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第13話 クロディーヌ様。

「まあ、お義兄様もお出かけなんですか?」


風邪気味でご機嫌斜めのビーちゃんをおんぶして寝かせていたモニカが、珍しく正装した義兄を見かけて声をかけた。

「ああ。隣国からクロディーヌ王女がいらしたのはモニカも知っているだろう?」

物憂げな表情で義兄が並んで歩く。

「…その歓迎晩さん会で、僕が殿下に控えることになってね。」

「まあ。」

殿下の側近に取り立てられるという話は、もう決定事項の様ですね。さすがです!お義兄様!


「ビアンカは熱が出たのか?」

「ええ、少し。お医者様がよく寝れば治るぐらいだとおっしゃっていましたから、ご心配なく。アロイスは侍女と遊んでもらっています。」


もうすぐ夏休みも終わる。

9月になったばかりだが夕方は涼しくなってきた。おんぶしたビーちゃんの背中を覆うように薄いショールを被っている。のぞき込むようにビーちゃんを見た義兄が、

「うん。良く寝ているな」

と笑った。


こげ茶の秋用の上着に、ベビーピンクのタイ。今日は前髪が撫でつけてあげてあるから、いつもより大人っぽく見える。長く伸ばした銀髪を緩く留めているのもベビーピンクのリボン。

毎朝学院で、義兄の出待ちの列ができるのも納得のイケメンだ。私は義兄に抱えられながら、いつも申し訳なく思いながら集まった女の子たちの列をかき分けで行くもの。


私の身長より30センチは大きいかしら。義兄を見る時は見上げる形になる。


タイがほんの少し歪んでいたので、手を伸ばしてササっと直す。直す間はされるがままになっていた義兄が、いつものように抱きしめてくる。

「なるべく早く帰って来るからね?」

耳元でそうつぶやく義兄。よほどビーちゃんのことが心配なんですね?


「まあ、お義兄様。ビーちゃんのことはお任せください。ご心配なくいってらっしゃいませ」


何度も振り返りながら馬車に乗る義兄を、玄関先で見送る。

義父も義母ももう乗り込んで待っていた。

モニカが手を振ると、手を振り返してくれた。


…今日は伯爵家以上の貴族が集められての晩餐会らしい。


ブリア国のクロディーヌ様か…どんな方なんでしょう。


馬車が見えなくなったので、

「さて、ベッドで寝ようか?ビーちゃん」

と背中で眠っているビアンカに話しかけながら部屋に戻った。


*****


どんな方なのかなあ…と思っていたクロディーヌ様が私のお隣で教科書を開いている。柔らかそうな長い赤毛、陶磁器のような白い肌。瞳もくすんだ赤。赤の髪や瞳はブリアの王族の特徴らしい。

モニカは本で読んだことはあったが…実際見てみると、なるほどかなり特徴的な色だ。


後期の授業が始まった。

短期留学の形で、ゲルト国の社会勉強をされることになったクロディーヌ様は、学院の高等部1年A組に入った。私の隣の席だ。ゲルト語は流暢。なんなら、敬語も完璧である。同じ年。

昼休みは殿下とエルヴェーラ様が誘いに来て、王族用の控室で食べているようだ。

放課後は私たちと一緒に生徒会室に行って、エルヴェーラ様からこの国の歴史を学んでいる。その後は殿下と王城に帰っていく。



「……」

「どうしたの?おとなしいね、モニカ?」


中庭で、もそもそと今日のお昼のサンドウィッチを食べていると、一緒に昼食をとっていた義兄が聞いてきた。


「ええ、お義兄様…王女殿下に近づきたい人が意外なほど多くて…」


最初の頃は遠巻きに見ていた皆さんも、家の人に言われたり?(まあ、次期王妃となるならお友達になっておきたいわな)

物を持ってきたり?(ブリアと取引のある所はもちろん、これからこの婚姻で活発化するであろう物の流れに乗っかろうという野心持ちの家の人)

何を思うのか…口説きにきたり?(何考えてんのよ?)


そう言った人たちを片っ端から蹴散らしているのが、私。そう、私。


「んまあ、お友達?モニカとお友達になりたいなんて100年早くてよ?」

だの、

「まあまあ、モニカが王子妃になるかもしれないのに、私には貢物がないなんて許せなくってよ?」

だの…

「あなたとお茶ですって?顔を洗って出直していらして!」


…キャラブレしっぱなしだわよ…私は、小動物系の可愛いキャラを目指しているって言うのに…これじゃまるで、悪役令嬢じゃないの!!と、いうより…雛を守る親鳥?

このところ入れ代わり立ち代わり現れるいろんな学年のいろんな人に、仁王立ちになって立ちふさがる毎日…。


「…毎日こんな感じでね?殿下が、誰も近づけるなって言うから…疲れるわ」

「ぷぷっ」


笑い事ではなくってよ?と、悪役令嬢セリフを言って、義兄と大笑いする。

実際、語尾を伸ばしている暇もない。


「で、モニカから見て王女殿下はどんな方なんだい?」

「うーん。綺麗で、儚くて、あんまり表情はわからないかなあ…ま、殿下を見てても思うけど、王族の人って張り付き笑顔、みたいな感じよね?殿下はずい分表情豊かになってきたけど」

「ふーん」

「ゲルト語は完璧。お勉強も、おさらいしてるって感じでしょうかね。」

「そうか」


…お義兄様が…この前から随分とクロディーヌ様について聞きたがる。

お義兄様の理想の女性って…ああいうタイプなのかしら?


綺麗で、儚げな才女。

実際、ふわふわした柔らかそうな綺麗な赤い髪に、ほんの少しくすんだ赤色の瞳。陶磁器のような白い肌…そっと触らなかったら壊れてしまいそうな女の子…。

私とは…全く違うわね…。


ふーん、と言いながら、先ほどから義兄の視線が遠い。


そうか…いつか…お義兄様が結婚したら…養女の小姑なんかいない方がいいよな。

お義兄様の…視線の先にいるのは誰なんだろうなあ…。


ほんの少し、胸が苦しくなる。

こんなことに寂しがるなんて、私も贅沢になったもんだ。


そうモニカは思いながら…


殿下がだめだったら、お義父様に言って、どっかヘルケ伯爵家にとって有益な家門にでも嫁に出してもらうか…。そんなことを考えて、モニカは義兄の視線の先を追う。


日陰を作ってくれていた木々が、ほんの少し黄色く色づき始めた。









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