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第十五話:悲しみの川

キリアンが地図に示した次の目的地は「イオニアの嘆き」と呼ばれる川だった。


その川は、その名の通り、古くから人々の悲しみや後悔の物語を吸収し続けるという伝説を持っていた。川の水は黒く濁り生き物の気配が一切なく、その流れは重く、ゆっくりとしていた。


「この川は、生きた『物語の墓場』だ」


キリアンは川岸に立ち、そう言った。


「何世紀にもわたり、数えきれない人々の悲劇、失恋、後悔、そして小さな絶望まで、あらゆるネガティブな物語を溜め込み続けている」


カレンは川の岸辺に近づいた。

彼女の虚無の力は、この川と強烈に共鳴した。


「すべてが、私を呼んでいるみたい……」


カレンは囁いた。


「この川は私と同じ。物語を終わらせることでしか、存在を維持できない」


川の水を少し掬い上げると、カレンはぞっとした。水からは、何千人もの人々の、集合的な心の叫びが感じられた。それはアウレリウスの街のような一過性の悲劇ではなく、人々の生が内包する、普遍的な悲しみだった。


「この川が悲しみを吸収し続ける限り、この地域の人間は、悲しみを乗り越えることができない。彼らは常に川に依存し、自力で立ち直る『再生の物語』を紡げないでいる」


キリアンは川の構造を説明した。

それを聞いて、カレンは自分の役割を悟った。


「私がこの川の物語を吸収します」


カレンは決意した。


「川の悲しみを終わらせる。そして、この地域の新しい再生の物語を人々に返します」


キリアンは深く息を吸い込んだ。


「その決断は、アウレリウスよりも遥かに危険だ。アウレリウスの悲しみは有限だった。この川の悲しみは無限だ。それは、人類が抱えるすべての悲しみの集合体だ」


「大丈夫です」


カレンは、かすかに微笑んだ。


その微笑みはまだ感情を伴っていなかったが、決意の力を宿していた。


「私はもう、一人で悲しみを背負うのではありません。貴方の希望の物語が、私を支えてくれる」


彼女は川岸に座り込んだ。

黒く濁った川面は、まるで地獄の入り口のように見えた。カレンは自身が創造者として成長するために、この「無限の悲しみ」を、自らの虚無で受け止めることを決意した。

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