第四話:交差する光と影
カレンの旅は、荒野の続く、乾いた道を選ばざるを得なかった。
物語が希薄な場所。人々の暮らしや歴史がない場所。そうすることで、彼女は世界からこれ以上、生命の織物を奪わずに済むと考えたのだ。
太陽は容赦なく照りつけ、乾いた風が砂を巻き上げた。彼女の足跡には、すぐに新しい砂が降り積もり、「カレンがここを歩いた」というささやかな物語すら残らないようだった。それは彼女の絶望を静かに肯定しているようでもあった。
昼下がり、カレンは小さなオアシスに辿り着いた。
古びた岩陰から湧き出る、細い水の流れ。
そこで、一人の男に出会った。
男は、深い緑色のローブを纏い、顔には長く厳しい旅の跡が刻まれていた。
彼は水筒に水を満たしながら、カレンの方へ振り返った。その瞳は、彼女に向けられる多くの人々の怯えや嫌悪とはかけ離れた、好奇心と静かな探求心に満ちていた。
「こんにちは。こんな場所で旅人に会うとは。稀有なことだ」
男はそう言って、優しく微笑んだ。
カレンは思わず一歩後ずさった。
彼の周りには、使い込まれたリュックや、手に持った木の杖など、旅の数だけ積み重なった物語が満ちている。彼女が近づけば、それらは必ず虚無に変わる。
「近づかないでください!」
カレンの声は、乾いてかすれていた。
「私は、貴方のものを、奪います!」
男は少し驚いたように眉を上げたが、恐れる様子はなかった。彼は、カレンのその絶望的な叫びの奥にある、純粋な痛みを見抜いたようだった。
「奪う?何をだね?私の杖の古さの物語かい?それとも、この道のりの困難の物語か?」
男はローブを少し緩め、名乗った。
キリアンという名だった。
キリアンは、カレンが何もかもを虚無に変えてしまう能力を持つことを、すぐに悟った。
彼女の周囲の空気は、わずかに冷たく、世界の生命の輝きが薄れていたからだ。それは、彼が今まで出会ったどんな魔法使いとも、どんな呪われた者とも違う、異質な力だった。
だが、キリアンは逃げなかった。
彼はカレンの顔を見つめ、静かに、しかし力強く言った。
「私は、君を恐れない。なぜなら、君の目には、君自身が破壊した物語の『悲しみ』が宿っている。君は、自分の力を憎んでいるのだろう?」
その言葉は、カレンの凍てついた心を初めて打ち破った。
人々が彼女に求めたのは退場だけだった。誰も彼女の苦しみを理解しようとはしなかった。
「その力は、本当に呪いなのかい?それとも、君がまだ知らない、何か別の『可能性』なのか?」
キリアンの声は、乾いた荒野に、微かな、しかし確かな希望の音として響いた。




