第二話 妹令嬢は姉の婚約に驚愕する
シュヴェアートの爆弾発言に戸惑うも、自分の野望の為に利用する事にしたシャイデ。
姉より先に婚約者を得た事でシャイデを煽っていた妹モイスヒェンはそれを聞いて……?
どうぞお楽しみください。
……はぁ、上手く行かないものね。
あの後速やかに会は終了。
陛下はお顔を見せないまま……。
退室する令嬢達からは凄い目で睨まれたし……。
まぁ陛下との繋がりさえ作れれば、あの中から適当なのを見繕って押し付ければ良い訳だし、それは良いわ。
問題は……。
「お姉様? お帰りですの?」
「……えぇ」
「お邪魔してもよろしくて?」
「……どうぞ」
くっ、噂どころか思い浮かべただけでやって来るなんて……。
きっと今日の成果を聞いて嘲笑う気なのだろう。
そもそも私が今夜の晩餐会に行く気になったのは、
『お姉様も早く婚約を決めてくださらないと、肩身が狭うございますわ。姉を差し置いて妹だけ幸せに、なんて噂になる前に、私以上のお相手を見つけなさって』
と煽られたからだ。
あぁ、昔は可愛かったのに……。
私と違って容姿に恵まれた妹モイスヒェン。
どこに行くにも「おねえさまといっしょがいい!」って付いて回って……。
だから私はいずれ嫁ぐであろうモイスヒェンと、跡を継ぐフェストの為に、勉強を重ね、領地を回り、安定した収入が見込めるくらいまでには持っていった。
そうして家を空けている間に、何を間違ったのかモイスヒェンは嫌な性格になっちゃって……。
例えばここで部屋に入れなかったとしたら、
『まぁ! お姉様は大変ご傷心でいらっしゃるわ! お菓子でもお持ちしましょうか? それともお酒の方がよろしいかしら? ハイルング家を上げて慰めますわ!』
と大事にするに決まっている。
仕方なく扉を開けた。
「お姉様。本日の王宮での晩餐会、首尾はどうでしたの? 未婚の娘を集めた会ですもの。きっと素敵な出会いがあった事ですわよね?」
「……えぇ、まぁ……」
シュヴェアートと婚約みたいな関係にはなったけど、これは言うべきだろうか……。
きっと自分の婚約者であるツァールトと比べて見劣りがするとでも言うのだろう。
ツァールトはライヒェ侯爵家の嫡男。
温和な性格で人付き合いも良い。
何より家と領土が豊か!
金鉱持ちって反則よね……。
それと比べて陛下直属とは言え、騎士ですら無いシュヴェアート。
『お姉様ったら焦るあまり、顔だけのレーレ卿とお付き合いなさるだなんて……。申し訳ありませんわ。妹の私ばかり幸せを掴んでしまって……』
あぁ、簡単に想像できる……。
まぁ良い。
今は言わせておこう……。
王妃になった時に纏めて返してやる……!
「……シュヴェアート・レーレ卿と、その、婚約を前提にしたお付き合いをする事になって……」
「レーレ卿!? レーレ卿と言うとあの『人形剣士』の!?」
「え? え、えぇ、そのレーレ卿……」
「何故ですか!? 何故レーレ卿と婚約を……!?」
何この反応!?
いつもの全てを見下したような態度からは考えられない……。
……まさかモイスヒェンもシュヴェアートに惹かれていた……?
そうよね、あれだけ令嬢が群がるのですもの。
だとしたらこれは立場逆転かしら……?
「……ですが、あの美貌ですから、私も心惹かれるところはありますし……」
「なっ……!」
観賞用としては優秀だし。
「知りたい事も沢山ありますし……」
「そんな……!」
陛下の付け入る隙についてね。
「ですから私はレーレ卿と仲を深めていこうと思っているわ」
「そ、そんな段階でしたら、お考え直しをされてはいかがですか!?」
ふーん?
余程私とシュヴェアートが仲良くなるのが都合悪いみたいね。
ならばここは煽るだけ!
「あら? 私がレーレ卿とお付き合いするのがそんなに悪い事かしら?」
「……いえ、その……」
モイスヒェンが拳を握り締めて黙るのが気持ち良い!
もし陛下との婚約が成立した暁には、シュヴェアートをモイスヒェンに譲ってあげようかしら?
……なーんてそれは流石に底意地が悪すぎるわね。
いくら何でもモイスヒェンがツァールトを捨てるとも思えないし……。
「……とにかくまだ正式な婚約では無いのですね……?」
「え、えぇ、まぁ……」
「……なら、まだ……」
「……まだ……?」
「……失礼しますわ」
……凄い顔して出て行ったけど、え、本気……?
それとも私が婚約に至らないように邪魔する気……?
別にシュヴェアートに何のこだわりもないけど、陛下の情報を知る前に奪われるのは流石にまずい……。
シュヴェアートと最低限の関係性は保っておいた方が良さそうね……。
読了ありがとうございます。
これで形だけの関係とはいかなくなったようで……。
次回もよろしくお願いいたします。