-21- 歳末
歳末という世相は、どうも人の動きを活発化させる傾向があるようだ。それまでグデェ~~ンと死人のように動かなかったお年寄りまでが、奇妙なことにソワソワと動き出すのである。それはそれで結構なことなのだが、どうも歳末にはそういった人々を慌てて動かす秘められたナニかが潜んでいるように思えてならない。取り分け、歳末が年の始めになったからといって時の流れが変わるというものでもないのに、である。^^ 人の動きが活発化するのは、どうも我が国独特のカルチャー[文化]なのかも知れない。
井室は欠伸をしながらウトウトと微睡んでいた。ようやく年末年始休暇に入ったというので、安心感から仕事で積もり積もった疲れがドッ! と出た訳である。
「あなたっ! なに呑気に寝てんのっ! 歳末なのよ、歳末!!」
「あ、ああ…」
ウトウトしていたことが犯罪のように妻に咎められ、井室は居眠り運転で警察の取り調べを受けているような気分でソファーから立ち上がった。
「トイレ掃除、それと二階のガラス戸を拭いてっ! 頼んだわよっ!!」
そう言うと妻はプイッ! と踵を返した。井室としては、そう邪険に言わなくても…という気分である。歳末の世相が慌ただしいのは少しも変わらんが、女は強くなった…と不満げに井室は思いながらも、イスラエル、パレスチナ自治区、ウクライナ、ロシア国民でなくてよかった…と今年の世相を振り返りながら思うのだった。
井室さん、そうですよっ! 日本は歳末を平和に暮らせる国なんですから有り難く過ごしましょう!^^
完




