さいしょ
僕はある能力を持っている
それは、『考えたことと真逆のことが起きる』、というものだ
僕がこの力を自覚したのはいつからだろうか…?
あまり覚えてはいないが、人生の半分はこれと共にあったことだけは認知していた
保育園、小学校の頃は、この力を鬱陶しいとは思っていたが、生活に支障をきたすほどのことは無かった
周囲の環境も相まって、強い欲望や憎悪を抱くことは無かったからだ
この点だけで言えば僕は、幸せな環境に身を置いていたと言えるだろう
唯一、この力に感謝したのは、交通事故だろう
ある日、僕は外に出掛けていた
そして、図らずも歩道から外れ、車道に飛び出してしまったことがあった
不運にも、背後に車が迫っており、僕は本能ながらに死を覚悟した
しかし、『死を覚悟した』ために僕は助かった
真っ白な天井、血の滲んだ包帯、すぐ近くで嬉し涙を浮かべる両親たち
ああそうか…僕は助かったのか、と
………
……
…
しかし、段々とこの力を激しく拒絶し、憎むようになった
それは中学の頃。
僕は、親友と呼ぶべき友人が出来た
価値観も似て、同じ話題で笑い合い、放課後には街に繰り出した
そんな彼だが、ある日恋人が出来たらしい
中学という情緒が未成熟な年頃だけあって、僕は当然脇腹を突いて、からかった
その一方、友人とその女の子には『幸せになって欲しい』と心から願った
それが、親友の義務であり、倫理であると信じて疑わなかったからだ
だが、この思考は呪いでもあったことを僕は失念していた
数日後、友人の彼女は死んだ
理由は分からない。だが、原因は分かった
僕だ…僕が彼女を殺したんだ
僕が二人の幸せを願うあまり、それとは真逆のことが起こってしまった
数日後、クラスメートということもあり、彼女の葬儀に出席した
僕の座っていた椅子のすぐ隣には、親友の顔が映っている
その顔は、学校で見る彼のどの表情よりも、固く、悲しそうで、悲哀に満ちていた
僕は、彼と2人きりになるチャンスを見繕うと、直ぐに謝罪した
だが、『考えたことと真逆のことが起きる』なんて、非科学的なことを訴えても、当然信じて貰える訳がない
そればかりか、『いい加減なことを言うな』と一蹴されてしまった
当たり前だろう。人一人の感情で、他人の人生がどうこうなるならば、我々は何のために…彼女は何のために生きてきたのか分からなくなるからだ
それでも、僕は謝罪した
謝罪をし続ける度に、彼との思い出にヒビが入るような感覚に陥ったが、僕は止めなかった
最終的に、彼は『許す』と言ってくれたが、それが彼との最後の会話になった
………
……
…
中学を卒業した僕は、実家から片道2時間はかかる遠方の高校に進学した
地元の高校でも良かったが、今の僕には知り合いがいる環境は耐え切れそうに無かった
ましてや、かつての親友がいるなら尚更だ
僕は、中学の反省を踏まえ、人との関わりを適度な距離感で維持するようになった
人への執着は、いずれ感情を抱かせることになり、僕の心をかき乱すから
そんな僕だが、かつての友人のように彼女が出来た
数年前のデジャブを自覚しつつ、僕は彼女と上手くやった
決して執着せず、かと言って完全に離れる訳でもない
傍から見れば、僕達の関係は相当歪なものに見えたことだろう
彼女も、僕の態度を薄々感じ取っていたらしいが、それでも僕に付き合ってくれた
いつか、僕から事情を話してくれるのを気長に待ってくれていたのだ
僕には…本当に勿体無い彼女だった
そんな彼女だからこそ、完全に縁を切ることが出来なかったのだと思う
しかし、それもまた命取りになることを僕は自覚していなかった
時は過ぎ、僕たちは高校3年生になった
関係の方は良好で、互いに成績が近しいこともあって、同じ大学に進学することを誓いあった
僕は…迂闊にもまた考えてしまった
彼女と…『同じ大学に進学したい』と