第14話 惚れ薬。
「ねえねえ、モニカちゃん?」
「なんですか?アリーセ様」
私たちはバケツをぶら下げて、掃除に来ている。
学院の入学式やダンスパーティーに使うホールに続く回廊の壁に、こともあろうか…
”ブリアを許すな!”と、大々的に落書きした奴がいた。
犯人はあっけなく捕まって、放校処分になり…衛兵が入ったりしていたので、一時、学院内はピリピリとしていた。タイミングが悪すぎる。というか…まあ、このタイミングだったからだろうけど。
捕まったのは、ブリアともめている国境沿いの土地に隣接する領地を持つアルブ子爵家の息子。かつては勇ましい軍の英雄に与えられた土地。要はお隣に威嚇していた?時代とともに争いごとも少なくなったので、普通の、領地になった感じかな。
モニカは一度だけ義父と通ったことがある。ゲルト国には珍しく、温泉が出る土地だが、温泉自体の効能がほとんど無いようで、観光用に開発しようとして諦めたらしい。まあ…温泉に入ってゆっくりしているところに、ブリアとの争いごとが起きたりしたら困るしね。なかなか不自由な場所だな、そうメモを取った覚えがある。
息子は除籍処分になり、アルブ子爵家は降格され男爵家として北のはずれに移された。その子爵家領は王家預かりになった。
この一件が落ち着くまでは回廊は立ち入り禁止になっていたが、晴れて掃除することになった。いろいろと書き込んでいたようで、思想上の問題があるので使用人は使わずに私たちが掃除に駆り出されたわけだ。
大々的に書かれたスローガン?を水で濡らした雑巾でごしごしと拭いていく。
思ったより広範囲だったので、カミル君がブラシとモップを借りに行った。
「ねえ、モニカちゃん?惚れ薬ってどこに行ったら買えるのかしら?」
雑巾を上下に動かしながら、アリーセ様がのほほんと聞いてきた。
「惚れ薬?ですか?あの、よく魔女とかが作っているって言う、あれのこと?」
「そうそう、それよ、それ」
モニカは動かしていた手を止めて…思わずアリーセ様を見る。
「え?いったい誰にお使いになるので??」
「いやーん。モニカちゃん!カミルに使うに決まってるじゃないの!」
…いや…もう惚れているんじゃ…?そう思ったが一応確認しておく。アリーセ様の発想はほんの少し凡人とは違っているようなので。
「…なんでいまさら、カミル君に?」
「だってー!殿下の婚約者はクロディーヌ様に決まりそうだし、カミルは12月になったら王城の事務官試験を受けると言っているし。しかもね…事務官になったら、寮に入るんですって。」
「そりゃあ、まあ…アリーセ様のお屋敷の侍従と二足の草鞋ってわけにもいかないでしょうからね…」
「まあ、モニカちゃんもカミルと同じこと言うのね?カミルはうちの屋敷を出るって言ってるのよぉ」
「まあ。そうでしょうね。それと惚れ薬の間に、なにか相関関係がありましたか?」
「それはね…」
アリーセ様がキラキラした瞳で私を見つめてくる。
「カミルと既成事実を作ってしまおうと思って!きゃっ♡」
「……」
「そうしたらお父様も私をよそにお嫁に出そうとは思わないでしょう?」
…アリーセ様…
「ねえねえ、あなたのお家の商社で、惚れ薬は扱っていない?買うわよ?」
「……」
この方の発想は…なぜいつもこんな感じなんだろう。いい人なんだけど。
「惚れ薬は扱っておりませんが…媚薬ならございます」
「び、媚薬?…」
惚れ薬も媚薬も似たようなもんだろう。既成事実を作るつもりのわりに、媚薬、の言葉の響きに顔を赤らめるアリーセ様。
それでも…やんわりと言いましたが…本当は、精力剤です。うちで扱っているのは。
「1本、5万ガルドです。」
「び…ご…」
混乱してますね?
「うちで扱っている媚薬は、予約が立て込んでおりまして…一番早くて1か月後くらいになりますが、どうされますか?」
モニカは落書き消しを再開させながら、先日確認した義父の商社の予約帳を思い出しながらアリーセ様に告げる。
「効き目は保証いたしますよ?うちの義両親も子供が出来ましたから。大々的に扱うほど量産していないのですが、口コミで評判になってしまいまして」
「…び……買うわ!」
「はい。毎度ありがとうございます」




