人形劇
人形ってあるよね。
ああ待って待って、ごめんねいきなり。
そうだよね急にわけわかんないよね。
うん、そう、人形。お人形さん
日本人形とか、フランス人形とか、くるみ割り人形とか、バービーとか。
こうして改めて並べていくといっぱいあるね。
いろんな国の人達がその国や地域の特徴を込めて作ってるから、結構個性あって面白いよね。
ああ、君ももってた?何派?リカちゃん?懐かしいね、リカちゃん。
俺も妹が持ってたな。スカートの中めくってみたりして。うわー懐かしー。
…なんでそんな話って?
そうだね、そりゃそうだよ。
まぁ早いが話、そのお人形さんにまつわるこわ〜い話がしたいわけなんだけど。
もちろん付き合ってくれるよね?
わぁ、ありがとう!優しいね。
怖い話って言ってもね、よくある話だよ。
だからそんな堅くなんなくても大丈夫。
その前に、人形についてちょっとお話しよっか。
そんな身構えないでよ。ただの雑談。
人形ってさ、可愛いけどどこかこう、不気味っていうか、なーんかヤな感じするよねぇ。
昼間はあんなに可愛いのにさ、夜になるととたんに。
やっぱ人の形してんのが良くないんだろうねぇ。
昼間は一緒におままごとして遊んだ仲だってのに、夜になると一転、夜のおトイレを妨害してくるボスキャラになっちゃう。
俺も夜中のリカちゃんは怖かったなー。
ドアの横のタンスの上においてあるもんだからさ。
もー怖くって怖くって。
捨てろよ、って妹に言ったらヤダ!なんて言われて、お互いムキになっちゃって喧嘩とかしたっけな。
…あぁ、話が逸れたね。ごめんごめん。
えーと、そう、要は人形って怖いよね!ってのを共感してほしかったの。
可愛いお友達ってだけじゃないよねって。
…ウチの国ってさぁ、『人の形』をしてるもんにやたらと意味を付けたがるっていうか、そういうものとして見る傾向があるんだよね。
紙人形ってわかる?アレだよアレ、千と千尋の。
そーそーそーそー。アレ。
アレって人の形してるでしょ?
昔の人はね、アレの周りでなんか下手クソなスキップみたいなのした後に口ん中の水ぶっかけて式神として使ったんだって。
人の形に切った紙を『人』と定義して使役してたんだね、要は。
他にも、流し雛ってわかる?
これまた人の形した紙人形に自分の厄をなすり付けて川に流すことで、1年の厄を持ってってもらって、自分の安全を祈願したんだ。
ピンときてない顔だね。これならわかるかな。
そこに置いてあるの、見えるかな。
そ、藁人形。
これは有名だもんね。
嫌いなやつの髪とかを入れて、釘でバチコーンと。
これも藁人形をその人の代わりとして見てないと成り立たない呪術だよねぇ。
…まぁここまで長々と話したわけなんだけど。
要するに、人形ってのは人であって人ではない。
人の形をしたナニカである、って話ね。
人形はさ、人でありながら中身のないカラッポなわけよ。
だからさ、たまーに、すごいたまーーーに、いつの間にか中に何かが入ってたりすんの。
聞いたことない話ではないでしょ?
カラッポの虚は、器みたいなもんだからねぇ。
これがくまさんとかうさぎさんとかならともかくなまじ人の形してるもんだからタチが悪くって。
くまやうさぎと違って人ってのはそこら辺の畜生とは一線を画した存在なわけだから。
なんてったって万物の霊長を自称する生物だよ?
同じ人形でも熊公如きの模造品とはワケが違うわけですよ。
あ、今バカにした?
まぁそりゃいい年した男が真面目くさってこんな話ししてるんだから無理ないかもだけどね。
案外、世界中の人たちがそう思ってるんだよ?
勝手に髪が伸びる日本人形。捨てても捨てても戻って来るフランス人形。夜中にひとりでに歩き回るおもちゃの兵隊さん。
どれもこれも人の形をしてるよね?
みんな、生み出してみたはいいけど思ったより怖かったんだろうねぇ。
案外そういう恐怖から、怪異の類は生まれたのかも。
さて、ある程度人形とお化けの関連性について知ってもらえた所で、そろそろ本題に入ろうか。
うん、正解。
これは人形の怪異の話だ。
折角だから、口調もちゃんとしようね。
仮に、今回の主人公の少年をAとしようか。
Aはまぁ、至ってフツーの家庭の、フツーの少年でした。
パパママ妹とAくんの4人家族。
フツーに平和に暮らしましたとさ、ちゃんちゃん。
…あれ、面白くなかった?
……ごめんって、少し場を和ませようと思ってやってみたんだよ。
‥エヘン。気を取り直して。
Aと妹は3つ違い。
兄妹仲は良好。
両親からも愛されて育った、ごくごく一般的な子供でした。
ある年のクリスマス、Aと妹はサンタさんにプレゼントを貰いました。
Aは友達と色違いのミニ四駆。妹はお人形さんを貰いました。
妹ちゃんは、それはそれは喜びました。
なんてったって、クリスマスのために2ヶ月も前からママのお手伝いをしたり、パパの肩を揉んであげたりして良い子にしていたのですから。
内気で、学校でもあんまりお友達とお喋りする子ではなかったので、いつも一緒でした。
宿題を忘れて先生に怒られたときも、ピーマンをちゃんと食べて親に褒められたときも、イジワルな子にからかわれたときも、好きな人と目があったときも、
いつだって真っ先に家に帰ってきて、そのお人形に報告していました。
小学2年生にしてはちょっと子供過ぎたかな?けど、本人にとっては何より大事な宝物だったのです。
いつも手にとっておしゃべりしたり、髪をとかしたり、お着替えしたり。
そうでないときは目立つところに飾っておいて、眺めたり、
とにかく、それはそれは大事な宝物だったのです。
少し大きくなっても、サンタさんがパパだということを知っても、周りの子達がぬいぐるみを捨てても、その子にとっては、ママのダイヤの指輪よりキラキラした宝物だったのです。
けれど、Aにとってはそうではありませんでした。
妙にリアルな頭身も、大き過ぎるくらいの目も、目が痛くなるようなブロンドの髪も、全てが気に食いませんでした。
夜中にトイレに行こうとすると、まるでなぜ起きているんだと咎めるようにこちらを見てくる気がするのです。
自分の__正確には自分と妹の__部屋だというのに、自分より長くその人形がいるのもなんだか家主の権利を奪われたみたいで癪でした。
それに、5年生にもなって人形にベッタリな妹が、なんだか気味が悪く思えたのです。
ある日の夜、寝る前にジュースを飲みすぎたからでしょうか。
3時頃、Aは目が覚めてしまいました。
少し億劫に思いましたが、流石にこの年になってオネショなんて恥ずかしい。
Aはみんなが起きないようにそっと布団から抜け出しました。
一瞬、ちらりと人形のことが脳裏をよぎりましたが、尿意に急かされ抜き足差し足一階に降りて用をたしました。
スッキリして階段に差し掛かった時、再びあの人形のことが頭を掠めました。
途端に、階段の上から、明り取りの窓から、あるいは背後から、
あの人形が襲いかかってくるんじゃないかという恐怖が背筋を走りました。
どこからかカサリ、と音がしました。
もう抜き足差し足なんて言ってられません。
弾かれたように階段を駆け上がり、慌ててドアを開け部屋へと飛び込みました。
大した距離でもないのに、まるで体育の後みたいに息が上がって肩で息をしていました。
けれど、部屋に入った途端、なんだかバカバカしくなりました。
そりゃそうです。人形が動くわけが、ましてや襲いかかってくるはずがないのです。
Aは自嘲気味に笑うと、少しづつ余裕が出てきました。
そこで、そういえば階段の電気を消してないな、と思い当たりました。
急いで駆け上がって、更には電気もつけっぱなしなものだから、ひょっとすると親が起きてくるかもしれない。怒られるのは嫌だ。
すっかり落ち着きを取り戻したAはドアを開け、電気のスイッチに手を伸ばし、
ふと、横の人形と目が合いました。
階段のオレンジの明かりに照らされた人形は、じっとAを覗いていました。
見ているだけなら良かったのです。
ですが、体は向こうを向いていました。
そういえば、妹は寝る時にいつもこの人形が自分を見守るようにとタンスの上に置いてあるのです。
今も、体だけは寝ている主を見守っています。
ですが、その頭は、その目だけはAをしっかりと見据えていました。
記憶が正しければ、この人形は関節が動くことは無かったはずです。
当然、首もこちらを向くはずは無いのです。
ですが現実としてAと人形はまるでヘビとカエルのように睨み合っています。
当然、Aがカエルです。
Aは動けませんでした。目も離せず、まばたきすらしませんでした。
手を伸ばした不格好な姿のまんま、これから丸呑みにされるカエルのような気分で人形を見つめていました。
Aは数秒の間に静寂の音を知りました。
ぱちり、と人形がまばたきをしました。
Aはそこで気を失いました。
朝、少し早くに目が覚めた時、Aはベッドの中にいました。
息は荒く、じっとりと汗を書いていました。
夢だったのだ、とAは安堵しました。
悪夢を見たのです。
気分はよくありませんでしたが、あれが現実であるよりも遥かにマシでした。
少し荒くなった呼吸を落ち着け、バッと人形の方を見ました。
人形は静かに妹を見守っていました。
首が曲がることも、まばたきをすることもありませんでした。
やはり、夢だったのだ。
今度こそ安心したAは、ベッドを抜け、ドアを開けました。
電気はまだ付いていました。
部屋の中から、カサリと音がしました。
Aはあの人形を捨てろ、と言いました。
妹は、嫌だ、どうして、と言い返しました。
Aは昨夜のことを話しました。
しかし妹は信じようとしませんでした。
いくらか不毛な言い合いが続きました。
Aは自分の身と、妹を守りたいと必死でした。
妹も、自分の宝物を守りたいと必死でした。
苛烈な言い合いの末、ついにAは強硬策に出ることにしました。
普段、人形から離れようとしない妹も、人形から離れる時間があります。
それが、お風呂の時間です。
いくら大好きな人形といえども、水に浸かれば塗料が剥がれ、のっぺらぼうになってしまうと、以前母親から脅されたためでした。
チャンスはそこしかありません。
そしてこの日を逃せば、今夜無事である保証はありませんでした。妹が服を脱ぎ、体を洗い出したのを確認し、Aは作戦を実行することにしました。
作戦は至って単純です。
Aは窓を開け、人形を掴み、裏の川に向かって思い切り放り投げました。
高々と放り投げられた人形は、一瞬街灯に照らされた後、闇に混ざって見えなくなりました。
一瞬遅れて、ぽちゃん、とくぐもった音が小さく響きました。
Aは達成感から思わずガッツポーズをしました。
Aは恐ろしい人形に打ち勝ち、家族を、妹を守ったのです。
方法はともかく、やり遂げたのです。
妹は泣くだろう。しかしもう捨ててしまったものはどうしようもない。
どうにか謝ってなだめて、そして明日違う人形を買ってやろう。
そうすればじきにあの不気味な人形のことも忘れるだろう。
Aは妹がお風呂からあがってくるのを待ちました。
30分経ちました。
少し長いなと思いました。
更に10分経ちました。
のぼせているのかもと心配になり始めました。
もう5分経ちました。
そういえば、あのぽちゃんという音。
あれは随分と近くから聞こえたような気がします。
川よりももっと近く。
家の中。
例えばお風呂場。
Aは転げ落ちるように階段を駆け下りました。
妹がお風呂からあがってくることはありませんでした。
妹はどこにもいませんでした。
代わりに、浴槽の中でぷかぷかと浮いているリカちゃん人形だけが残っていました。
どうだった?
結構怖かったでしょ。
そこそこ長いもんだから喉が渇いちゃった。
ちょっとタンマ。…ぷはぁ。
ん、いいよ。
それで、今の話、なんか感想あったら聞かせてよ。
…それじゃ感想じゃなくて質問でしょ。
まぁいいよ、答えたげる。
うん、実話だよ。
本当にあった話。Aくんの身に起こった、不可解で不可避の悲劇。
妹ちゃんはどうなったかって?
結局見つかってないよ。
今も彼女は行方不明のまんま。
普通に生きてたら、今頃もう大人だろうね。
普通だったらね。
そろそろ電気つける?
後ろのアレ、気になる頃合いでしょ。
…じゃじゃーん!件のリカちゃんでーっす!!
うん、本物。どう?びっくりでしょ。
なんで妹ちゃんが行方不明扱いかっていうとね。
もちろん死体が見つからないままこつ然と消えたってのもあるんだけど、
一度だけ、妹ちゃんが消えた3時間後、家から2キロほど離れたコンビニの監視カメラに、裸のまんまの妹ちゃんが映ってたからなんだよね。
それ以来見つかってないけど、親や警察は今も何処かで生きてると信じてる。
けど俺だけは知ってる。妹ちゃんの場所も、今何してるかも、そもそも生きてるかどうかも。
…もうわかるよね。
うん、そう、俺がその少年A。
人形に家族を奪われた哀れな少年。
あの時人形を発見した俺だけが知ってる。
妹は、まだこの中にいる。
ほら、聞かしたげる。
……どう、ちゃんと聞こえた?
ああ良かった、どうもこれ聞こえるかどうかは個人差があるみたいなんだよね。
やっぱり君を選んで良かった。
え、だってそっちのほうが相性良さそうじゃない?
‥それはちょっと後で教えてあげる。
話を戻して…あの時監視カメラに映った妹の中身は多分元々このリカちゃん人形に入ってたナニモノカなんだろうね。
最初からずっと人形の中にいたのか、それとも後から入ってきたのか、なんで俺じゃなくて妹だったのか、それはわかんない。
きっとあの時、俺が人形を捨てちゃった時、中身が入れ替わっちゃったんだろうね。
妹は11歳の時からずっとこの中で過ごしてる。
俺のせいで、ずっと、12年。
可哀想だよね。妹は…藍華は何もしてないのに。
俺のせいで。
だからね。
俺が元に戻してやることにしたんだ。
それで、謝りたいんだ。
あの時のこと、この12年のこと。
だから必死に頑張ったよ。人形や、それにまつわる怪談や呪術を片っ端から調べ上げた。
色んなところに足を運んで、いろんな実験をして来た。
必要になったから医師免許も取った。
多分これが一番大変だったかな。けど藍華のためだから頑張れた。
色々色々色々色々頑張って頑張って頑張って頑張って、頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って、頑張って。
ついに、準備が整った。
これで、ようやく藍華を人間に戻してやれる。
ありがとうね。君のおかげだよ。
そろそろ教えてあげるね。といってももうなんとなく気付いてるかもだけど。
藍華と君を入れ替える。
藍華の声が聞こえる君ならきっと上手くいくはずだ。
あぁ、君の顔は入れ替える前にちゃんと藍華の顔に変えるよ。
と言っても君は藍華にそっくりだからイジるのはほんのちょっとだろうね。
うん、それが君を選んだ一番の理由。
まぁほとんどフィーリングだよね。
なんてったって藍華は11歳で君は23歳だ。
成長したらこんな感じだったのかな、くらいの気持ち。
でも年齢まで一緒だったのは流石に運命感じちゃったよね。
それは拉致った後で知ったんだけどさ。
…自分はどうなるのか、だって?
急に察しが悪くなったねぇ。
あるいはこれから自分の身に起こることを認めたくないのかな?
端的に言うと、これから君は死ぬよ。
さっき入れ替えるって言葉を使ったけど、正確じゃなかったかも。
これから君の顔を変えて、殺して、中身を抜いてカラッポの虚にしてから藍華を入れる。
あぁ、そんな顔しないでよ。
安心して。君の体はちゃんと藍華のために使うから。
なんだって?こんなことを藍華ちゃんは望んでいるのか?
‥だってよ、藍華。答えたげなよ。
『ㄗ亻ㄌ氵"⦡ታ亻∃』
ほらね。藍華もこう言ってる。
だから、僕の、藍華の為に死んでおくれ。
と言っても君に選択権はないから、勝手にありがたく使わせてもらうね。
辞世の句とかある?
あぁそう、じゃあ薬打つからじっとしててね。
あぁ、もう、なんだよ。別に聞いてあげるなんて言ってないだろ。
そう喚かないでよ、五月蝿いな。見たらわかるでしょ?ここ地下だよ?無駄だってわかんないかな。
…ほんとに五月蝿いな。ちょっとまってね、爪剥ぐから。
あっ指折っちゃった。意外と難しいんだね、コレ。
まぁこの際どっちでもいいね。次は歯を抜くからね。
…うん、良い子だ。
じゃあ、チクッとしますよ〜…なんちて。
意外と言う機会無かったから言ってみたかったんだよね、コレ。
それじゃあ君はここでサヨナラだね。
来世はもっとこう、いい感じに生まれ変われるといいね。
それじゃ。




