-47- 兜(かぶと)の緒(お)
勝って兜の緒を締めよ・・と昔からよく言われるが、物事は勝利したあとが緩めば、瓦解するから気を引き締めなさいという訓示である。日本海海戦で勝利した東郷司令長官が艦隊を去るときの訓示が有名だが、最近の世相を見れば、与党がガタガタになっておられて実に嘆かわしい。ガタガタになったあと、兜を引き締めても、もう遅いっ! という訳だ。^^
とある町役場である。
「おいっ! ここに置いておいた万年筆、知らないかっ?」
管財課の課長、横縞が前の席に座る課長補佐、砂尾に小声で訊ねた。
「さあ? 見てませんが…」
「そうか…怪しいな。確か、デスクに置いたんだが…」
「はあ…」
置いたんなら、あるでしょ…という顔で砂尾は小さく哂った。だが、そうとは言えないから、意味なく書類のファイルに目を通す。
「前のが傷んだから、娘が誕生日にな…くれたんだ…」
「はあ…」
そんなに大事な物なら忘れないでしょ…と、砂尾は勝って兜の緒を締めよ顔で横縞をチラ見した。
「まあ、いい。そのうち出て来るだろ…」
「はあ…」
いいんかいっ! と、ニヤけたタメ口顔で、砂尾はまた横縞の顔を窺った。
その後、万年筆が出てきたのか出てこなかったのか、私は知りません。^^ 横縞課長、管財課長なら勝って兜の緒を締めよ精神で、自分の物もしっかり管理しましょう!^^
完