第十七話:清流の賜物
キリアンは清らかになった川の水をカレンに飲ませた。それは数えきれない人々の悲しみを浄化し尽くした再生の水だった。
「すごい!君は人類の集合的な悲しみを乗り越えた」
キリアンは驚きと誇りを込めて言った。
「前回の森の時とは違う。君の心には虚無の穴が空いていない」
「はい」
カレンは答えた。
「吸収する時、悲しみの感情そのものではなく、悲しみを引き起こしている物語の構造だけを狙うように意識しました」
キリアンはカレンの言葉に目を見開いた。
「構造?つまり感情のエネルギーではなく、物語の論理を虚無に変えたということか!」
カレンのこの経験は、彼女の能力における決定的なブレイクスルーだった。
彼女の能力は以前、物語全体をエネルギーごと吸収し、感情の反動を受けていた。しかし今回、物語の論理的な構造のみを虚無に変えることで、感情の反動を回避し制御下に置くことに成功したのだ。
キリアンはすぐにカレンに次の訓練を提案した。
「川は清らかになったが、君の心にはまだ悲嘆の残り香が残っているはずだ。それを創造のエネルギーとして利用してみよう」
キリアンは川岸の乾いた土を指差した。カレンはそこに手をかざし、自身に残っている悲嘆の残り香を土壌へと放出した。
すると、その土壌から以前よりも遥かに強く、しなやかな生命力を持った草花が一斉に芽吹いた。それは悲しみという負の感情が、克服という新しい物語を得ることで、創造のエネルギーへと昇華された瞬間だった。
この経験を通じて、カレンは自身の虚無の力をより細かく制御できるようになったことを確信した。彼女は感情の暴走を恐れることなく、意図的に、必要な物語だけを、必要な深さまで虚無に変えるという技術を習得したのだ。
二人の旅はこの成功により、一段と自信と希望に満ちたものとなった。




