1.かわってしまった友人
聞こえてきた賑わう生徒たちの声にぎくりとする。今日最後の授業を終えて、帰りのホームルームのために防魔室から教室に戻ろうとしていた私は、渡り廊下から外を見る。
戦士科の制服を着た子達がきゃっきゃと楽しそうにお喋りをしながら、本館へと向かっていた。外で実技の授業でもやっていたのだろう。体を動かしたばかりだからか、気分が昂っているらしい子たちは、落ち着きのなさからおそらく一年生だろうなと想像がついた。
若々しく明るい少年少女達を眩しく思いながら、止めていた足を動かす。今日はなんだか気だるくて、脚全体に筋肉痛のような痛みがあった。
そろそろと移動していると、運悪く戦士科の子たちの団体と合流してしまう。しかし迂回する体力も時間もないので、仕方なくできる限り端を歩くことにした時だった。
きいんと耳鳴りがして、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
あっと思ったときには、既に膝から崩れ落ち、その場に座り込んでいた。胸を押え、俯く。
どろりとしたものが体の内側を渦巻く。ぐるりぐるりとかきまざって、体外に散る。
何かが発動してしまう。押し留めることが出来ず、吐き気に近しい感覚に襲われた、と同時のことだ。
「光ちゃん!」
名前を呼ばれた。顔を上げた私の視界に飛び込んできたのは、私に手を伸ばす一人の生徒。
視線でとらえたからだろうか、ターゲットはあの子になってしまった。霧散した力が彼を襲う。
「だめっ!」
悲鳴のような私の声は無情にも響くだけで、彼は私が発した力に包まれる。
「う、…………っ!?」
苦しげに歪んだ顔は、幼く愛らしい顔をしていた。振り払うようにしてもがいた後、私の前で転ぶようにして飛び込んできて、私の顔をのぞきこんだ。
片手は私腕を掴んで、もう片手は私の顔を包む。若草色の瞳が心配そうに私を見つめていた。顔が小さくて、色白で……美少女だなぁと思う。
「…………、…………っ?」
桜色の薄い唇をぱくぱくと動かすが、声が出ていない。
内に溜まって詰まっていた力が排出されたからか、少し楽になった私は、声が出ないことにビックリしている彼女へ、ごめんなさいと素直に謝る。
「あなたに、沈黙呪いをかけてしまったみたい」
沈黙とは、言葉が封じられる状態異常のことだ。主に詠唱を必要とする魔術師や聖職者に嫌煙される。戦士科であれば武器をふるうのに困ることはないので、不幸中の幸いだったと思う。
長いまつ毛をばさばささせたながら目を瞬かせた彼女は、眉を八の字にして困ったような顔をした。
「保健室、行きましょう」
事故で負傷したり状態異常になってしまった場合は、ヒーラーである保健室の先生に直してもらうのが手っ取り早い。
よろめきながら立ち上がって、彼女に手を伸ばす。彼女は悩んだ末に私の手をとり立ちあがった。
周りにいた多数の戦士科の生徒たちは、私たちを遠巻きに見ている。近くにいた、真面目そうな女子生徒に声をかけた。
「この子、保健室につれていくわ」
びくついた女子生徒から視線を遮るように、魔術科の制服であるローブについたフードを目深にかぶる。
「担任の先生に伝えてくれる?」
「は、はい……」
返事をくれたことにほっとしつつ、私は握ったままの美少女の手を引いて保健室に向かった。
「私、魔術科二年の明本光。あなた名前は……って、言っても喋れなかったわね。ブローチからして、戦士科の一年生でしょう? こんなことに巻き込んでごめんなさい。私は闇魔術師で、安定してなくて、たまに暴発することがあるの」
保健室までの道のりで、ざっくりと自己紹介と事情を説明する。彼女は(あたりまえだけど)黙ったまま私に着いてきていた。
「見た感じ、沈黙状態だとおもうけど、ちゃんと先生に看てもらいましょう」
たどり着いた保健室は木製のドアが閉められているものの、在室中の札がかかっていた。ノックをすれば返事が聞こえる。
「失礼します」
ドアを開けて中に入ると、綺麗なブロンドとライトブルーの目の女性の先生がいる。澄んだ色の瞳はまたあなたなの、と言いたげだ。
「闇魔術が暴発して沈黙状態になってしまったみたいなので、看てもらえませんか」
私は少女の手を引っ張ったあと、離そうとするが彼女は離そうとしない。
「あの、離して?」
キョトンとしている彼女に私が怪訝そうにすれば、ハッとして私の手を離した。
やや恥ずかしそうに視線を逸らし、私に背中を押されて保健室の先生を見る。
「今日の被害者は貴方ね。どれどれ……」
先生の治癒魔法が発動する。柔らかいパステルブルーの光に包まれた……けど。
「うーん……おかしいわね」
先生の表情が曇る。首をひねり、治癒魔法を止めた。
「貴方、戦士科よね……呪いが複雑で根深いのもあるけど、浄化しきれないわ」
「えっ……」
いつもなら時間がかかることがあっても、治癒魔法で回復するのに。私が驚きの声をあげるが、先生は無視して書類を取りだした。
「通院するほどでもないけど……時間経過で薄まるかもしれないから、明日また改めて来てちょうだい。ここに学科と学年、クラスと、名前を書いてね」
事務手続きに入ったようで、美少女は先生に渡されたペンで書き物を始める。罪悪感でいっぱいである、手持ち無沙汰な私が呆然としていると、先生は私の方をちらりと見た。
「貴方は戻っていいわよ」
すぐに視線はそらされる。これはつまり、さっさと帰れということだ。私はフードを深く被り直して去ろうとする、と。
ぐんっとローブを引っ張られる感覚で足を止める。振り返れば、少女がじっと私を見つめていた。
「あの、どうしたの?」
真っ直ぐな視線にドキドキしながら訊ねると、少女は手に持っていた書類をずいっと差し出してきた。紙面に目を落として、書かれた文字を読む。
「戦士科一年二組、神城杏。杏……!?」
書類から杏へ視線を移す。杏は口をぎゅっと閉じて、うるうるした目で私を見ていた。
七年前に引っ越してしまった友人を目の前に、感極まった私も目元が熱くなっていた。
「杏! 杏なのね!」
両腕を広げ杏を抱きしめる。当時は私よりずっと目線が下だったのに、今ではほぼ変わらない。体つきは見た目よりしっかりしているかもしれない、記憶のある石鹸の香りに似た、ホワイトムスクの香りがした。
「また会えて嬉しい! もう会えないと思ってた!」
過去に両親に言われた言葉を思いだし、胸の奥がツンとする。杏は、一度は私を抱き締め返してくれたけれど、すぐに引き剥がした。
「どうした、の」
杏はすぐにペンで何かを書いて私にみせた。そこには、恥ずかしい! と書いてある。
顔を真っ赤にしている杏が照れていると分かって、私はすごく、すごく久しぶりに、声を上げて笑った。
猫足のアンティーク調のテーブルに、カラフルな焼き菓子、そして琥珀色の紅茶を二人分。きょろきょろしている杏に頬が緩んでしまいながら、借りてきた猫のように身体を小さくしている杏の対面に座った。
保健室で彼女が杏だと気付いた私は、ひとまず自分のクラスに戻るよう伝えたものの、杏は私のローブをつかんで離さなかった。結局放課後になってしまったので、仕方なく寮に連れてきたわけだ。
私の私室と気づいたからか、杏はやっと私のローブから手を離した。椅子に座るよう促せば、素直に腰をおろした。
「改めて、杏、久しぶり。六、七年ぶりかな」
私の問いに杏はこくこくと頷いた。小動物のように可愛らしい彼女は、聖職者の名家である神城家の本家のご息女であり、光属性の魔術師の名家である明本家と根強い関係にある。私は明本の分家の娘だけれど、家が近所で、歳が近いこともあって、よく彼女と一緒に遊んだ。
しかし七年前に自宅へ戻ったのをきっかけに疎遠になってしまった……彼女には体の弱い弟がいて、当時は彼の療養を兼ねて別荘暮らしをしていたらしいが、仕事の都合で戻ることになったそうだ。別れ際、しくしく泣いていた杏の顔は今でも忘れていない。そういえば、結局弟君には直接会えなかったなと思い出した。
「天音くんの体調はどう? すこしは良くなっているといいのだけれど……」
天使と見間違えそうなほど愛くるしい幼子は、身体が弱く、幼少期は窓越しでしか会うことはかなわなかった。ちなみに女の子のようにかわいいが、弟だといっていたので男の子らしい。杏は少し考えた後に、こくりと頷いた。全快ではないものの、悪くはなっていないと解釈する。
「それはよかった。それにしても……なんで、杏が戦士科に?」
跡継ぎの話まではどうなっているか知らないが、大きな教会を持っていて聖職を家業とする神城家の長女が、聖職科ではなく戦士科を選んだなんて、正直信じられないことだった。
杏はじっと私を見つめた後に、両手で私の右手を握った。
しっかりと……とても、強く。
私を見つめ続ける杏の問いに気づいた私は、笑みを作るのに必死だった。杏の手にもう片手を重ねる。
過去に両刃剣を握っていたこの手は、もう長らく、真剣に触れていない。硬かった手のひらの皮もすっかり柔らかくなり、タコも傷もできておらず、魔術科の少女らしい手になっていた。
相棒といっても過言ではない、子供用の両刃剣を持って、杏と一緒に森の中を散策していたころを思い出す。獣や魔物はもちろん、剣術に関して心得のない大の大人相手に「参りました」と言わせるほどの手腕だった。
当時の私は、最強だった。明本家の光の力をしっかり受け継ぎながらも、武器の扱いは同年代とは比べ物にならないほど。
「私ね……神隠しにあったの」
杏が首をひねる。私は話を続けた。
「杏が帰ってから、一年経ったくらいかな……数日、私は森で行方不明になった。私は何も覚えてなくて……気が付いた時には、部屋にいて、自分のベッドに寝ていたの。森の中で見つかったんですって。私の体は鉛を括りつけられたかのように重たくて、息苦しくて……体が、思うように動かなくなっていた。お医者様が言うには、何者かの呪いのせいだって。呪いが強すぎて、解呪できないんだって……。日常生活が送れるくらいには回復したの。でも、もう、昔ほど体は動かないし……私は光の力を失って、闇の力が目覚めた。元々闇属性なんて扱ったことがなかったから、今でもコントロールができなくて……だから、少しでも操れるようになるために魔術科に入った。情けない話でしょう?」
私が首を傾げて見せると、真面目に話を聞いていた杏は片手を離して私の首元に指を伸ばした。細いチェーンをつまみ上げられたのに気づいて、私はローブの中に隠れていたネックレスを取り出す。
「これ? これね、蒔白お兄ちゃんにもらったの。これのおかげで、だいぶ良くなったわ」
蒔白お兄ちゃんとは、明本家の本家の次男……つまり親戚である。四つ年上なので、お兄ちゃんと呼んでいた。
杏は顔をしかめる……思わずその表情に笑ってしまう。
「杏は、昔から苦手よね。怖いって言って……怖い人じゃないんだけどな」
幼少期の杏は、蒔白お兄ちゃんを怖がって、すぐに私の後ろに隠れてしまっていた。
杏は難しい顔をしながら、赤いペンダントトップを指でつまんで引っ張ろうとする。私は慌ててその手を止めた。
「壊れちゃうから、駄目だよ」
渋々手を離す杏は、やっぱり眉間に皺をよせていた。……可愛くないからかな。闇の力を制御するこのアクセサリーは、禍々しい赤色をしている。
「……私はもう、昔のような明るさはないけれど……また、友達でいてくれる?」
目を丸くした杏は、私の手を再度握りしめて頷き、そしてうるうるした瞳で見つめてきた。当たり前だろうといわんばかりのその視線に、なんだか、私も泣きたくなった。
「本当に送っていかなくて大丈夫? お外暗いよ?」
そろそろ寮の門限の為、杏は帰ると筆談で言った。杏も寮生活らしい。
昔、夜道をひどく怖がったので、送り届けようと提案したけれど、杏は頑なに頷かなかった。もうそんな子供じゃないと言いたげな顔をして。
「また、遊びに来てね……でも、戦士科って、訓練で忙しいのよね。そうだ、今度は泊って行ったらいいわ! 可愛いパジャマと甘くて美味しいココアを用意しておくね!」
夜なら会えるかも、名案! と思っていってみると、なぜか杏は面を食らったような顔をしていた。何か変なことを言っただろうか。昔はよく、私の家にお泊りに来ていたのに……あ、一年生だから、寮長に許可をもらえれば、お泊りができるって知らないのかも。
「門限のことを気にしてるの? 科や寮の建屋が違っても、寮長に一言伝えれば泊っても大丈夫なはずよ……科によってちょっと、ルールが違うかもしれないけ、ど」
私が話している途中で、杏が私の手を取って握り締める。
「送ろうか?」
ふるふると首を横に振る杏は、私の手を強く引っ張り寄せた。
「わ、ぷ」
杏の身体に倒れこむ結果となったが、杏が受け止めてくれる。ぎゅうと抱きしめられて、ハグを求められていたらしいと気付く。そういえば、昔よく、私にぎゅっとされると安心するって言ってたっけ。
小さいときの記憶がよみがえり、思わずふふっと笑みがこぼれる。昔は私より小さかったのに、今では私とあまり変わらないくらいの杏の背中に腕を回して、背を撫でる。
「またね、杏。いつでも遊びに来てね」
杏は数秒間をおいてから私を離す。どことなく拗ねたような顔をしつつも、くるりと身をひるがえして去っていった。
……私を離す前に、ため息のような吐息が聞こえたのは、気のせいではなかったかもしれない。
長い髪を一つに結わいてから、猫足のティーテーブルを部屋の端に退かす。それから、椅子と、ハンガーラックと、ランプなどの小物も。部屋の真ん中に広い空間を作る。
丈が長くゆったりとしたローブではなく、シャツと足首の出るズボンをはいた私は、ふうと一息つく。家具を退かすだけでも、重労働だ。既に関節が悲鳴を上げている。
場所を確保できたので、クローゼットにひっそり隠し持っている軽い模造刀を取り出した。本来なら軽すぎるが、今の私には十分だった。
一度深呼吸をした後、両手でしっかり握った両手剣を振りかぶり、一歩前に出ながら真っすぐおろす。空を切る音がする。再度振り上げては、まっすぐ下に振り下ろす、という動作を続ける。
――光ちゃん、まってよぉ!――
幼い、か弱く小動物のように愛らしい杏が、私の後ろを一生懸命ついてきていた。可愛い杏を置いて行ったりなんてしないよ。私は、杏の白くて小さくて、柔らかい手を握りしめた。もう片手では軽々と両刃剣を持ち、襲い掛かってくる獣や魔物は薙ぎ払い、杏をいじめるいじめっ子や悪い大人はみねうちにした。
あの時の私は、簡単には負けなかった。
森を自由に駆け回り、大人相手に剣の稽古をして、時には嫌々光魔法の練習や勉強もして。
分家とはいっても、明本家の一員として、それなりに期待を寄せられて育った、と思う。
あの神隠しが起きる日までは。
手に激痛が走り、持っていた模造刀が滑るようにして抜けた。振り下ろしたばかりの刀は、床にたたきつけられた。
「あ……っ」
ぶるぶる震える手を見つめ、そして痛みで悲鳴を上げる全身を自身で抱きしめる。耐えきれずその場で蹲った。
「痛、い」
思うように動かない体、肺や心臓を締め付けるような苦み、そして、全身を襲う激痛。六年がたとうとしても、呪いは弱まることなく、私を縛り付けていた。
奪われたのは健康な体だけではない。
光属性の力を失い、相反する闇の力に覆いつくされた私は、明本家の鼻つまみ者として扱われるようになった。お転婆でも微笑んで見守ってくれていた両親は、嘆き、苦しみ、私から目を背けるようになった。そして、追い出すように進学先は寮のある学校で、寮暮らしを選択させた。
「うう……」
あの神隠しは私から居場所すら奪っていったのだ。
時々闇の魔法を暴走させるので、学校でも、神に呪われた女として扱われている。家族だけでなく、生徒や先生からも距離を置かれていた。
うめき声を出すのもやっとの私は、その場で小さくなって一夜を過ごした。
――これ? これね、蒔白お兄ちゃんにもらったの――
光ちゃんの首に下がったアクセサリーは、闇の力がたまっていた。一見悪いものにも見えるが、良くなった、というのだから、症状を吸い取るような装置の可能性も捨てきれない。残念ながら魔具については知識が乏しい。
しかし、光ちゃん自身に深くまで根のはった呪いがかかっているのは間違いない。跡継ぎの道から外れたものの、聖職者としての腕がなまったわけではないのでそれくらいはわかる。通常の祈りで癒えるような容易な呪いではない……何日もかけて、呪いをかけ続けたのだろう。神隠しは数日間だったようだし……否、神隠しなんてあるわけがない。おそらく、誘拐だったのだと思う。
明本家は光を操る魔術師の名家だ。本家ではないといっても、子どもが少なかった明本家ではとても大事に育てられていた。身代金要求のために誘拐された、というのならわかるけど、金を要求されたというような話はなかったし、何よりもわざわざあんな手の込んだ呪いをかけるのも変な話だ。
……なにが目的だったんだ? もっと詳しく調べてみないとわからないな。せめて、沈黙がなければ、祈りを奉げることができたのに。
光ちゃんのことを考えながら寮の門を通る。門限ぎりぎりだ。自室には戻らず、とりあえず食事をとろうと食堂へ足を運ぶと。
「…………」
他の寮生がささっと遠ざかっている。ひそひそ声で明本の呪いにかかったんだって、という会話が聞こえた。
光ちゃんの魔法の暴走の件は、あちらこちらで広まっているらしい。何をそんなに恐れているのだか、呪いが空気感染するわけないのに、と内心あきれる。
まあ、近寄ってくれないほうが過ごしやすい。戦士科の中ではちびでひょろいため、からかいの声をかけてくる奴らのほうが圧倒的に多い。友達? なにそれ、おいしいの?
機械的にトレーに乗せられた夕食を、誰も座っていない六人席で黙々と食べる。いつも思うけど、量多すぎない? ……いや、体重、増やさないといけないんだった。踏ん張りがきいてないと体術の先生に指摘されたばかりだ。それに。
光ちゃんの身長、抜かせてなかった……!!
悔しい。結構、伸びたと思ったんだけど! 多分、ほんの一センチくらいだ。もう少しで抜かせるはず。牛乳をおかわりしようかな。
目の高さがほとんど変わらなかったことを思い出してしまい、徐々に苦しくなってきていた腹に残りの夕食をどんどん詰め込む。栄養、大事。体重だけでなく、身長も伸ばさなければならない。
やや無理をして完食したのちに、自室へと戻る。お腹がいっぱい過ぎて気持ち悪い……早く身長と体重に影響してくれるといいけど。
自室についてすぐ、シンプルな姿見で自身を映す。
華奢ない体躯、背の高さは平均を下回り、スモールサイズの制服すら余裕があるほどだ。貧相な体にため息しかでない。
でも。
光ちゃんの身体、細かったな。
自分よりずっと腰が細くて肩は丸く、何よりも、なんというかこう、全てが柔らかかった。甘いバニラのような、いい匂いがしたし。
顔が熱くなる。あまりよろしくないことを考えている気がして、あわてて頭を横に振る。
たとえ自分のほうが体つきが良くなったといっても、光ちゃんにとって「僕」は可愛い杏のままらしい。幼少期から可愛い可愛いといって僕を連れまわしていたからな。その頃からどうもイメージが変わらない様子だった。思わずため息が出る。
多分単純に、男として見られてないんだろうけれど、さすがにこの歳で異性の部屋にお泊りは、ちょっとなあ……。
次に会った時に、どう断ろうか。僕は頭を悩ませながらも、シャワーを浴びるために制服を脱いだ。
つづかない
気が向いたら続きを書きますが多分気が向かないです。
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*登場人物*
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明本光
光属性の魔術師の中では名家である明本家分家の長女。
幼少期は年の近い子の中では負け知らずの小さな剣士だった。
魔法と勉強は好きじゃないけど、そこそこできるほう。
明るく姉御肌だった彼女は、神隠しで呪いにかかり、闇属性に目覚めてしまう。
相反する属性故に明本では厄介者扱いをされ、徐々に性格も暗くなっていった。
しかし根が陽キャなので、杏と居るときは明るい表情を見せる。
蒔白と居るときは少し背伸びした女の子。
神城杏
聖職者の中では名家である神城家本家の長男。
幼少期に光にあこがれて剣士としての道を選ぶ。
跡継ぎは弟に押し付けたが、聖職者としての力はある。
剣士としての腕前は中の下か中くらい。
力は弱いがテクニックと頭で補うタイプ。
光が大好きで、可愛いではなくカッコいいといわれたいお年頃。
明本蒔白
光属性の魔術師の中では名家である明本家本家の次男。
学校では魔具を専攻しており、優秀な成績をおさめている。
既に闇属性に関する魔具の開発も手掛けている。品のある青年。
光が持っているおしゃれなものは大体蒔白からの贈り物。