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第十四話:心の虚無を埋める物語

アウレリウスを出て数日、カレンの状態は悪化の一途を辿っていた。


彼女は食事をしても味を感じず、会話をしても感情を込めない。感情の虚無が、カレンのすべての行動を支配していた。


キリアンは、その異変にすぐに気づいた。カレンが危険な修行を乗り越えるたびに、彼女は人としての感情を失っていく。このままでは、彼女が「創造者」になる前に、「虚無の塊」になってしまう。


旅の途中、二人は小さな村の宿に立ち寄った。


キリアンは、カレンのために温かい食事を用意し、彼女の前に置いた。


「カレン。これを食べてくれ。君の体は、膨大なエネルギーを消耗している」


カレンは無感動な目で皿を見た。


「食べても、何の意味もありません」


「そう言うな」


キリアンは、カレンの虚無に屈することなく、優しく語りかけた。


「君の旅は、意味を求めているわけではない。希望を求めているんだ」


そしてキリアンは、カレンの心の『虚無』を埋めるように、静かに自分の『物語』を語り始めた。


「覚えているか?最初に私が出会った時、君は私の杖の物語を奪うと言ったな。あの杖は、私が初めて世界を旅に出た時、師匠がくれたものだ。師匠は言った。『杖は、お前がこの杖と共に歩いた道のりすべてが、お前の人生の物語となる証だ』と」


キリアンは自身の旅の思い出、初めて魔法を使った時の失敗、師匠との別れ、そして『時間の魔術師』を探し始めた理由を、一つ一つ丁寧に、感情を込めて語った。


それはカレンにとって、感情の虚無を強制的に揺さぶられる体験だった。


「その旅は……楽しかったんですか?」


カレンの無感動な声に、微かな震えが混じった。


「ああ、楽しかった。そして、苦しかった」キリアンは微笑んだ。「だが、それらすべてが、今の私という物語を作っている。そして今、君という新しい物語が、私の旅に加わった。それこそが、私にとって最大の希望だ」


彼は立ち上がり、カレンの手を握った。


「君がアウレリウスで創造したあの緑は、君自身の感情のエネルギーから生まれた。それは君の悲しみが、決して無意味ではなかった証だ。その緑の物語を忘れないでくれ」


カレンはキリアンの温かい手の感触と、彼の語る強い希望の物語が、自分の心の冷たい穴の周りに、微かな暖かさの輪郭を作り出すのを感じた。


「キリアン……」


「大丈夫だ、カレン。君が感じなくても、私は君の感情を覚えている。君が再び笑えるようになるまで、私は、君の希望の物語を語り続ける。それが、この旅での私の役目だ」


キリアンの献身的な『物語』の供給は、カレンの心にわずかな足場を取り戻させた。彼女は、まだ虚無の中にいたが、自分以外の誰かの強い希望が、自分という器を支え続けていることを知った。

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