第五話 腹黒令嬢はお菓子に一縷の望みを託す
昼ご飯を国王シルトと共にしようと画策し、結果シュヴェアートにパンを食べさせる事になったシャイデ。
それでも諦めず、王宮に通うシャイデの次なる策とは……?
どうぞお楽しみください。
シュヴェアートにパンを食べさせてから、昼時に差し入れを持って行くのが日課になりつつある。
シュヴェアートは私の差し入れを必ず食べる。
食べるだけ。
笑顔どころか眉一つ動かさない。
シュヴェアートが差し入れの事を陛下に話し、そこから接点を持つ計画はおそらく無理だろう。
まぁ仕方ないわよね。
毒見役とはいえ王宮の料理を常に食べているシュヴェアートにしたら、私の料理では驚きも何もないだろう。
そこで私は考えた。
陛下は甘いものがあまり好きではないと、晩餐会の侍女は言っていた。
つまり毒見係のシュヴェアートも、高級な甘いものには触れていないはず。
そこで、だ。
「レーレ卿。こちらも召し上がって頂けますか?」
「これは何ですか」
「我がハイルング領で作らせている蜂蜜菓子ですわ」
「蜂蜜菓子……」
領内の農家と養蜂家と菓子屋と額を突き合わせ、半年かけて作った特産品の蜂蜜菓子。
小麦粉と卵とバター、そして砂糖代りにふんだんに使った蜂蜜。
幸せな甘さが口に広がり、しつこくなる前に消える。
これを食べて顔を綻ばせなかった人はいないわ!
その感動を陛下に話せば、
『ほう、シュヴェアートがそこまで言うなら一つ食べてみたいものだな』
ってなるはず!
「頂きます」
「お口に合うと良いのですが……」
パンと同じように念入りに匂いを嗅ぐと、口に入れるシュヴェアート。
さぁ、反応やいかに!?
「……」
……嘘でしょ……?
全く表情が変わらないなんて……!
甘いの嫌いなのかしら……?
「あ、あの、レーレ卿……。お口に合いませんでしたか……?」
「いえ、初めて食べる味でしたので、慎重に対処しているだけです」
「対処……?」
それって毒見扱い……?
そう言えば私のパンも今回の蜂蜜菓子も、やたら匂いを嗅いでいた……。
毒でも入れていないかを確認されていたの……!?
確かに私はシュヴェアートと出会ったばかり。
手放しで信用しろと言うのは無理がある。
……理解は出来るけど腹が立つ……!
そういう事なら……!
「失礼致しました。では今後は……」
もうお持ち致しません。
そう言おうとして私は言葉を止めた。
……じゃあ何故今まで私の差し入れを食べてくれていたの?
匂いを嗅ぎながら、警戒をしながら、それでも口にしてくれたのは……。
「またお待ちしてもよろしいですか?」
「はい」
きっとお腹が空いているのよね。
「ではまた明日」
「はい」
お腹が空いている人を放ってはおけないものね。
それにここで陛下との繋がりを断つのは得策じゃない。
……急に料理を辞めたら、私が毎日料理を使っているのを見ているモイスヒェンに何を言われるかわからないし……。
私は王宮を出ると、明日作る料理に頭を向けるのであった。
読了ありがとうございます。
「いちばんいけないのはおなかがすいていることと、独りでいることだから」
今後も差し入れは続きます。
次回もよろしくお願いいたします。