メンコと管理栄養士
流行は何度も繰り返す。
スカート丈が短くなったり長くなったり、ベーゴマやヨーヨーが姿を変えて再燃し、一世を風靡した事もあった。
そしてこの世界では流行が3周半くらい回った後に、メンコが流行っていた。
主に厚紙で作られた手の平サイズの板を互いに床に打ち付け合い、相手をひっくり返したり、相手の板の下に潜り込ませたりすると勝利、という遊びだ。
負けた方はメンコを奪われる。が、友達同士なら後で返してあげたりもするし、勝負ではなく自慢のメンコをトレードし合ったりする要素もある。
これに目を付けたのがビー博士だった。かねてより子供の食事事情に頭を悩ませていた博士だったが、中でもより健やかな朝食が子供にあてがわれる仕組みを作り出すことを大きな課題としていたのだ。
博士は大金を投じて、食品を撮るだけでその栄養成分を自動で算出できる、という画期的なアプリを開発した。朝食を食べる前にカメラで撮影してもらう事で、子供たちが毎朝どれだけの栄養を摂取しているかが個別に分かるようになったのだ。
しかし、ただ分かるだけでは食育は進まない。子供たちが率先して意欲を出すための仕掛けが必要だった。
博士は玩具メーカーに依頼をして、栄養成分の五角形グラフ、その形をそっくりそのままメンコとして生成するという、自動メンコ製造機を開発してもらった。
これを各学校に設置してもらい、作られたメンコを使って子供達同士で戦ってもらう事にしたのだ。
五角形が歪な形になると生成されたメンコも歪んでしまい、ひっくり返されやすくなる。より綺麗な五角形であるほど床との設置面に隙間が出来にくく、隙のないメンコに仕上がるのだ。
エーちゃんの両親は管理栄養士だ。
両親とも輝かしい経歴を持っており、何冊もの本を書いたりメディアにも頻繁に出演していた。
エーちゃんが通う学校にもメンコ製造機があり、休み時間はクラスみんなでメンコ大会を開催していた。
エーちゃんの両親は、彼等の意地とプライドをかけてエーちゃんに最高の朝食を毎朝作っていた。
日の出る前から仕込みを始め、全て手作りで最高の食材を使用した。
一週間単位で栄養が偏ることのないよう細心の注意と綿密な計算のもとに作られた食事は、博士のアプリを持ってしても減点のしようのない物だった。
エーちゃんのメンコは完璧だった。綺麗な正五角形をしたそれは戦いに最適な重量を備えており、ひとたび打ち付ければ周囲全てのメンコがひっくり返り、また自身は床にピッタリと張り付いてしまうため、他のどのメンコもエーちゃんのそれを打ち負かすことは出来なかった。
「エーちゃん強いね!」
友達が口々に言う。
身近な友達はエーちゃんが勝つたびに一緒になって喜んでくれた。多くの男子からは畏怖の視線が向けられた。一部の女子達はエーちゃんを煙たがった。
普段は大人しく目立たないエーちゃんだったが、この瞬間、学校生活のほんの一コマだけ英雄になれたのだ。
そんなある日の事、エーちゃんの両親が交通事故で入院した。
原因は運転手である父の居眠りだった。
毎日仕事に朝食作りに多忙だった両親は、碌に食事も睡眠も取らず常に飛び回っていたのだ。
夫婦揃っての撮影の仕事が深夜に終わり、エーちゃんの朝食を作るために急いで帰宅する途中の事故だった。
幸いなことに両親とも命に別状は無く、単独事故であったため他に巻き込まれた人も居なかった。
「エーちゃんゴメンねぇ。しばらく朝ごはんは作ってあげられないの」
そう言って申し訳無さそうに謝る両親の表情は、入院前よりも生き生きとしていた。
その日を境に、エーちゃんはメンコ遊びを辞めてしまった。
学校では相変わらずメンコが流行っていた。
エーちゃんがメンコをしなくなった事で、殆どの男子と女子はエーちゃんを気にかける事は無くなった。
両親はエーちゃんの健康と学校生活の為に自身を犠牲にしていた。
そしてエーちゃんは両親の健康と生活環境の為に自身を犠牲にしたのだった。
エーちゃんは友達と絵を描いて遊んでいた。
描いた絵を友達と交換しあうエーちゃんは、楽しそうに休み時間を過ごした。
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