第八話 腹黒令嬢は王宮へと招かれる
妹モイスヒェンが差し出したお菓子を、シュヴェアートが拒否した事で少し溜飲が下がったシャイデ。
そこに王宮からの誘いがあり……?
どうぞお楽しみください。
さて、昨日はモイスヒェンの乱入があってシュヴェアートから陛下の情報を聞き出せなかったけれど、今日は大丈夫。
モイスヒェンは婚約者のツァールトに会いに行っているので、邪魔は入らない。
いつものように門を抜けてシュヴェアートの元へ……!
「あ、シャイデ様」
「あら、貴女は確か……」
「晩餐会で給仕をさせて頂きました、メートヒェンと申します」
「あの時はありがとうございました」
「いえ、そんな……。
私に声をかけてきたのは、晩餐会で話をした侍女だった。
「すみません、少しお話ししてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、何でしょう」
王宮侍女が一体私に何の話があるのだろう……。
昨日のモイスヒェンの乱入が陛下のご機嫌を損ねた、といった事ではないのを祈りたい……。
「シャイデ様は毎日こちらに通っていらっしゃいますよね?」
「えぇ、レーレ卿に差し入れをするために……。何か問題がありましたか?」
「いえ、ハイルング子爵様のお宅と王宮はそれ程離れてはいませんが、それでも毎日となればご負担かと思います」
「いえ、それ程の事は……」
「ですのでシルト陛下に、『シャイデ様に王宮の一室を差し上げてはどうか』と申し上げましたところ、御快諾頂きまして」
「!?」
お、王宮の一室!?
つまり陛下を四六時中狙える位置にいられるという事!?
何て有能な侍女なの!?
……いえ、待って。
一も二もなく飛び付きたいところだけど、冷静になろう。
何故陛下はそこまでの配慮を?
陛下の名義で晩餐会を開いた時点で、相当シュヴェアートの事を大事にしているのは分かるけれど、あの場を見れば婚約者などいくらでも見つかるのは確実。
そこまでして私をシュヴェアートの側に置く理由がない。
一体どんな裏があるのかしら……。
「……あの、お嫌ですか?」
「い、いえ、そうではありませんが、私のような子爵の娘が許可証を頂いているだけでも特別なのに、王宮にお部屋だなんて不思議に思いまして……」
「あぁ、それなのですが……」
メートヒェンが目を逸らした。
やはり何かあるのね。
覚悟はしておかないと……。
「シュヴェアート様が朝身嗜みを整えられるようになって、そのお世話を侍女達で行うのですが……」
それはそうよね。
貴族ではないとは言え、陛下直属の護衛剣士。
翌日から見事に髪が整えられていたから、そうだと思っていたわ。
……それと私の王宮入りと何の関係が……?
「その際にそのお顔とお身体を見て正気を保てなくなる者が頻発して……」
「えっ」
何それ呪いか何か!?
顔は分かるけど、そんなに良い身体なのかしら……。
「結婚して引退した侍女を呼び戻して何とかしている状況なのですが、家庭のある身をいつまでも引き留めてはおけないという事になりまして……」
つまりシュヴェアートのお世話係という事なのね。
若干不本意ではあるけれど、それでも陛下の懐に飛び込める好機は逃すべきじゃないわ。
「それではレーレ卿の朝の身支度のお世話をすればよろしいのですね?」
「えぇ、それとあの差し入れのような食事を、シュヴェアート様に提供してもらえますか?」
それくらいならお安い御用だわ。
「承りました。それでいつから伺えばよろしいですか?」
「部屋自体はご用意できていますので、シャイデ様のご都合の良い時からで構いません。もっとも、一月先と言われると困りますが……」
「では明日からでも?」
「よろしいのですか?」
「えぇ」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ」
これでモイスヒェンの乱入もなくなるわ。
私はシュヴェアートの容姿には観賞用以外の興味はないから問題ないし。
そしてじっくりと陛下の動向を見定めて、その隙を見つける!
ふふふ、王妃の座が近付いたわ!
読了ありがとうございます。
イケメンってすごい。
僕は改めてそう思った。
次回もよろしくお願いいたします。