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朝起きると恋人が馬乗りになって木刀を振り下ろしてきました

 

「ちぇすとぉおおおおおおっ!!」


「どぅわああああああああっ!?」


 ズッドンッッッ!!!! と頬を掠める形で何かが寝転がっている俺の顔の横を通り抜けていった。


 朝、目が覚めた瞬間の出来事にしては刺激的すぎないか、おい!?


「なっななっなん……ッ」


 バクバクと心臓が暴れている。半ば反射的に突き刺さった何かを目で追っていた。


 木。

 木刀。


 ギヂバキと嫌な音が耳につく。ベッドをぶち抜いて突き刺さっている? 多少は鋭くしていても木刀なわけで刃物ってわけじゃなくて叩くとか潰すとかならともかくベッドに突き刺すってそれどれだけのパワーが必要なんだ!?


 お、落ち着け。

 冷静になれ。

 余計なことは考えずに一番大事なことだけに集中しろ。


 ベッドに寝ていた俺の顔の横を木刀が掠めた。だけど本当に注目すべきは木刀自体じゃなくて『誰が』そんなことをやったかってことなんだ。


 強盗? ありふれた高校の男子学生寮を襲っても金目のものなんてあるか。これがマンションとか一軒家ならまだ適当に選んだってのも考えられるが、寮だぞ寮。学生の手持ちなんてたかが知れている。いやまあ通帳とか大量に奪って合計でそれなりの儲けにするって考えもなくはないが、どうにも学生寮を強盗が襲うってのはあんまり聞かないから一般的じゃない気がする。


 俺個人が特別な血筋とか何とかそんなもんもないしな。ごく普通のありふれた男子学生以上でも以下でもないし。


 ちなみに俺個人がどこぞのお偉いさんの隠し子とかそんなとんでも設定が俺の知らないところで判明して命を狙われている、みたいなどんでん返しまで考慮し出したらキリがないから脇に置いておくとして。


 じゃあ、なんで襲われているんだ? となるんだが、いや本当なんでだ? 木刀でベッドぶち抜くとんでもねえ奴に襲われる理由が全然わからないんだが!?


 そもそもさっきまで寝ていた俺が木刀を避けるようなことができるわけもなくて無防備だったはずだから外すほうが難しくて、それでも直撃していないってことは外れたんじゃなくて向こうが外したわけで。


 不法侵入及び木刀振り下ろし。

 そこまでやっておいて最後の最後だけ半端にやり遂げなかった理由は?


「……うそつき」


 そこで、ようやく。

 早朝、薄暗い部屋の中、俺に馬乗りになっている『誰か』の声をきちんと聞くことができた。


 まだ日も出ていないからよく見えなかったが、この声はまさか……。


「嘘つき、いじわる、死んじゃえ!! 朝霧くんのばかあっ!!」


「いや。なんっ、何を言って……っ!?」


「とぼける気!? 全部わかっているんですからね!?」


 目が慣れてきたからか、馬乗りになっている女の顔が見えてきた。


 黒髪に黒目。普段は清楚という言葉が似合う儚げな雰囲気を纏っているが、今の彼女からは明らかに普段とは違う怒気が溢れていた。


 鳳翔院楓。

 同学年の中でも一際有名な黒髪ロングの美人さん、大和撫子のようにお淑やかな学校みんなのアイドル的存在、文武両道なんでもできる絵に描いたような優等生。そして……三ヶ月ほど前からお付き合いしている生まれて初めての恋人だ。


「朝霧くん、浮気したでしょう!?」


 俺にはもったいないくらいの高嶺の花なんだが、その、どうしよう?


 もちろんぽっと出の頭のイカれた暴漢とかじゃなくてよかったが、これはこれでどうすればいいんだ!?


「二週間前の土曜日の夕方、私見たんですから! 朝霧くんが可愛らしい女の子と腕を組んで歩いているところを!! やっぱり男の人は可愛げのある女性が好みなんですか!? 無駄に大きな私は魅力的ではありませんか!? だからといって浮気だなんてひどいです!!」


「二週間前……となると、それは妹だな。中二の妹がいるって言ってなかったっけか?」


「妹、ですって? 本当に?」


「何なら会って確認してくれてもいい。それとな、俺は楓のこと誰よりも可愛いと思っているし、スレンダーな美人さんだとも思っているぞ」


「っ!? そ、そんな言葉で誤魔化せると思っているのですか!? 浮気の証拠はこれだけではないんです!!」


 僅かにたじろいだかと思ったら、何かを振り払うように木刀を引き抜いてそのまま振り上げてから楓はこう続けた。


「一週間前の土曜日のお昼頃、私見たんですから! 朝霧くんがやけに色っぽい女の人と腕を組んで歩いているところを!! やっぱり男の人は胸の大きな女性が好みなんですか!? 控えめな私は魅力的ではありませんか!? だからといって浮気だなんてひどいです!!」


「一週間前……となると、それは姉だな。大学一年の姉がいるって言ってなかったっけか?」


「姉、ですって? 本当に?」


「何なら会って確認してくれてもいい。それとな、俺は控えめなのもアリだと思うぞ」


「どっどこを見ているんですか変態っ!!」


 ズッドンッッッ!!!! と先ほどとは逆の頬を掠めるように木刀が降り注いだ。どうやら選択肢を間違ったらしい。いやでも何事も大きければいいわけじゃなくて程よいバランスがいいわけでというかぶっちゃけ楓が俺の好みど真ん中なわけだが多分ここで楓の身体的魅力について熱弁したら木刀顔面一直線な気がしないでもないので口を閉じることに。


 くそう、恋愛強者はこういう時どんな言葉で場を収めるってんだ? 付き合って三ヶ月弱の若輩者にはさっぱりだぞ。


 まあでもよかった。

 頭のイカれた強盗とか実は俺が特別な血筋の人間でどこぞの超絶お金持ちの遺産を相続する権利を持っているから先んじて消しておこうとかファンタジーに片足突っ込んだとんでも展開ではなさそうだからな。


 ……恋人に木刀で襲われるってのもそれはそれでとんでも展開なのかもだが。


「そ、そうですっ。浮気の証拠はまだあるんですからねっ」


「お、おう」


「何ですかその目は? どうせまた勘違いとでも言いたいんですか!?」


「いや、そんなことはないぞ、うん。……いや本当、うん」


「目を見て言ってくださいよお!!」


 だってよお。

 確かにうちの家族がちょっと距離が近いのが悪いんだが、それにしてもそこまで見事に勘違いしているとなると残りのも勘違いだと思うんだよな。


 なんかもうパターンに入ってきたというか、そもそも別に浮気とかしていないから楓の勘違いなのは間違いないというか、そもそもこちとら女友達とか皆無なんだぜ!? 連絡先? 片手で足りる男友達以外は全部家族のしか知らないから家族以外の女の影がチラつくわけないし! つまり登録された連絡先やら通話やメッセージの履歴やら見られても何の問題もないんだよ!! ……虚しくなってきたじゃないか、クソッタレ。


「いえ、でもこれは決定的ですよ。昨日、一日中用事があると言っていましたよね!?」


「ああ、まあ、うん」


 昨日は休日だった。つってもお互い都合があるから恋人だからといって毎回会っているわけでもなく、昨日は俺が用事があってデートとかはできなかった。


 っていうか昨日?

 まさか……。


「わ、私、見たんですからね。遠くからでしたけれど、公園で、あ、あんな、濃密に、きっききっききキスをお!!」


「ちょっ、待て待て木刀を振りかぶるな普通に死ぬから!!」


「朝霧くんを殺して私も死にますう!!」


「だあーっ!! 落ち着けって! ちなみに俺には双子の弟がいて俺なんかよりよっぽど頭がいいからここから結構遠い偏差値馬鹿高い高校に通っていて昨日はそこで付き合った彼女と一緒に会いにきたわけだがこれ聞いてどう思う!?」


 …………。

 …………。

 …………。


「へあ?」


「彼女を紹介したいっていうから会ってみたが、見るからにラブラブっぽかったからな。あいつが彼女とキスしているところでも見た感じか?」


「……っっっ!?」


 顔を真っ赤にして、言葉に詰まる楓。

 さて、これで俺の浮気疑惑が晴れたならいいんだが。


「今日まではこっちにいるって話だし、俺の言うことが信じられないなら今から会いにいくか?」


「……です」


「ん? なにか言ったか?」


「もうやだ死にますう!!」


「待て待て木刀でどうやって切腹する気だ!?」


 完全に涙目の楓が振り回す木刀をどうにか掴んで取り上げる。いっつつ。掌がじんじん痛むが、ここで顔に出したら格好悪いよな。


 しっかし、あれだ。


「悪かったな」


「どう、して、朝霧くんが謝るんですか? 悪いのは朝霧くんが浮気したと勘違いして最後まで信じきれなかった私ですのに」


「いや、事前にちゃんと説明しておくべきだったんだ。俺だって楓に兄や弟がいたとして、俺以外の男と仲良くしているところを見かけたら勘違いしていただろうしな」


「その後、木刀で殴りかかります?」


「……は、はは」


「やっぱりこんなことまでしている私が悪いんじゃないですかあ!! 話し合いもせずにこんなことまでして……こんな木刀殴りかかり女のことなんて朝霧くんも嫌いになったでしょう!?」


 嫌いに、か。

 確かにいくら恋人でも木刀まで持ち出してわちゃわちゃしてくる女はちょっと、こう、地雷なのかもしれない。俺が男友達から彼女がそんな感じだと聞いたらちょっと付き合い考え直したほうがいいんじゃないかと言ってしまいそうだ。


 その上で、馬乗りのままの楓を見上げる。


 世の中のカップルの全部が結婚までいくわけじゃない。付き合ってみたはいいが細かい好みが合わないとか思っていたのと違ったとか諸々の理由で別れることも普通にある。


 そういう意味では鳳翔院楓ってのは過度に理想的な女性だと噂されている分、付き合って距離が近くなるほど理想とは異なる素顔が見えてくることも多くてそれが別れる理由になってもおかしくないのかもしれない。


 これまで見えてこなかった一面も、『違う』と感じることも、付き合って三ヶ月でいくらでもあった。流石に木刀持ち出してしまうくらい意外と嫉妬深いことは初めて知ったけど。……もっと淡々と処理しそうな印象だったが、ここまで取り乱すのか。大概の問題は表情一つ乱さずに冷静に適切に対応しているってのに。


 学校みんなのアイドル。

 大和撫子のように清楚で完璧な理想そのものの女性。

 そんな楓の理想の仮面で覆い隠すことのない、女の子としての一面。


 だったら、うん。


 近くなればなる分だけ理想のままじゃいられない。

 世のいくらかのカップルのように、昨日好きだからといって今日も好きでいられるかどうかは別なのかもしれない。


 だから俺は真っ直ぐに楓を見つめて。

 だから俺は自分の中の想いを今一度見つめ直して。

 だから俺は迷うことなくこう言っていた。


「このくらいで嫌いになるなら初めから告白なんてしてないっての」


「で、でもっ」


「まあ、今後も似たようなことが続くってなれば違うのかもしれないが、楓は自分がやりすぎたって反省しているだろ? だったら同じことを繰り返すことはない。それくらいは付き合って三ヶ月もあれば十分わかる」


「朝霧くん……」


「とはいっても無罪放免ってのは面白くないよな」


「え……?」


「罪には罰を。そう、ここでいう罰はもちろん何でも言うことを聞くってのが定番だよなあ!?」


「何でもって、ええっ!?」


 さあ、楽しくなってきたぞう!!

 学校みんなのアイドル、大和撫子のように清楚な黒髪ロングの恋人に何でも好きなことをできちゃうってのは、うっはあっ、木刀ばんざあい!!


「さあさあ、何でもだぜ。あんなことやこんなことも何でもござれなボーナスタイム突入だっぜえ!!」


「どうしてそんな話になるんですか!?」


「そんなの好きでたまらない恋人になんでもできる絶好のチャンスが巡ってきたんだ! 普通に興奮するだろっ」


「ばっばかっ!」


 さあて、どこまでいっちゃうか。

 何せ立場は俺が上なんだ命令権は俺にあるんだもんな下手に恥じらって我慢して半端なお願いで消化不良ってのが一番もったいないからなやるならいくとこまでいくべきだよないやあ参ったなとんだ棚からぼたもちだぜっていうか今もまだ馬乗りのままってのはそういうことだよなこれはもう仕方ないよな期待に応えるのも彼氏の勤めだよなあ!!


「わかりました……」


「ん?」


「確かに今回は全面的に私が悪いんです。ですので甘んじて罰を受けましょう」


「え、うそっ、マジで!? なんでもあり!?」


「何でもではありませんっ。常識の範囲内でお願いします」


「常識……。ならこのまま初夜に突入──」


「常識の範囲内っつってんだろうが」


 ひっ!?

 ちょっ、ちょっとふざけすぎたかも。


「学生の身なのですから清く正しいお付き合いをするべきですっ。その、初夜、だなどと冗談でも口にするべきではありません。えっちな命令は絶対に駄目ですからねっ」


「じゃあキスは?」


「えっちなのは駄目だと言ったでしょう!!」


「嘘だろ今時そこらの中学生でもちゅっちゅっやっているんだが!?」


「そ、その辺りは存じ上げませんけれど、清く正しいお付き合いにおいてそのような、その、粘膜接触はなしですよ。そもそも付き合って三ヶ月程度しか経っていないのにき、キスだなんてはしたないですっ」


「ちょっと待て。ということは俺たちがキスできるのはいつになるんだ?」


 つーか粘膜接触って直接アレソレ言うよりもいやらしいな、おい。


「最低でもお互い責任が取れる年齢になるまでなので……二十歳?」


「十八歳で結婚もできるのにキスまでいくのに二十歳だと!? いや、待て……だったら初夜は!?」


「か、軽々しくそのようなことを言わないでくださいっ」


「いつなんだ俺たちはいつになったら身体を重ね合わせることができるんだ!?」


「あんまりふざけていると怒りますからね!? ……その、そういうことをするのは新たな命を育てることができるほどにお互い自立できてからになってからだと思いますので何歳と断言することはできませんけれど、二十五歳、とか?」


「お預け期間が長すぎるッッッ!!!!」


「ど、どれだけえっちなことをしたいのですか!?」


「男はそういう生き物なんだよ流石に長いよ昔の恋人のほうがもっとこうちゃっちゃとやることやっていると思うぞつーか今時避妊という便利な方法が多数確立していて学生の身でそういうことをするのも珍しくないんだが!?」


「と、とにかく、えっちなのはだめです!!」


「マジかよ……。命令の候補が三分の二はなしになったぞ」


「どれだけ頭の中えっちで埋まっていたんですか」


 うっわーマジかぁー。

 流石に初夜云々は冗談だったがもうちょっと、こう、キスとかその辺くらいはもしかしたらワンチャンという期待がまったくなかったってわけでもないわけで。もちろん嫌がる楓に強制する気はないが、初夜に至っては最低でも二十五歳までお預けかあ。そうか、二十五歳までかあ。……そこまで長い付き合いを考えてくれているんだって前向きに捉えて頑張って我慢しよう。ちくしょう。


 あれだ、その辺は仕方ないけどキスくらいはもうちょっと早くでも良くない? 無理強いはしないが、あれだ、キスまでなら向こうからしたいと思わせるのも彼氏の腕の見せ所だよな!!


 だけど、まあ。


「? 何ですか? そんなに見つめてもえっちなのは駄目ですからね?」


 いつもの調子に戻ったようで何よりだ。

 ……残念な気持ちがないってわけでもないけどな!!


「だったら、なあ楓」


「はい」


「俺のこと、名前で呼んでくれよ」


 そうだ。

 こちとらせっかく付き合えたってんで勇気を振り絞って名前で呼んだってのに楓は俺のこと付き合う前からの呼び名である『朝霧くん』のままだもんな。


 せっかくの機会だ。恋人として少しは前に進んでもバチは当たらないだろう。


「名前……ですか」


「まさか忘れちゃったとか?」


「そっそんなわけありませんっ。毎日一人で練習しているんですから……って、ああ!?」


「それって、まさか俺の名前を呼ぶ練習、か?」


 尋ねると、馬乗りになったまま何やらあわあわ両手を振り回し始めた。いやあ、改めて冷静になってみるとこうして黒髪ロングな大和撫子的美人な恋人を見上げるというのは絶景──


「何やら邪なことを考えていませんか?」


「まさかそんなわけないだろ、あっはっはっ!!」


 お、女の勘怖え。


「それより、その、朝霧くんは私に名前で呼んでほしいんですか?」


「そりゃあ付き合っているんだ。呼び方一つでも距離を縮めたいと考えるのは普通だろ」


「そうですか……ですよね……はい」


「別にどうしても嫌ってんなら無理する必要はないが」


「嫌なわけないでしょう!! そうではなくて、ですね……どうにも照れくさくて」


 と、そこでハッとして俺の上から下りる楓。

 ようやくの馬乗り状態から脱したわけで、こう、お腹の辺りにあったいい感じの感触や熱も離れていったわけで。だから、まあ、残念に思うのも仕方ないわけで。


「馬乗りのままでも全然良かったんだぞ?」


「下心が見え見えなので絶対に嫌です」


「ひどいっ」


「って、そうではなくて、その、ですね」


 ゆっくりと。

 なぜだかベッドで正座する楓。


 うーむ。最愛の恋人がベッドで正座で真剣な目で俺を見ている、と。健全な男子高校生にはちょっと目に毒だなあ!! えっちなのが禁止でなければ据え膳一直線なのに!!


 仕方がないので楓に合わせて正座してみることに。

 と、木刀持ったままなのに気づいてその辺に置いて、向かい合って、しばらくして、そして楓はこう言ったんだ。


「とうま、くん……」


「お、おう」


「当麻くんっ!!」


「おうっ!?」


 顔赤くなってないよな?

 心臓バクバクなのバレてないよな!?

 くそっ、名前を呼ばれただけでこんなにも喜んでいるんだ。これだけ惚れ込んでいたら木刀一本でどうこうなるわけもないよな。


「こんな私ですけどっ、これからもお付き合いしてくれますか!?」


 まったく。

 それは俺の台詞なんだがな。


 天の上に手を伸ばした。普通なら掴めないはずのものを奇跡的に掴み取ることができた。それを、そう簡単に手放す気はない。


 そうだ。あの日、あの瞬間、俺は楓に惚れ込んでどうしようもなくなったんだ。わざわざ寮に住む必要があるくらいには遠くの高校を目指して猛勉強するくらいにはな。


「もちろん、これからもよろしくな」


 ただ、まあ。

 こんな真面目な空気は肌に合わないわけで。


「とはいえ木刀で襲ってくるのはほどほどで頼むな。あ、夜這いというならいくらでも襲ってくれて構わないが」


「も、もうっ。当麻くんのばかっ!!」



 ーーー☆ーーー



 そんなこんなで全ては丸く収まった……はずだった。


「当麻くん……私は同じ過ちを犯すようなことはしません。ですので、ええ、この状況だけで判断することなく当麻くんのお話を直接聞きますけれど」


 一週間後。

 休日のある日、寮の外でのことだった。


 木刀は持ってないのに今にも斬り殺さんばかりの威圧感に満ちた恋人が目の前にいた。


 俺?

 客観的に事実だけを言うなら二十代のアイドルにしか見えない女の人に後ろから抱きしめられています。


「それ、浮気ですか?」


 いやまあ、あれだけ色々あったせいでうっかり説明し忘れた俺も悪いんだが、楓も間が悪いというか何というか。


「ねえ当麻。この子、もしかして彼女さん?」


「まあ、うん」


「当麻くん!! その女の人は誰なんですかッッッ!?」


 と、俺が口を開く前に後ろからガッツリホールドしている無駄に若作りな──



「どうも、当麻の母でっす☆」



 …………。

 …………。

 …………。


 楓は迅速に、綺麗に、頭を下げていた。

 未来のお養母様にとんだ無礼を申し訳ありませんっ!! という叫びがどこまでも響き渡るのだった。


 なんていうか、うん。

 もうこれ以上はないから許してほしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ以上ないから>嘘だぞ。絶対従兄弟の男の娘とか出てきて更なるカオスが這い寄るぞw
[一言] 母親のキャラが一番濃かった
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