第七話 腹黒令嬢は人形剣士の言葉に動揺する
お待たせしました。
妹モイスヒェンを振り切って王宮へとたどり着いたシャイデ。
いつものようにシュヴェアートに差し入れを持ち込みますが……?
どうぞお楽しみください。
モイスヒェンを振り切って馬車に乗り込み、王宮へ到着した。
ここまで来れば安心だ。
王宮に入るには許可証が必要。
それは私の手にある。
「ご機嫌麗しゅう。ハイルング子爵家シャイデでございます」
「おぉ、シャイデ嬢。毎日健気な事ですな。通って良いですぞ」
「ありがとうございます」
さぁ空腹のシュヴェアートに差し入れを届けよう。
……そろそろ『陛下と普段どんな話をしているのか』くらいは聞いてみても良いかも知れない。
ここまで投資している以上、少しは利益を上げないとね。
「ご機嫌麗しゅう、レーレ卿」
「こんにちはシャイデ様」
「本日も差し入れをお持ちいたしましたわ」
「ありがとうございます」
差し出したパンと菓子を黙々と食べるシュヴェアート。
さて食べ終わったところで……。
「あの、レーレ卿」
「何でしょう」
「日頃陛下とはどのような話をなさっていますの?」
「その日の予定と翌日の予定、そして警備の配置についてです」
「……そういうのではなく、その、雑談的な……」
「雑談、とはどのような話ですか」
「えっ」
……どういう意味……?
雑談を知らない……?
そんな訳ないわよね。
陛下との会話はどれも大事だから、雑談とは呼べないという事よね、きっと。
ではその内容を聞き出すとして……。
「お姉様!」
「も、モイスヒェン!?」
何故ここに!?
許可証がないのに何故!?
「貴女、どうやって……!?」
「お姉様に忘れ物を届けに来た、とお伝えしましたら通して頂けましたわ」
どうなっているのよ王宮の警備は!
……いや、モイスヒェンの魅力の成せる技、か……。
とにかくモイスヒェンは人当たりが良い。
警戒心を持たせない、というのが正しいのか、出会う相手全てがモイスヒェンを『無害』と感じる。
このままではシュヴェアートもモイスヒェンに心を奪われて……。
「こちら、城下でも有名な『砂糖の園』で買って参りましたお菓子ですの。さぁ、シュヴェアート様、お召し上がり下さいませ」
『砂糖の園』!?
あんな高級店のお菓子をどうやって……!?
婚約者のツァールトにねだったのかしら……。
ってまずい!
お腹を空かせているシュヴェアートが高級菓子を食べたら、私の菓子など見向きもされなくなる!
何とか止めないと……!
シュヴェアートとの関係をモイスヒェンに横取りされたら、王妃への道が……!
「いえ、頂けません」
「……え?」
「貴女からの食べ物は頂けません」
「……な……!」
……意外だ。
まさかシュヴェアートが断るなんて……。
私の差し入れを口にしていたのは、単にお腹が空いていたからではないのかしら……。
信用、されているの……?
いえ、護衛として当然の警戒心よね、きっと。
でも少し嬉しい。
「こ、後悔なさいますわよ……!」
「そうですか」
これまで人から、特に男性から拒否などされた事のないモイスヒェンは顔を真っ赤にして立ち去った。
余程自尊心が傷付いたようだ。
これで諦めてくれれば良いのだけど……。
……難しいかな。
見れば見る程美形だもの……。
「何か」
「あ、いえ、私もそろそろ失礼いたしますわ」
「はい」
顔を見つめていたのを咎められたような気がして、慌ててその場を辞す。
聞こうと思っていた陛下との会話を聞き忘れた事に気付いたのは、城門を出たところでだった……。
読了ありがとうございます。
今日はちょっとだけモイスヒェンに勝ったシャイデ。
しかしこのままとはいかないようで……。
次回もよろしくお願いいたします。