので」

そう言うと、帰っていった。


殿下がハンカチで包まれたものをそっと開く。


ハートの形の飾り蓋のついた、紫の小瓶…。


「あ!私、受け付けに媚薬代を取りに行って…その、クロディーヌ様の侍女の方とぶつかって転びましたわ!」

「……」

「慌てて落とした瓶を拾ったんですけど…じゃあ、金魚の水槽の瓶は、クロディーヌ様の風邪薬でしたのね?」


アリーセ様が…わかったような…わからないような…。











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