第15話 シスコン?
12月の頭の日曜日に、王城の事務官登用試験があった。
僕はアカデミア卒業予定枠での受験だったが、一般の部にはモニカの友達もいたようだ。僕が帰ってきたのを待ちかまえて、先ほどから受験の話を聞き出そうとしているモニカ。
「…まあ、カミル君は学年一の成績優秀者ですから、心配はないとは思いますけどね…。」
…カミルって、あの、アリーセ嬢の好きな子、だよな?
「で?お義兄様は試験はどうでしたの?」
モニカがお茶を入れながら聞いてくる。
「受かっていると思うけど」
「ですよね」
そんなことをのんびり話していたら、珍しく父がティ―ルームに顔を出した。
「モニカ。ここにいたのか。はい、これ。頼まれていたやつね。5万ガルドだよ」
「あ、ありがとうございます、お義父様。明日入金しますので」
父が手のひらに乗る位のサイズの、紫色の小瓶をモニカに手渡している。
瓶のふたにハートの飾りがついている。なかなか凝った瓶だ。
「賞味期間は3日だよ。わかっているね?」
「はい。お義父様もお茶にしますか?」
「いや。アロイスとチェスをやる約束があるから。アレクシスもたまにどうだ?」
「ああ。たまにはいいですね。一休みしたら行きますよ?」
何事もないようにお茶を飲んで…父が部屋を出て行くのを待って、モニカににじり寄る。
「で?」
「え?」
「お子ちゃまが、そんな薬を何に使う気だ?」
「…ああ、これ?」
「お前、まさか…殿下に一服盛るつもりじゃないだろうな?お前…そんなにあいつが好きなのか?」
「お義兄様…あいつって…不敬ですよ?それに、私だって1月になったら16歳になるんです。レディに向かって、お子ちゃまは失礼ですわ。それに…さすがの私でも、国益になる結婚、ぐらいの見当は付きますよ!」
モニカの座っていた三人掛けのソファーの隣に座って、ぷんすか怒っているモニカの持った瓶を取り上げて、ゆっくりテーブルに置く。
「この薬は何に使うのか、本当にお前は理解しているのか?」
モニカの琥珀のような綺麗な瞳を覗き込む。
「ええ。商品化して、上品だけど色っぽく見えるように瓶を選んだのは私です。量産できないのが逆に受けて、今、1本5万ガルドで売っています。1か月以上お待ちいただく人気商品になっています。しかも、賞味期間が3日。秘密裏に…口コミで貴族の皆様方に広がっておりますのよ?」
「へえぇ」
淡々と商品説明をするモニカに妙にむかむかして、座っていたソファーにモニカの肩を掴んで押し倒す。モニカの目が驚きで真ん丸になる。かわいい。いや、それどころじゃないな。
…もうこいつ…学院もやめさせて、僕の部屋に閉じ込めちゃうかな?誰にも会えないように…。
「じゃあ、誰に使う気だ?」
「…か、カミル君ですよ」
「は?」
語尾を伸ばさなくなったと思ったら…違う男に?
いや、違う男に目が行ったから、語尾を伸ばさなくなった?
しかも…自分の友人の想い人に???横恋慕???だからさっきから、カミルって男の話ばかりしてたのか?
「モニカ…なぜ?」
「…既成事実を作ろうかなって…」
「は?」
あ。もう閉じ込めるの決定。
モニカの肩を握りしめている手が震える。
可愛さ余って…憎さ百倍?
そんな…他所の男にモニカを奪われるぐらいなら…いっそ…
「…アリーセ様が。」
「え?」
「殿下の婚約者はクロディーヌ様に決まるだろうし、カミル君が王城の事務官になったら侍従をやめて寮に入るんですって。そしたら、アリーセ様に縁談が来てしまうでしょう?それを阻止するのに、惚れ薬はないか、って聞かれたから…。アリーセ様がカミル君と既成事実を作ってしまおうって魂胆らしいです」
「……」
「…お義兄様?」
「惚れ薬って…これはそんなロマンティックな代物じゃないだろう?」
「ええ。まあ。でも、このご時世に魔女もおりませんしね?」
「……」
はっ、と…僕の鼻とモニカの鼻がくっつきそうなくらいの距離まで詰めていたことに気が付く。
「お義兄様、なんか変な想像してましたね?えへへっ」
僕を見上げてモニカが笑う。
もうだめだ…モニカが16歳になるまでは我慢しようと思っていたのに…。
モニカの瞳を見ながら、ゆっくりと…
「お兄様あああ!遅いです!お迎えに来ました!」
バンッ、とドアが開いて…
…アロー…あと2分ぐらいお兄ちゃんに時間をくれないか??
「あーお兄様ばっかり、モニカお姉様と遊んでずるいです!」
「ずるーい」
…ビー…
ちびっ子二人が駆け寄って、キャッキャ言いながら僕がソファーに押し倒したモニカによじ登ってくる。
「ぼくも!」
「ビーも!」
…僕の真似をして、モニカに引っ付く。
…もう、いいか…
僕との間に潜り込んだアロイスとビアンカごとモニカに覆いかぶさるように抱きしめる。
「きゃあ。重ーい」
「お兄様、重ーい!」
「いやぁ、モニカお義姉ちゃん、つぶれちゃうぅう!あははははっ」
うちは…今日も平和だなあ…。




